『Cheap Thrills』(チープ・スリル)は、1968年8月12日にコロンビア・レコードからリリースされた、Big Brother and the Holding Company(ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニー)の2枚目のスタジオアルバムです。このアルバムは、ジャニス・ジョプリンがリードボーカルを務めた最後の作品として知られています[2][3]。
コンセプトと音楽性
『Cheap Thrills』は、サイケデリックロックとブルースロックを融合させた作品です。当初は『Sex, Dope and Cheap Thrills』というタイトルが予定されていましたが、コロンビア・レコードの意向で変更されました[3][8]。
アルバムの特徴的な点は、ライブアルバムの印象を与えるために、スタジオ録音に観客のノイズを重ねていることです。実際には、「Ball and Chain」のみが1968年3月8日のFillmore Eastのオープニングで録音されたライブ音源で、他の曲はスタジオ録音です[2][3]。
サウンドの特徴
Big Brother and the Holding Companyのサウンドは、ジャニス・ジョプリンの力強いボーカルを中心に、サイケデリックな要素を取り入れたギターサウンドが特徴的です。ギタリストのJames GurleyとSam Andrewは、ジョン・コルトレーンやマイルス・デイビスなどのジャズミュージシャンから影響を受けており、その要素をロックに取り入れようとしていました[6]。
制作時のエピソード
アルバムの制作は1968年3月から5月にかけて行われました。プロデューサーのJohn Simonは、バンドのライブパフォーマンスの雰囲気を再現するために、スタジオ録音に観客のノイズを重ねるアイデアを提案しました[6]。
ジャニス・ジョプリンは、レコーディング中に自身の歌唱力を最大限に引き出すため、リキュールの「サザンカンフォート」を飲みながら録音に臨んだと言われています[1]。
参加ミュージシャン
- Janis Joplin(ジャニス・ジョプリン):ボーカル
- Sam Andrew(サム・アンドリュー):ギター、ボーカル
- James Gurley(ジェイムズ・ガーリー):ギター
- Peter Albin(ピーター・アルビン):ベース、アコースティックギター
- Dave Getz(デイヴ・ゲッツ):ドラムス[6]
発表時の反響
『Cheap Thrills』は商業的に大成功を収め、1968年10月にBillboardチャートで1位を獲得し、8週間(連続ではない)1位を維持しました。シングル「Piece of My Heart」もヒットし、1968年末までに100万枚近くを売り上げる大ヒットアルバムとなりました[2][3]。
しかし、批評家の反応は分かれました。Rolling Stone誌のジョン・ハーディン(John Hardin)は、「良質なロックンロールのレコーディングではない」と批判しました。一方、音楽評論家のロバート・クリストガウ(Robert Christgau)は「ジャニスの声を適切に捉えている」と評価しました[2]。
特筆すべきこと
- アルバムカバー:アンダーグラウンド漫画家のロバート・クラム(Robert Crumb)によって描かれたカバーアートは、Rolling Stone誌の「史上最も偉大なアルバムカバー100選」で9位にランクインしています[3]。
- 文化的影響:2013年、アメリカ議会図書館によって「文化的、歴史的、または美学的に重要」と認められ、国立録音保存登録簿に登録されました[2]。
- 再評価:後年、AllMusicのウィリアム・リュールマン(William Ruhlmann)は『Cheap Thrills』を「ジャニス・ジョプリンの最高の瞬間」と評し、「今日では音楽的タイムカプセルのように聞こえる」と述べています[2]。
- ジャニス・ジョプリンの転機:このアルバムの成功後、ジョプリンはソロキャリアを追求するためにバンドを離れました。『Cheap Thrills』は彼女のキャリアの転換点となった重要な作品です[2][3]。
『Cheap Thrills』は、1960年代のサイケデリック・ロックを代表する作品として、今日でも高く評価され続けています。ジャニス・ジョプリンの圧倒的な歌唱力と、Big Brother and the Holding Companyの実験的なサウンドが融合した、時代を象徴するアルバムと言えるでしょう[8]。
Citations:
[1] https://cavehollywood.com/the-2019-janis-joplin-legacy-50th-anniversary-of-big-brother-the-holding-companys-cheap-thrills/
[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Cheap_Thrills_(Big_Brother_and_the_Holding_Company_album)
[3] https://www.last.fm/music/Janis+Joplin/Cheap+Thrills/+wiki
[4] https://altrockchick.com/2014/07/21/classic-music-review-cheap-thrills-by-big-brother-and-the-holding-company/
[5] https://www.rollingstone.com/feature/janis-joplins-breakthrough-album-10-things-you-didnt-know-about-cheap-thrills-707573/
[6] https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/BigBrotherAndTheHoldingCompany.pdf
[7] https://www.hoodedutilitarian.com/2011/06/cheap-thrills/
[8] https://janisjoplin.com/news/review-big-brother-and-the-holding-company-sex-dope-cheap-thrills-review-paste-magazine
[9] https://www.theaudiobeat.com/music/big_brother_janis_joplin_lp.htm
[10] https://www.justfortherecord.co.nz/albums/big-brother-and-the-holding-company-cheap-thrills/