ピンク・フロイドのアルバム『Animals』(アニマルズ)は、1977年1月21日にリリースされた彼らの10作目のスタジオアルバムで、ジョージ・オーウェルの小説『動物農場』に触発された政治的寓話をテーマにしています。このアルバムは、社会階級や人間性を批判的に描き、音楽的にも革新性と深みを持つ作品として評価されています。
音楽性とサウンドの特徴
『Animals』はプログレッシブ・ロックの枠組みを保ちながらも、前作『Wish You Were Here』や『The Dark Side of the Moon』と比較して、よりハードで直接的なサウンドが特徴です。アルバム全体は以下のような構成になっています:
- 「ドッグ」(Dogs): 17分を超える大作で、アコースティックギターのコード・ストロークが印象的な序盤から始まり、次第にシンセサイザーやエレクトリックギターが加わる壮大な展開を見せます。犬の吠え声やトークボックスを用いたギターソロが印象的です[1][3]。
- 「ピッグス[三種類のタイプ]」(Pigs [Three Different Ones]): ハードロック調の曲で、ギターソロではトークキング・ボックスを使用し、豚の鳴き声を模倣するなどユニークな演出が施されています[2][6]。
- 「シープ」(Sheep): 静かなワーリッツァー・ピアノのイントロから始まり、一転して激しいベースラインとシンセサウンドが支配する曲へと進化します。歌詞には23詩篇のパロディが含まれ、従順な「羊」の象徴を批判的に描いています[1][6]。
アルバムは全体として暗く鋭いトーンを持ちつつも、美しい瞬間や感情的な深みも含まれています。「Pigs on the Wing」のパート1と2は短いアコースティック曲で、アルバム全体を優しく包む役割を果たしています[3][6]。
制作背景とエピソード
アルバムはロンドン北部にあるブリタニア・ロウ・スタジオで録音されました。このスタジオはピンク・フロイド自身が購入し改装した施設であり、本作が初めてここで制作された作品です[7]。録音は1976年4月から12月にかけて行われました。
本作ではベーシストでありフロントマンのロジャー・ウォーターズが主導権を握り、大部分の楽曲を執筆しました。「Dogs」だけはデヴィッド・ギルモアとの共作ですが、それ以外ではウォーターズがほぼ全てを掌握しています。一方でキーボーディストのリチャード・ライトは離婚問題など個人的な困難に直面しており、本作への貢献は限定的でした[7][8]。
また、アルバムジャケットにはバタシー発電所と空飛ぶ豚(インフレータブル)が描かれており、この象徴的なイメージはストーム・ソーガソン率いるヒプノシスによって制作されました。この豚の撮影中には風によって豚が逃げ出すというハプニングもあったそうです[4][7]。
参加ミュージシャン
- ロジャー・ウォーターズ(Roger Waters) – lead and harmony vocals, acoustic guitar on "Pigs on the Wing", rhythm guitar on "Pigs (Three Different Ones)" and "Sheep", tape effects, vocoder, bass guitar on "Dogs"
- デヴィッド・ギルモア(David Gilmour) – lead guitar, co-lead vocals, rhythm and acoustic guitar on "Dogs", bass guitar on "Pigs (Three Different Ones)" and "Sheep", talk box on "Pigs (Three Different Ones)"
- リチャード・ライト(Richard Wright) – Hammond organ, electric piano, Minimoog, ARP string synthesizer, piano, clavinet, harmony vocals on "Dogs"
- ニック・メイソン(Nick Mason) – drums, percussion, tape effects
また、「Pigs on the Wing」の8トラック版にはゲストギタリストとしてスノウィー・ホワイトが参加しています[3][7]。
発表時の反響
『Animals』はイギリスで2位、アメリカで3位を記録し、多くの国でマルチプラチナ認定を受けました。ただし、その暗いテーマや攻撃的な内容から一部では賛否両論もありました。一方で、その政治的メッセージ性や音楽的完成度から現在では高い評価を受けています[8][9]。
特筆すべき点
本作はピンク・フロイド内での力関係に変化をもたらした重要な作品でもあります。ウォーターズが主導権を握る一方で、それまで共同制作が多かったバンド内には緊張感が生じ始めました。この傾向は後続作『The Wall』でさらに顕著になります[8][9]。
『Animals』はその鋭い社会批判と革新的な音楽性によって、ピンク・フロイドのディスコグラフィーにおける重要な位置を占める作品です。そのメッセージ性と音楽的冒険心は現在でも多くのリスナーに影響を与え続けています。
Citations:
[1] https://carrollnews.org/234115/world/grants-gaff-tapes-pink-floyds-animals-reviewed/
[2] https://altrockchick.com/2019/07/03/pink-floyd-animals-classic-music-review/
[3] https://northonpoint.org/3034/opinion/animals-by-pink-floyd-a-classic-album-analysis/
[4] https://www.loudersound.com/features/rioting-bitter-acrimony-and-the-story-of-pink-floyds-unsung-masterpiece-animals
[5] https://www.loudersound.com/reviews/pink-floyd-animals-album-of-the-week-club-review
[6] https://www.pinkfloydz.com/pink-floyd-animals-from-lo-fi-to-fully-widescreen/
[7] https://en.wikipedia.org/wiki/Animals_(Pink_Floyd_album)
[8] https://ultimateclassicrock.com/pink-floyd-animals-album/
[9] https://www.thisdayinmusic.com/classic-albums/pink-floyd-animals/
アルバムレヴュー
本作は『炎~あなたがここにいてほしい』の2年後と『ザ・ウォール』の間に制作された。
全体に不穏な雰囲気の漂うアルバムである。
このアルバムの目玉は2曲目で17分オーバーにも及ぶ「dogs」だろう。
白眉は曲中の間奏でのギルモアのギターにつきる。
ここでのプレイは不安をあおるような感じで緊張感がある。
ジャケットの建物はロンドンのテムズ川沿いにあるバターシー発電所。
当初は長さ40フィート(約12メートル)の巨大なピンクの豚のバルーンを飛ばして撮影しようとしたが、撮影中に繋いでいたチェーンが外れ豚は上空2万フィートまで逃走。
ヒースロー空港を飛ぶ旅客機はキャンセル、挙句の果てイギリス空軍が出動するという騒ぎになった。
ラジオで豚を探していると発表したら、その日の夜、農家の人から「ブタを探してるのはあんたらか? うちの敷地で牛を死ぬほど怖がらせている」と連絡があったとか。
この事件でデザインを手がけたヒプノシスのオーブリー・パウエルは警察に逮捕されている。
トラックリスト
Side 1
- 翼を持った豚 パート1(Pigs on the Wing 1) - 1:25
- ドッグ(Dogs) - 17:03
Side 2
- ピッグス[三種類のタイプ](Pigs[Three Different Ones]) - 11:25
- シープ(Sheep) - 10:25
- 翼を持った豚 パート1(Pigs on the Wing 2)- 1:23