リー・オスカー『約束の旅』

リー・オスカーのデビュー作『Lee Oskar』(1976年)は、バンドWARで築いたファンク/ラテン/ロックのイメージとは少し違う、抒情とポップセンス、そしてベイエリア由来のラテン・グルーヴが絶妙に溶け合ったインスト主体のアルバムです。
背景とコンセプト
デンマーク出身のハーモニカ奏者リー・オスカーは、エリック・バードンとの共演をきっかけにアメリカ西海岸のシーンに入り、やがてWARのメンバーとして「Low Rider」などのヒットで強烈な存在感を示します。
その彼が1976年に発表した初ソロ作が『Lee Oskar』で、ジャンルとしてはR&B/ジャズ/ファンク/フュージョンが交差する、いわば「境界線上のポップ・インスト作品」と位置づけられています。
英語圏のレビューでは、このアルバムを「カテゴリー化を拒む音楽」「ヨーロッパ的な叙情とフォーク感覚、ジャズ、イージー・リスニング的な耳当たりを併せ持つが、“縁側のBGM”に収まりきらない一枚」と評しており、「ポップ・ジャズとインストR&Bの心地よいコレクション」とまとめる声もあります。
つまり、コンセプトとしては“ハーモニカをフロントに据えたポップ・インスト作品”でありながら、単なるBGMではなく、メロディとグルーヴでじわじわ効いてくる「情感のアルバム」と言えます。
音楽性とサウンドの特徴
音楽的な骨格は「ポップ・ジャズ+インストR&B+ベイエリア風ラテン・ファンク」です。
- ハーモニカを「サックス的なホーン」として扱うアプローチ
後年のコンピ盤レビューでも、オスカーのハーモニカは「しばしばホーンのようなサウンド」「常にスムーズでフォーカスの定まった音色」と評されており、このソロ1作目にもその特徴が色濃く出ています。 - ラテン・グルーヴとベイエリア・ファンク
日本語のレビューですが、英語ソースと照らしても妥当な整理として、「リズムがベイエリアらしいラテン・グルーヴ」で、ファンクを期待しても満足できる内容と評価されています。 - 叙情的でポップなメロディ
WARで見せるストリート感とは対照的に、本作では「抒情的でポップ」という側面が前面に出ており、メロディラインがとにかく歌心にあふれている点が強調されています。
サウンドとしては、エレピやストリングス的なキーボード、まろやかなギター、パーカッションが柔らかくグルーヴを刻む上に、ハーモニカが“歌う”ように乗る構図です。音のレイヤーは厚いのに、聴感上は抜けがよく、当時のフュージョン〜AOR的な空気をまといつつも、オスカー固有のラテン・ファンク感がうっすら漂っています。
制作と参加ミュージシャン
英語圏の情報では、本作は基本的にWAR周辺とベイエリアの腕利きミュージシャンたちがバックを固めているとされています。
特に重要なのが、元Sly & The Family Stoneのドラマー、グレッグ・エリコの存在で、彼はこのアルバムで演奏に加え、プロデュースも担当しました。
- グレッグ・エリコ:プロデュース、ドラムス、ギター、パーカッションなどを兼務し、全体のグルーヴとサウンドデザインを統括。
- バックバンド:WARのメンバーや中期スライ人脈を含むベイエリアのスタジオ・ミュージシャンたちが、ラテンとファンク、ジャズを自然に行き来するリズムを支えています。
英語レビューでは細かな録音エピソードまでは多く語られていませんが、「ベイエリアのグルーヴ感に支えられながらも、全体としては“イージーリスニングに転びそうで転ばない”絶妙なラインをキープしている」と評価されており、これはエリコのプロデュース・センスとオスカーのメロディ志向がうまく噛み合った結果と考えられます。
収録曲の構成と聴きどころ
いくつかのパートは、環境音やSEを用いた“組曲的構成”になっており、オープニングから「一体これから何が始まるのだろう」という期待感を演出する、と評されています。
A面の冒頭3曲は、都市の喧騒のようなSEで繋がれる小組曲になっており、その中の楽曲は日本では化粧品CMに採用されて話題になったこともありました。
アルバム全体のトーンとしては、
- 前半:ポップで明るいが、どこか郷愁を帯びたメロディが続く
- 後半:より長閑でスロウなナンバーが増え、パーカッションの効いた「ゆったりしているのにファンキー」な楽曲が配置される
という流れです。長閑なナンバーでも、ティンパレスなどのパーカッションがしっかりとグルーヴを生んでいるため、単なるスムースジャズやBGMに収まらない「腰の座った心地よさ」があると評されています。
トラックリスト
Side 1
- I Remember Home (A Peasant's Symphony)
- The Journey - 8:03
- The Immigrant - 3:52
- The Promised Land - 3:56
- Blisters - 2:33
Side 2
- BLT - 3:33
- Sunshine Keri - 4:03
- Down The Nile - 4:06
- Starkite - 7:03
発表時の反響と評価
英語圏の資料は、チャート成績よりも「ソロキャリアの出発点としての意義」に重点を置いて語っています。AllMusic系のレビューでも、このセルフタイトル・デビューは「リー・オスカーのソロキャリアが“楽しく”、好感の持てる形でスタートした作品」とポジティブに位置づけられています。
