ヘレン・メリル『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』

ヘレン・メリル『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』
ヘレン・メリル(Helen Merrill)『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』(Helen Merrill)

1955年にエマーシー・レコード(EmArcy Records)からリリースされたHelen Merrill(ヘレン・メリル)のデビュー・アルバム『Helen Merrill』(通称『Helen Merrill with Clifford Brown』)は、女性ジャズ・ヴォーカルの新たな地平を切り開いた歴史的名盤です。

『Helen Merrill』のコンセプトと制作背景

コンセプトは「歌と楽器の対等な対話」。当時25歳だったメリルと、同じく若き天才トランペッター、クリフォード・ブラウンの共演を軸に、アレンジは後に大物プロデューサーとなるクインシー・ジョーンズが担当。収録曲はすべてスタンダードで構成され、ジャズ・ヴォーカルとバップの融合、そしてクールネスと情熱が同居する独自の世界を築きました[1][2][3]。

音楽性・サウンドの特徴

本作の音楽性は「ストレート・アヘッドなバップ」を基調にしつつ、クール・ジャズ的な繊細さとハード・バップの力強さが共存しています。メリルのヴォーカルは、しなやかで内省的な表現力と、時に大胆なフレージングが特徴。クリフォード・ブラウンのトランペットは温かみと輝きに満ち、メリルの歌声と絶妙なコール&レスポンスを展開します。クインシー・ジョーンズによるアレンジは、歌と楽器のバランスを重視し、ヴォーカルを単なる主役ではなく「バンドの一員」として扱っている点が新鮮です[1][2][4]。

リズム・セクションには、ピアノのジミー・ジョーンズ、ギターのバリー・ガルブレイス、ベースのミルト・ヒントンやオスカー・ペティフォード、ドラムのオシー・ジョンソンらが参加。フルートのダニー・バンクも加わり、柔らかなサウンドの中に芯の強さが感じられます[3][4]。

制作時のエピソード

録音は1954年12月22〜24日、ニューヨークのFine Sound Studiosで行われました。メリル本人の証言によると、当時はまだ無名に近い存在で、クリフォード・ブラウンも同様でした。お互いに緊張しつつも、音楽への純粋な情熱でセッションは進行。特に「You’d Be So Nice to Come Home To」は日本を含め世界中で彼女のシグネチャー・ソングとなりました。録音時は何度もテイクを重ねた曲もありましたが、メリルは「一発録り」を意識して臨んだと語っています[5]。プロデュースはボブ・シャッド(Bob Shad)。

参加ミュージシャン

  • ヘレン・メリル(Helen Merrill):ヴォーカル
  • クリフォード・ブラウン(Clifford Brown):トランペット
  • ジミー・ジョーンズ(Jimmy Jones):ピアノ
  • バリー・ガルブレイス(Barry Galbraith):ギター
  • ミルト・ヒントン(Milt Hinton):ダブル・ベース
  • オスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford):チェロ、ダブル・ベース
  • オシー・ジョンソン(Osie Johnson):ドラム
  • ボビー・ドナルドソン(Bobby Donaldson):ドラム
  • ダニー・バンク(Danny Bank):バス・クラリネット、フルート、バリトン・サクソフォーン
  • クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones):アレンジ、指揮 [1][3][4][6]

トラック・リスト

SIde 1

  1. ドント・エクスプレイン - "Don't Explain" (Arthur Herzog Jr., Billie Holiday) - 5:17
  2. ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ - "You'd Be So Nice to Come Home To" (Cole Porter) - 4:24
  3. ホワッツ・ニュー - "What's New?" (Bob Haggart, Johnny Burke) - 5:05

Side 2

  1. 恋に恋して - "Falling in Love with Love" (Richard Rodgers, Lorenz Hart) - 3:58
  2. イエスタデイズ - "Yesterdays" (Otto Harbach, Jerome Kern) - 6:05
  3. ボーン・トゥ・ビー・ブルー - "Born to Be Blue" (Mel Tormé, Bob Wells) - 5:20
  4. スワンダフル - "'S Wonderful" (George Gershwin, Ira Gershwin) - 3:15

発表時の反響と評価

リリース当初から高い評価を受け、今日に至るまでジャズ・ヴォーカル史に残る傑作とされています。AllMusicのスコット・ヤノウは「メリルとブラウンの存在がスタンダード曲を高次元に昇華させている」と絶賛。ローリングストーン誌や多くの批評家も「時代を超えた名盤」と位置付けています。特に日本では絶大な人気を誇り、彼女の代表作として愛され続けています[1][2][7]。

特筆すべき点

  • 女性ヴォーカルとジャズ・バンドが「対等」に渡り合う新しいスタイルを確立
  • クインシー・ジョーンズの初期の名アレンジが光る
  • クリフォード・ブラウンの生涯を代表する名演のひとつ
  • 日本での人気が特に高く、彼女の来日公演や再発盤も多い
  • ジャズ・ヴォーカル入門にも最適な一枚

まとめ

『Helen Merrill』は、歌と楽器が溶け合いながらも緊張感を保つ、ジャズ史に残る傑作です。時代を超えて愛される理由は、音楽そのものの純度と、参加ミュージシャンたちの誠実な対話にあります。今なお多くのリスナーに新鮮な驚きを与え続ける、まさに「タイムレス」なアルバムです[1][2][4]。

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Helen_Merrill_(album)
  2. https://jazzdaily.blog/2024/02/05/helen-merrill-a-timeless-debut-in-the-jazz-pantheon/
  3. https://tower.jp/article/feature_item/2023/08/18/0108
  4. https://www.seacoastjazz.org/helen-merrill.html
  5. https://www.jazzwax.com/2009/02/interview-helen-merrill-part-2.html
  6. https://jazzjournal.co.uk/2022/05/26/helen-merrill-anything-goes-the-complete-1952-1960/
  7. https://jazztimes.com/features/profiles/helen-merrill-jazz-singer/
  8. https://www.universal-music.co.jp/p/UCCM-9336/
  9. https://en.wikipedia.org/wiki/The_Artistry_of_Helen_Merrill
  10. https://www.jazzwax.com/2010/11/helen-merrill-dream-of-you.html
  11. https://serai.jp/hobby/1193439
  12. https://www.qobuz.com/jp-ja/album/helen-merrill-with-strings-helen-merrill/vegmuo2qzr8fa
  13. https://jazzjournal.co.uk/2019/07/24/helen-merrill-four-classic-albums/
  14. https://en.wikipedia.org/wiki/Category:Helen_Merrill_album_covers
  15. https://www.discogs.com/release/2795830-Helen-Merrill-Helen-Merrill
  16. https://en.wikipedia.org/wiki/Music_Makers_(album)
  17. https://jp.pinterest.com/pin/510806782710421194/
  18. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%88%E3%82%A6%E3%82%AD%E3%83%A7%E3%82%A6
  19. https://jazzbuffalo.org/2022/05/22/helen-merrill-a-restless-musical-soul%EF%BF%BC/
  20. https://lightintheattic.net/products/the-artistry-of-helen-merrill
  21. https://nicksvinylpicks.wordpress.com/2024/01/22/helen-merrill-dream-of-you-with-gil-evans/
  22. https://en.wikipedia.org/wiki/The_Nearness_of_You_(Helen_Merrill_album)
  23. https://www.jazzmessengers.com/en/8761/helen-merrill/the-nearness-of-you
  24. https://store.acousticsounds.com/d/147748/Helen_Merrill-Helen_Merrill-200_Gram_Vinyl_Record
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