ビル・エヴァンス・トリオ『ワルツ・フォー・デビイ』
ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビー』を聴く
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Bill Evans Trio(ビル・エヴァンス・トリオ)のアルバム『Waltz for Debby』(ワルツ・フォー・デビイ)は、ジャズピアノの歴史に残る重要な作品として広く認識されています。このアルバムは、1961年6月25日にニューヨークのVillage Vanguardで行われたライブ録音から生まれました[1][2]。

アルバムの特徴

『Waltz for Debby』は、Bill Evans Trioの最後の作品となりました。トリオのメンバーは、Bill Evans(ピアノ)、Scott LaFaro(ベース)、Paul Motian(ドラムス)で構成されていました[10]。

このアルバムの特筆すべき点は以下の通りです:

  1. インタープレイの革新性: 3人のミュージシャンの間に見られる感情的な相互作用は、時に解体されたかのように見えるほど革新的で、ピアノトリオの演奏モデルとなりました[10]。
  2. ハーモニーの使用: Evansの印象主義的なハーモニー、ブロックコード、革新的なコードボイシングの使用が特徴的です[9]。
  3. メロディラインの独立性: Evansのトレードマークである、リズム的に独立した「歌うような」メロディラインが際立っています[9]。
  4. バランスの取れたセットリスト: スタンダード曲、Evans自身の楽曲、他の作曲家のジャズ曲がバランス良く配置されています[4]。

制作時のエピソード

『Waltz for Debby』の制作には、いくつかの興味深いエピソードがあります:

  1. タイトル曲の由来: 「Waltz for Debby」は、Evansの姪であるDebbyと、ギタリストのマンデル・ロウ(Mundell Lowe)の娘Debbyの2人に捧げられた曲です[5]。
  2. 悲劇的な背景: このアルバムの録音からわずか10日後、ベーシストのScott LaFaroが自動車事故で亡くなりました。この出来事はEvansに大きな衝撃を与え、一時的に音楽活動から離れることになりました[10]。
  3. テイクの選択: プロデューサーのオリン・キープニュース(Orrin Keepnews)は、タイトル曲「Waltz for Debby」のTake 2をアルバムに選びましたが、多くの批評家はTake 1の方が優れていると考えています[5]。

参加ミュージシャン

  • ビル・エヴァンス(Bill Evans):ピアノ
  • スコット・ラファロ(Scott LaFaro):ベース
  • ポール・モチアン(Paul Motian):ドラムス[10]

発表時の反響

『Waltz for Debby』は、発表当時から高い評価を受けました:

  • AllMusicの批評家Thom Jurekは、このアルバムをEvansの作品の中でも最高のものの一つと評しています[10]。
  • All About Jazzの批評家C. Michael Baileyは、このアルバムを「史上最高のジャズライブ録音」の一つとして挙げています[10]。
  • Colin Larkinの『All Time Top 1000 Albums』第3版では、465位にランクインしています[10]。

特筆すべき点

  1. ピアノトリオの新しい形: このアルバムは、ピアノトリオの演奏スタイルに革命をもたらしました。3人のミュージシャンが、息の合ったツームワークで演奏する「平等なトリオ協力」のビジョンを体現しています[10]。
  2. LaFaroの貢献: ベーシストScott LaFaroの演奏は特に注目に値します。彼の拡張されたソロは、ベースの役割に新しい可能性を示しました[1]。
  3. ライブ録音の魅力: グラスの音や軽い会話のバックグラウンドノイズが、音楽のライブ感を高め、セットの魅力を引き立てています[4]。
  4. Evansの代表作: 「Waltz for Debby」は、Evansの最も有名な曲となり、彼のキャリアを通じて演奏され続けました[8]。
  5. ジャズスタンダードへの影響: このアルバムに収録された曲の多くが、後にジャズスタンダードとなりました[7]。

『Waltz for Debby』は、Bill Evansの音楽的天才性を示すだけでなく、ジャズピアノトリオの可能性を広げた革新的な作品として、今もなお高く評価され続けています[1][10]。

