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愛奴『愛奴』

愛奴『愛奴』
愛奴『愛奴』

愛奴(あいど)のアルバム『愛奴』は、1975年の空気と若いバンドの情熱がそのまま封じ込められたような、瑞々しくも野心的なデビュー・アルバムです[1]。

コンセプトと制作背景

『愛奴』は、吉田拓郎のバック・バンドとして全国ツアーをまわっていた愛奴が、その合間を縫って録音した1stアルバムで、デビュー・シングル「二人の夏」と同時発売されました。 作曲はメンバーそれぞれが担当しつつ、全曲の作詞を浜田省吾が一手に引き受けている点に、このバンドのコンセプトがよく表れています。 ロックバンドとしての一体感と、ソングライター浜田省吾の世界観をひとつのパッケージに収めようとする意志が、アルバム全体を貫いています[2]。

制作は決して順風満帆ではなく、ツアーの合間の限られた時間を使ったレコーディングは初日8時間かけても1曲も録れなかったほど難航しました。 浜田自身も「初めてヘッドフォンをして歌って、自分があまりに音痴で愕然とした」「自分のドラムは持っていなかったのでレンタルを使っていた」と回想しており、プロの現場で自分たちの未熟さと真っ向から向き合いながら作り上げた作品だったことがうかがえます。 完成時には「自分たちこそが最高だ」と信じていたものの、同時期にデビューしたシュガー・ベイブやセンチメンタル・シティ・ロマンスのアルバムを聴いて大きなショックを受けたというエピソードも、このアルバムに漂う初々しい自負と焦燥を象徴していると言えるでしょう[1]。

参加ミュージシャンとバンドの姿

当時の愛奴のメンバーは、青山徹(ギター/ボーカル)、町支寛二(ギター/ボーカル)、山崎貴生(キーボード/ボーカル)、高橋信彦(ベース)、浜田省吾(ドラムス/パーカッション/ボーカル)という布陣でした。 高橋を除く全員がソングライティングとボーカルをこなすことができる、多才なメンバーが集まったバンドだったと評されています。 町支・山崎・高橋の3人は高校時代から同じバンドで活動しており、その頃からすでに素人離れしたコーラス・ワークを聴かせていたという証言もあり、後の愛奴サウンドの重要な基盤になりました[1]。

曲ごとのクレジットを見ると、「愛奴のテーマ」「初夏の頃」「二人の夏」「あの娘は僕の大事なべぇぃびぃ」「夢にいざなえ」「恋の西武新宿線」といったキートラックを浜田が作曲し、「春の日に」は青山、「君がいれば」「愛するお前に」「雨模様」は山崎、「もうすぐ五月 外は雨」「去りし友よ」は町支が作曲しています。

トラック・リスト

Side 1

  1. 愛奴のテーマ - 3:25
  2. 初夏の頃 - 3:07
  3. 春の日に - 2:14
  4. 二人の夏 - 3:48
  5. 君がいれば - 2:19
  6. 愛するお前に - 6:14

Side 2

  1. 雨模様 - 3:47
  2. あの娘は僕の大事なべぇぃびぃ - 2:55
  3. 夢にいざなえ - 2:44
  4. 恋の西武新宿線 - 4:07
  5. もうすぐ五月 外は雨 - 3:24
  6. 去りし友よ - 3:25

音楽性とサウンドの特徴

音楽的には、ビーチ・ボーイズなど60年代アメリカン・ポップスのエッセンスを散りばめたポップな楽曲から、ブルース、ロックンロール、ボサノヴァ風のナンバーまで、非常にバラエティに富んだ内容になっています。 デビュー・シングルとなった「二人の夏」は、当時としては斬新なビーチ・ボーイズ風のハーモニーを導入したポップ・チューンで、バンドの方向性を象徴する1曲です。 一方で「あの娘は僕の大事なべぇぃびぃ」にはロックンロールの勢いがあり、「夢にいざなえ」ではボサノヴァ風のリズムに乗せたファルセット・ボーカルが試みられるなど、若いバンドが持ちうるアイデアを全方向に展開したような印象があります[3]。

サウンド面での最大の特徴は、町支を中心とする厚く美しいコーラス・ワークです。 当時から「今の若いバンドでは真似できないほど厚く、きれいなコーラス」と評されており、シングル「二人の夏」を含むいくつかの曲では、リード・ボーカルとコーラスの掛け合いがアレンジの要になっています。 ビートルズやビーチ・ボーイズの影響を受けたポップなメロディと、アメリカ系ロックバンドの硬質なバンドサウンドを志向した演奏が同居している点も、『愛奴』というアルバムの独特の魅力です[4]。

