トミー・フラナガン『エクリプソ』

Tommy Flanagan『Eclypso』のコンセプトと音楽性
『Eclypso』(エクリプソ)は、ピアニストのトミー・フラナガン(Tommy Flanagan)が1977年に録音し1980年にリリースされたトリオ・アルバムで、ベーシストのジョージ・ムラーツ、ドラマーのエルヴィン・ジョーンズと共演した作品です[1][7][12]。アルバムタイトルの「Eclypso」は、“Eclipse”(日食・月食)と“Calypso”(カリブ海発祥の音楽)を掛け合わせた造語であり、フラナガンらしい言葉遊びと音楽的ユーモアが込められています[8][10]。
このアルバムのコンセプトは、ビバップの伝統を基調としつつ、フラナガン自身のオリジナリティとトリオのインタープレイを前面に押し出すことにあります。特にタイトル曲「Eclypso」は、カリプソ風のリズムとシンプルなハーモニーを持つ一方、AセクションはII-V-I進行を中心に、ブリッジでは転調を交えた構成となっており、ビバップの語法をカリブ音楽のリズム感と融合させた意欲作です[2][8]。
サウンドの特徴
音楽性とサウンド面では、フラナガンのピアノは明快なタッチと滑らかなフレージング、そして知的なソロ構築が際立ちます。左手のコンピングはビバップ時代の伝統を受け継ぎ、ドミナント・コードではオクターブと7度、トニックでは6度を多用するなど、クラシックなバップ・スタイルを堅持しています[2]。
エルヴィン・ジョーンズのドラムは、冒頭からパワフルかつダイナミックで、フラナガンのピアノに強い推進力を与えています。ジョージ・ムラーツのベースは、リズムセクションをしっかりと支えつつ、ピアノとドラムの間を柔軟に繋ぎ、トリオ全体が一体となって“呼吸する”ようなアンサンブルを生み出しています[4][9]。
特に「Eclypso」では、Aセクションでカリプソのリズム、ブリッジでスウィングに切り替えるなど、リズムの多様性も魅力です。フラナガンのソロは、8分音符や16分音符、3連符を自在に組み合わせ、バリー・ハリスが語る“英語は3連符で話す”というリズム感覚が随所に現れています[2]。
収録曲と参加ミュージシャン
収録曲は以下の通りです[1][7]:
Side 1
- Oleo(ソニー・ロリンズ)
- Denzil's Best(デンジル・ベスト)
- A Blue Time(タッド・ダメロン)
- Relaxin' at Camarillo(チャーリー・パーカー)
Side 2
- Cup Bearers(トム・マッキントッシュ)
- Eclypso(トミー・フラナガン)
- Confirmation(チャーリー・パーカー)
参加ミュージシャン:
- トミー・フラナガン(Tommy Flanagan):ピアノ
- ジョージ・ムラーツ(George Mraz):ベース
- エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones):ドラム[1][7][12]
このトリオは、デトロイト時代からの旧友ジョーンズと、1970年代から共演を重ねてきたムラーツという、フラナガンにとって理想的なメンバー構成でした[6][9]。
制作時のエピソード
本作の録音はニューヨークのスタジオで1日で行われたとされ、非常にリラックスした雰囲気の中で進行しました。フラナガン自身も「ほとんどの曲は2テイク以内、多くは1テイクで録音した」と語っており、トリオの自然な一体感と即興性がそのまま記録されています[9]。
このセッションは、プロデューサーのマティアス・ヴィンケルマンが“デトロイト時代以来の旧友”であるエルヴィン・ジョーンズとフラナガンを約20年ぶりに再会させる目的で企画されました。ムラーツは当時ニューヨークでフラナガンと共演していたことから、自然な流れでトリオが結成されました[9]。
発表時の反響と評価
『Eclypso』はリリース直後から高い評価を受け、フラナガンの“ハードバップの名手ぶり”や“トリオの相互作用の素晴らしさ”が各誌で賞賛されました。AllMusicのロン・ウィンは「フラナガンのラインやフレージング、創造的なソロ、そしてムラーツとジョーンズとのインタラクションが絶賛された」と評しています[7]。また、業界でも1977年のグラミー賞にノミネートされるなど、音楽業界内でも高く評価されました[9]。
特筆すべき点
- タイトル曲「Eclypso」は、フラナガンの代表的オリジナルであり、自身も生涯にわたり何度も録音・演奏し続けた愛奏曲です[8][10]。
- 即興性と遊び心:フラナガンはソロ中に他曲の引用(例:「Jeepers Creepers」やショパン「幻想即興曲」など)を巧みに織り交ぜるなど、ウィットに富んだ演奏が特徴です[2]。
- トリオの一体感:エルヴィン・ジョーンズのエネルギッシュなドラムとムラーツの柔軟なベース、フラナガンの知的かつスウィンギーなピアノが、三位一体となって“呼吸するような”アンサンブルを実現しています[4][9]。
