ウェス・モンゴメリー『フル・ハウス』

ウェス・モンゴメリー『フル・ハウス』
ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)『フル・ハウス』(Full House)

『Full House』(フル・ハウス)は、Wes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)が1962年6月25日にカリフォルニア州バークレーのジャズクラブ「Tsubo」で録音した、彼にとって初のライブ・アルバムです[7][14]。

『Full House』のコンセプトと制作背景

この作品は、ジャズ・ギターの真髄をライブで捉えることを意図しており、即興演奏のスリルや会場の熱気、そして一度きりの音楽的対話を記録することに重きが置かれました[2][3]。プロデューサーはリバーサイド・レコードの創設者オリン・キープニュース(Orrin Keepnews)。彼はモンゴメリーと当時のマイルス・デイヴィス・トリオ(ウィントン・ケリー、ポール・チェンバース、ジミー・コブ)に加え、テナーサックスのジョニー・グリフィンを組ませ、最強のクインテットを結成しました[8][13][14]。

参加ミュージシャン

  • ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery):ギター
  • ジョニー・グリフィン(Johnny Griffin):テナーサックス
  • ウィントン・ケリー(Wynton Kelly):ピアノ
  • ポール・チェンバース(Paul Chambers):ベース
  • ジミー・コブ(Jimmy Cobb):ドラムス

このリズムセクションは、マイルス・デイヴィスの黄金期を支えた伝説的な面々であり、そこにグリフィンの熱量が加わることで、ライブならではの緊張感と一体感が生まれました[3][8][14]。

トラック・リスト

Side 1

  1. Full House(Wes Montgomery) – 9:14
  2. I've Grown Accustomed to Her Face(Alan Jay Lerner, Frederick Loewe) – 3:18
  3. Blue 'n' Boogie(Dizzy Gillespie, Frank Paparelli) – 9:31

Side 2

  1. Cariba(Wes Montgomery) - 9:35
  2. Come Rain or Come Shine(Johnny Mercer, Harold Arlen) – 6:49
  3. S.O.S.(Montgomery) – 4:57

音楽性・サウンドの特徴

『フル・ハウス』は、モンゴメリーのオリジナルとスタンダードをバランスよく配置し、バラード、ブルース、ビバップ、ラテンと多彩なスタイルを網羅しています[2][3][14]。

  • タイトル曲「Full House」はラテン風味の3拍子で始まり、モンゴメリーとグリフィンがユニゾンでテーマを奏でるダイナミックな展開。モンゴメリーのメロディックかつオクターブ奏法を駆使したソロが白眉で、グリフィンの熱いアドリブ、ケリーのブルージーなピアノも聴きどころです[2][11][12]。
  • 「I’ve Grown Accustomed to Her Face」は静謐なバラード。モンゴメリーのソロ・ギターから始まり、最低限の伴奏で彼の繊細な表現力が際立ちます[2][11][12]。
  • 「Blue ’N’ Boogie」や「S.O.S.」はビバップの疾走感を前面に出し、バンド全体が一体となってスリリングなインタープレイを展開します[3][11][12]。
  • 「Cariba」はラテン・リズムを取り入れたモンゴメリーのオリジナルで、グリフィンのサックス、ケリーのピアノ、モンゴメリーのギターが順にソロを繰り広げます[11][12]。
  • 「Come Rain or Come Shine」はモンゴメリーとグリフィンがテーマを分け合い、各自のソロで個性を発揮します[11][12]。

サウンド面では、モンゴメリー独自の「親指弾き」による温かく太い音色、オクターブ奏法、コードワークの美しさが際立ちます。エフェクトは一切使わず、ギターとアンプのみというシンプルなセッティングで、彼ならではの個性が際立っています[2][11]。録音も優秀で、各楽器の分離が良く、ライブの臨場感が鮮明に伝わります[6][7]。

制作時のエピソード

本作は、ライブとレコーディング・セッションが融合した特別な一夜でした。Tsuboは学生やジャズファン、ヒップスターが集う小さなクラブで、観客の熱気も演奏に大きな影響を与えました[5][8][10]。バンドは各曲を複数テイク演奏し、その中からベストなものが選ばれています。タイトル曲「Full House」のオリジナルLP版は2つのテイクを編集したものでしたが、2023年のリイシューでは初めて編集なしの完全版が公開されています[8][10][12]。