また、後年リリースされたベスト盤のレビューでは、「数曲はボーカルやSE(鳥のさえずりや水音など)の導入部のせいで少し時代を感じさせるが、音楽そのものは今でもクールで、弾むような躍動感に満ちている」と評されており、初期ソロ曲の多くが時を経てもなお魅力を保っているとされています。
このことから、『Lee Oskar』収録曲も含めた70年代ソロ作品は、現在の耳で聴いても十分に楽しめる「ファンキーで陽性のインスト」として評価されていると考えてよさそうです。
特筆すべきポイント
- ジャンル越境型の“ポップ・インスト”デビュー作
R&B、ジャズ、ファンク、ラテン、フォーク的叙情を自然に混ぜ合わせ、カテゴリーを超えたインスト・アルバムとしてスタートを切ったことは、英語レビューでも「カテゴリーに収まりきらない」と語られるほどの特徴です。 - ハーモニカの“ホーン楽器化”というコンセプト
オスカーのハーモニカは、ソロキャリア全体を通じて「サックスやトランペットのように振る舞う」スタイルで一貫しており、それはベスト盤レビューでも再三触れられています。
『Lee Oskar』は、そのコンセプトが長編アルバムとして最初に全面展開された作品であり、「ハーモニカ=ブルース・ハープ」という固定観念を崩したという意味で非常に重要です。 - ベイエリア・ファンクとWAR人脈の橋渡し的作品
プロデューサー/ドラマーとして参加したグレッグ・エリコを中心に、ベイエリアのミュージシャンとWAR人脈が集結していることは、後続作『Before the Rain』にも通じる「リー・オスカー流ファンク・フュージョン」の原型と見ることができます。
つまり、このアルバムは、後に続く『Before the Rain』や『My Road / Our Road』といったソロ作品群の“設計図”になっているのです。 - “イージーリスニング一歩手前”のバランス感覚
英語・日本語双方のレビューが一致して指摘するのが、「イージーリスニング的な耳当たりの良さ」と「ベイエリア・ファンク的なグルーヴ」の絶妙なバランスです。
どちらか一方に振り切らないことで、昼下がりのBGMにも、レコード棚を眺めながらじっくり聴くにも耐えうる“二重焦点的”な作品になっている点は、レコード・コレクター的には大きな魅力だと思います。
全体として、『Lee Oskar』はWARの派生作品という枠を超えた、“ハーモニカ主役のポップ・ジャズ/インストR&Bアルバム”として、今聴いても十分新鮮さを保っている一枚です。
ベイエリアのラテン・ファンクの匂いと、北欧出身ならではの抒情が同居しているところに、レコードでじっくり味わいたくなる独特の余韻があるように感じます。
レビュー
リー・オスカー(Lee Oskar)といえばハーモニカの名手。
当時、彼が所属していたファンクバンドのウォー(War)と制作したソロアルバムが『約束の旅(Lee Oskar)』です。
レコードプレイヤーがないために二十数年、ずっと聴けずに眠りっぱなしのレコードでした。
一月ほど前、行きつけのレコードをたくさん置いてあるバーでそんな話を自分より一回りは若いマスターとしていた。
「それなら持ってきてもらえれば聴けますよ」とマスター。
「じゃぁ、せっかくなので夏っぽいもの選んで何枚か持ってくるよ」とわたし。
一週間後、バーに持っていって聴かせてもらった中の1枚がこのリー・オスカーというハーモニカプレイヤーのアルバム。
ブルースハープではなくハーモニカというのがピッタリのアーティストだ。
覚えている人は、そう、多くはないと思うけど発売当時、資生堂のCMで使われ日本でもかなりヒットした。
クレジットを見ると1976年とあるので今から34年前。
当時の記憶はないが自分は中学生。
思えば当時の小遣いでLPレコードを買うというのは相当、思い切った買い物だったはず。
二十数年ぶりに聴かせてもらって「中学生でこんな渋いレコードを買うなんて、我ながらたいしたもんだ」と自画自賛。
センチメンタルだけど、Warというファンキーなバンドなのでリズムは、かなりグルーブしている。
Warは、元アニマルズのエリック・バードンを中心に結成されたファンク・バンド。
しかし、エリック・バードンはアルバムを1枚だけ制作し脱退。
郷愁を誘うハーモニカのメロディが遠い昔を想いおこさせる。
夏も終わりだけど、暑さがやわらいだ夕暮れには本当にピッタリの一枚です。
ちなみにハーモニカが好きならトゥーツ・シールマンスもおススメです。

[Citations:]
https://historicalalbumsdatabase.wordpress.com/2021/04/22/lee-oskar-lee-oskar-1976/
https://note.com/mizoko/n/na83cf56627ab
https://www.allaboutjazz.com/the-best-of-lee-oskar-lee-oskar-avenue-records-review-by-robert-spencer
https://note.com/calm_phlox701/n/n5865a3091ee5