また、全曲の歌詞を浜田が書いていることにより、若さゆえのストレートな恋愛感情や、季節感のある情景描写がアルバムを通して一貫しているのも特徴です。 「初夏の頃」「春の日に」「もうすぐ五月 外は雨」など、タイトルからして季節と天候が重要なモチーフになっており、後年の浜田作品にも通じる叙情性の萌芽を見ることができます[3]。

制作エピソードと「幻のアルバム」という評価

レコーディングは、吉田拓郎のツアーの合間に進められ、スケジュール的にも精神的にもタイトな状況でした。 浜田は、ヘッドフォン越しに聴く自分の歌やドラムの拙さにショックを受けつつも、限られた経験と時間のなかでなんとか形にしていったと語っています。 こうした試行錯誤のなかで生まれたアルバムでありながら、完成した作品に対してはバンドとして大きな自信を持っていたことからも、当時の彼らの熱量と手応えの大きさが想像できます[1]。

一方、市場での評価という点では、このアルバムは大ヒットには至らず、後に「幻のアルバム」と呼ばれるほど入手困難な作品となりました。再発CDでようやく聴けるようになったものの、オリジナルLPはコレクターズ・アイテム的な扱いを受けており、愛奴というバンド自体も、その後の浜田省吾の成功によって逆照射される存在になっています。 デビュー後まもなく浜田はバンドを脱退し、翌年の2ndアルバムを経て愛奴は解散してしまうため、この1stは「浜田省吾の原点」であると同時に、「短命なバンドが残した貴重な記録」という二重の意味で語られることが多い作品です[5]。

なお、本作の最終曲「去りし友よ」の演奏後には、隠しトラックとして「雨上りのぶるーす」の一節が収録されており、後年のコンピレーション『AIDO Complete Collection』でもその構成が踏襲されています。 70年代半ばの日本のロック/ポップス・アルバムとしては、こうした遊び心のある構成も比較的早い例に属すると言えるでしょう[1]。

ジャケットデザインとビジュアル面

『愛奴』のジャケットは、内容と同様に少し複雑な経緯を辿っています。オリジナルLP発売時のジャケット写真については、ディレクターの蔭山敬吾が別案を提示していたものの、最終的にはメンバー自身が選んだカットが採用されました。 しかしミーティングの場で、デザイナーの田島照久がその写真を「良くない」と評していたことを浜田はよく覚えており、田島も浜田が自分に同意していたと後に語っています[1]。

その後、1982年の再発盤では田島照久が新たにデザインを行い、ジャケットは差し替えられました。 現在CDで流通しているのはこの再発時のデザインであり、オリジナルLPのジャケットは浜田のソロ・アルバム『初夏の頃〜IN EARLY SUMMER〜』のCD-EXTRA機能で見ることができるものの、愛奴関連のコンピレーション『AIDO Complete Collection』では再発後のジャケットのみが紹介されるにとどまっています。 ブログの証言でも、CD再発のジャケットがLP時代とは異なることが指摘されており、ビジュアル面でもオリジナルLPはマニアックな「探し甲斐のある一枚」となっています[2]。

発表時の反響と後世的評価

当時、シングル「二人の夏」と、後に2ndシングルとなる「恋の西武新宿線」は、レコード会社の社外モニター制度で40〜45%という高い評価を得ており、ヒットの可能性を十分に秘めた作品と見なされていました。 実際のチャート上の大ブレイクには至らなかったものの、ポップで洗練された楽曲と高度なコーラス・ワークは、後年になって再評価される素地をすでに備えていたと言えるでしょう[3]。

現在では、『愛奴』は「浜田省吾の音楽シーンへの記念すべきデビュー作」であり、「メンバーそれぞれの原点が垣間見える作品」として語られています。 浜田が後年セルフカバーした「初夏の頃」「夢にいざなえ」「恋の西武新宿線」などを聴き比べると、ソロ期の円熟したサウンドと並べてもなお、愛奴版のフレッシュなバンド感と分厚いコーラスに独自の魅力があることがよくわかります。 愛奴というバンド名を冠したこのアルバムは、70年代日本ロック/ポップスの一隅で密かに輝き続ける、知る人ぞ知る重要作と言ってよいのではないでしょうか[6]。

Citations:
[1] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%84%9B%E5%A5%B4_(%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0)
[2] https://www.kiokunokiroku.jp/artist/000191
[3] https://ameblo.jp/masayuki06-24/entry-12603312432.html
[4] http://fansite405x3.web.fc2.com/album_aido.htm
[5] https://store-tsutaya.tsite.jp/search/item/rental_cd/20100969/000224514
[6] https://musicave.exblog.jp/2441623/

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