また、モンゴメリーは楽譜が読めない“耳の人”でしたが、完璧な音感と直感的なインタープレイで他の名手たちと対等に渡り合い、即興性の高いライブでその真価を発揮しました[3]。

発表時の反響と評価

1962年のリリース当時から『フル・ハウス』は高く評価され、Downbeat誌は「モンゴメリーが絶頂期の炎を放つ」と絶賛。彼のライブ・パフォーマンスの魅力を初めて本格的に記録したアルバムとして、ジャズ・ギター史に残る名盤と位置づけられています[5][8][11]。その後も何度もリマスターや拡張版がリリースされ、2023年には未発表テイクやオリジナル・ソロを含む『The Complete Full House Recordings』が発売されました[4][8][12]。

特筆すべきこと

  • ギター奏法の革新性
    モンゴメリーの親指弾き、オクターブ奏法、コード・ソロは後進のギタリストに多大な影響を与え、ジョー・パス、ジョージ・ベンソン、パット・メセニーらが彼のスタイルを継承しています[8][11]。
  • ライブ録音の臨場感
    スタジオ録音では味わえない緊張感と即興の化学反応が、アルバム全体を通して感じられます[2][3][6]。
  • リズムセクションの強力さ
    マイルス・デイヴィス・トリオのメンバーとグリフィンという豪華な布陣は、モンゴメリーの音楽的野心を最大限に引き出しました[3][8][14]。
  • 編集の歴史
    タイトル曲「Full House」のオリジナル・ソロが長年編集で差し替えられていたこと、2023年のリイシューで初めて完全版が公開されたことは、ファンや研究者にとって大きなニュースとなりました[8][10][12]。

まとめ

『フル・ハウス』は、ウェス・モンゴメリーのギター表現の頂点であり、ライブ・ジャズの醍醐味を凝縮した歴史的名盤です。多様な楽曲構成、熱い即興、名手たちの共演、そしてライブならではの空気感が、今なお多くのリスナーを魅了し続けています[3][8][11]。

  1. https://www.guitarrecords.jp/product/20310
  2. https://thejazzloop.wordpress.com/2013/07/25/wes-montgomery-full-house/
  3. https://www.allaboutjazz.com/full-house-by-c-michael-bailey
  4. https://www.birdland.com.au/wes-montgomery-the-complete-full-house-recordings
  5. https://www.udiscovermusic.com/news/wes-montgomery-complete-full-house-recordings-announced/
  6. https://www.theaudiobeat.com/music/wes_montgomery_complete_full_house_lp.htm
  7. http://jazz-rock-fusion-guitar.blogspot.com/2015/10/full-house-is-seventh-album-and-first.html
  8. https://craftrecordings.com/blogs/news/the-complete-full-house-recordings
  9. http://toppe2.web.fc2.com/Wes_Montgomery/Full_House.html
  10. https://jazz.fm/wes-montgomery-the-complete-full-house-recordings-expended-edition/
  11. https://www.popmatters.com/wes-montgomery-complete-full-house-recordings
  12. https://www.allaboutjazz.com/the-complete-full-house-recordings-wes-montgomery-craft-recordings
  13. https://jazztimes.com/features/profiles/wes-montgomery-the-softer-side-of-genius/
  14. https://en.wikipedia.org/wiki/Full_House_(Wes_Montgomery_album)
  15. https://tower.jp/item/6185699
  16. https://www.recordcity.jp/ja/catalog/3029641
  17. https://thatcanadianmagazine.com/featured/wes-montgomery-the-complete-full-house-recordings/
  18. https://www.youtube.com/watch?v=rKYKtuKbWaY
  19. https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008737490
  20. https://www.jazzwise.com/review/wes-montgomery-full-house-the-complete-session
  21. https://jazzviews.net/wes-montgomery-wynton-kelly-trio-maximum-swing-the-unissued-1965-half-note-recordings/
  22. https://attictoys.com/wes-montgomery-discography/wes-montgomery-discography-1948-1963/

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