Citations:
[1] https://www.musicianwages.com/the-meaning-behind-the-song-waltz-for-debby-by-bill-evans/
[2] https://www.allaboutjazz.com/waltz-for-debby-bill-evans-craft-recordings
[3] https://www.youtube.com/watch?v=iDZN63LnxCA
[4] https://nicksvinylpicks.wordpress.com/2020/11/20/bill-evans-waltz-for-debby/
[5] https://www.jazzwax.com/2024/03/bill-evans-waltz-for-debby.html
[6] https://www.youtube.com/watch?v=Fw48N_BXI60
[7] https://trackingangle.com/music/the-best-sounding-waltz-for-debby-ever
[8] https://en.wikipedia.org/wiki/Waltz_for_Debby_(song)
[9] https://en.wikipedia.org/wiki/Bill_Evans
[10] https://en.wikipedia.org/wiki/Waltz_for_Debby_(1962_album)

アルバムレヴュー

ビル・エヴァンス(Bill Evans)の『ワルツ・フォー・デビイ(Waltz for Debby)』である。
音楽におけるリリカル(叙情的)という形容詞の意味を初めて教えてもらったのは、このアルバムだった。
世の中にはたくさんの美しくてロマンチックな歌や曲があるが、これは本当に恐ろしく美しくてロマンチックなアルバムだ。

このアルバムは1961年にニューヨークにあるヴィレッジ・ヴァンガードで2週間ほど行われたライブのできがよく、急遽、最終日の6月25日の日曜に録音された。
当日は、昼に2セット、夜に5セット行われ録音されたのだが、当時はまだ、客を呼べるトリオではなかったため、6~7割ほどしか客が入らずそのほとんどが友人や知人だったという。
そのせいか、このアルバムでは観客にちゃんと音楽を聴こうという意識が薄く、おしゃべりやしわぶき、グラスや皿の音が聞こえる。
ちゃんとしたオーディオなら地下鉄の音まで拾われているのがわかるという。
でもこれはこれで、当時のニューヨークのジャズクラブの雰囲気が伝わって結果オーライだったと思う。
最初の「My Foolish Heart」というロマンチックでスローな曲は、1949年の映画「愚かなり我が心(まんまのタイトルですね)」のサントラ。
2曲目の「Waltz For Debby」は、エヴァンスが当時2歳だったデビイという姪(兄の娘)のために書いたという。
静かなワルツで始まるが途中からグルーブしたフォービートに変わる美しい曲だ。
最後の「Milestones」は、エヴァンスとも競演したことのあるマイルス・デイヴィスの代表曲のカバー。

メンバーはピアノがビル・エヴァンス、ベースはスコット・ラファロ、ドラムがポール・モチアン。
このトリオは、ピアニストーがリーダーでドラム、ベースは脇を固めるといった従来のスタイルに対し、各々が対等にアドリブを主張し音楽を紡ぎあげていくインタープレイというスタイルをつくり、以降のジャズやピアノトリオに大きな影響を与えた。
そして、このライブの11日後に、ベーシストのスコット・ラファロは交通事故で亡くなる。

レコード会社のリバーサイドは、急遽、その追悼版としてラファロのベースプレイが目立つテイクを選び『Sunday at the Village Vanguard』を発売。
この『Waltz For Debby』はプロデューサーのオリン・キープニュースが、残ったテイクから選曲しつくられた。
だから6月25日、日曜にヴィレッジ・ヴァンガードで録音された音源は2枚のアルバムに分けて収録されることになった。
スコット・ラファロを失ったエヴァンスはなかなか、その悲しみから立ち直ることができなかった。

トラックリスト

Side 1

  1. マイ・フーリッシュ・ハート - My Foolish Heart(Ned Washington, Victor Young)
  2. ワルツ・フォー・デビイ(テイク2) - Waltz for Debby (Take 2) (Bill Evans)
  3. デトゥアー・アヘッド(テイク2) - Detour Ahead (Take 2) (Herb Ellis, John Frigo, Lou Carter)

Side 2

  1. マイ・ロマンス(テイク1) - My Romance (Take 1) (Lorenz Hart, Richard Rodgers)
  2. サム・アザー・タイム - Some Other Time(Leonard Bernstein, Adolph Green, Betty Comden)
  3. マイルストーンズ - Milestones(Miles Davis)

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