- ビバップとカリプソの融合:伝統的なビバップの語法にカリプソのリズム感を取り入れた点は、フラナガンならではの独自性です[2][8]。

まとめ
『Eclypso』は、トミー・フラナガンの音楽的成熟と、トリオのインタープレイの妙が結実した傑作です。ビバップの伝統を受け継ぎつつも、フラナガン独自のユーモアと知性、そしてリズム感が随所に光る内容で、ピアノ・トリオの名盤として高く評価されています。
Citations:
- https://en.wikipedia.org/wiki/Eclypso_(album)
- https://jasonlyonmusic.com/2013/08/19/transcription-tommy-flanagan-on-eclypso/
- https://jazzjournal.co.uk/2020/04/16/tommy-flanagan-flanagans-shenanigans/
- https://londonjazznews.com/2021/08/23/52-jazz-tracks-for-2021-34-eclypso-tommy-flanagan-trio-1977/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Confirmation_(Tommy_Flanagan_album)
- https://concord.com/artist/tommy-flanagan/
- https://www.allmusic.com/album/eclypso-mw0000095665
- http://jazzclub-overseas.com/tribute_tommy_flanagan/tunes2006mar1.html
- https://thejazztome.info/tommy-flanagan-ballads-blues/
- http://jazzclub-overseas.com/tamae/category/%E3%83%88%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%90%8D%E6%BC%94%E7%9B%AE/
- https://www.jazzmessengers.com/en/3445/albums-of-tommy-flanagan
- https://en.wikipedia.org/wiki/Tommy_Flanagan_discography
- http://toppe2.web.fc2.com/Tommy_Flanagan/Eclypso.html
- https://kubo.sakuraweb.com/wp/archives/category/t/tommy-flanagan/page/3
- http://kubo.sblo.jp/article/185771999.html
- https://ultra-shibuya.com/products/4526180507819
- https://senri-fm.jp/2016%E5%B9%B47%E6%9C%8830%E6%97%A5%E5%9C%9F%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E6%98%87%E3%81%AE%E4%B9%BE%E6%9D%AF%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95/
- https://urarakaaudio.com/tommy-flanagan-trio-eclypso/
- https://secondhandsongs.com/work/203823/all
- https://www.discogs.com/ja/release/2766833-Tommy-Flanagan-Trio-Eclypso
- https://www.discogs.com/release/5995235-Tommy-Flanagan-Trio-Eclypso
- https://doteirecords.com/product/tommy-flanagan-trio-%E2%80%8E-eclypso-bt-5313/
- http://metis.lti.cs.cmu.edu:8888/wikipedia_en_all_maxi_2022-05/A/Eclypso_(album)
- https://www.discogs.com/ja/master/425474-Tommy-Flanagan-Trio-Eclypso
- https://www.organissimo.org/forum/topic/16777-tommy-flanagan/