ウィントン・ケリー『ウィスパー・ノット』

リバーサイドから1958年にリリースされた『Piano』(邦題:ウィスパー・ノット)は、Wynton Kelly(ウィントン・ケリー)がリーダーとして発表した2作目のアルバムであり、彼の音楽的個性とハード・バップ時代のピアノ・ジャズの進化を象徴する作品です。
Wynton Kelly『Piano』のコンセプト
アルバムのコンセプトは、ピアノ・トリオやカルテットという小編成で、ケリーの「スウィング感」と「ブルースに根差した表現力」を存分に発揮することにあります。加えて、ギタリストのケニー・バレルを加えたカルテット編成が、従来のピアノ・トリオに新しいサウンドの可能性をもたらしています[1][2][3]。
音楽性・サウンドの特徴
- スウィング感とリズムの強さ
ケリーの演奏は「バウンスするようなスウィング感」と「弾むようなリズム」が特徴です。彼の8分音符は、伝統的なスウィングよりもストレート気味で、ビートの「オン・トップ」に乗る現代的な感覚が強く、後続のピアニストたち(マッコイ・タイナー、チック・コリア、ハービー・ハンコックなど)にも大きな影響を与えました[3][4]。 - ハード・バップの洗練
本作は、ビバップの語法を基盤としつつ、よりブルージーで親しみやすいメロディとハーモニーを持つハード・バップのスタイルを体現しています。特にオリジナル曲「Action」では、ビバップとハード・バップの“橋渡し”となるような複雑なテーマとスウィング感が際立っています[3]。 - ギターの導入による新たな質感
ケニー・バレルのギターが加わることで、ピアノ・トリオとは異なる音の広がりと色彩感が生まれています。バレルのクリーンなトーンとコンピングは、ケリーのピアノと絶妙に絡み合い、後年のウェス・モンゴメリーとの共演を予感させるものです[1][3]。 - リリカルかつソウルフルな表現
ケリーのピアノは、明快なタッチとリリカルなフレージング、そしてブルースに根ざしたソウルフルな表現が特徴です。バラードやスタンダードの解釈にも、彼独自の温かみと躍動感が宿っています[3][4]。
収録曲・構成
主な収録曲は以下の通りです(全7曲)[2][3]:
Side 1
- Whisper Not(ベニー・ゴルソン)
- Action(ウィントン・ケリー)
- Dark Eyes(トラディショナル、2テイク収録)
Side 2
- Strong Man(オスカー・ブラウンJr.)
- Ill Wind(ハロルド・アーレン、テッド・コーラー)
- Don’t Explain(ビリー・ホリデイ、アーサー・ハーツォグJr.)
- You Can’t Get Away(ウィントン・ケリー)
「Whisper Not」ではケニー・バレルのスウィングするソロが際立ち、「Action」ではケリーとバレルがユニゾンでテーマを奏でるなど、各曲でメンバーの個性が発揮されています[1][3]。
参加ミュージシャン
- ウィントン・ケリー(Wynton Kelly):ピアノ
- ケニー・バレル(Kenny Burrell):ギター
- ポール・チェンバース(Paul Chambers):ベース
- フィリー・ジョー・ジョーンズ(Philly Joe Jones):ドラムス、1,2,3,8曲目のみ参加 [2][3]
このリズム・セクションは、当時のマイルス・デイヴィス・グループの中核を担った名手たちであり、抜群の一体感とグルーヴを生み出しています。

制作時のエピソード
本作は、Riversideレーベルの名プロデューサー、オリン・キープニュースのもとで制作されました。ケリーは1951年の初リーダー作『Piano Interpretations』以来、約7年ぶりのリーダー作となり、その間はダイナ・ワシントンやディジー・ガレスピー、レスター・ヤングらのバンドでサイドマンとして活躍していました[3][5][6]。この長いブランクが、彼のサポート力とアンサンブル能力をさらに高めたといわれています[3]。
発表時の反響
AllMusicでは「ケリーの独自のドライブ感と明快なスウィング・フィールを示す重要な録音」と高く評価され、4.5つ星を獲得しています[2]。また、ピアノ・ジャズにおける「スウィングの教科書」とも評され、後のジャズ・ピアニストたちに多大な影響を与えた作品として位置づけられています[1][3]。
特筆すべきこと
- 「Whisper Not」名演
ベニー・ゴルソン作の「Whisper Not」は、ケリーのバージョンが特に高く評価されており、バレルのソロとともに“ベスト・テイク”の一つとされます[1][3]。 - ピアノ・トリオ+ギター・カルテットの先駆性
従来のピアノ・トリオにギターを加えることで、よりモダンで洗練されたサウンドを実現し、後のジャズ・ピアノ・カルテットのフォーマットにも影響を与えました[3]。 - ケリーのスタイルの確立
本作によって、ケリーの「リズム感」「ブルース感」「リリシズム」という三位一体のスタイルが確立され、以後の名盤『Kelly Blue』やマイルス・デイヴィスとの共演へとつながっていきます[3][6]。 - 録音の質とミキシング
一部の曲(特に「Whisper Not」)の録音品質には課題があるものの、「Ill Wind」などはミキシングの良さが際立ち、アルバム全体のサウンド・バランスは非常に良好です[1]。
まとめ
『ウィスパー・ノット』は、ウィントン・ケリーというピアニストの「スウィング・ジャズの真髄」を体現した名盤であり、ピアノ・ジャズの歴史においても重要な位置を占める作品です。ブルース・フィーリングと洗練されたアンサンブル、そして現代的なリズム感が融合した本作は、今なお多くのジャズ・ファンやピアニストに愛され続けています[1][2][3]。
- https://www.jazzdergisi.com/en/wynton-kelly-piano/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Piano_(Wynton_Kelly_album)
- https://www.allaboutjazz.com/piano
- http://toppe2.web.fc2.com/Wynton_Kelly/Wynton_Kelly.html
- https://en.wikipedia.org/wiki/Wynton_Kelly
- https://www.avidgroup.co.uk/acatalog/info_AMSC1165.html
- https://note.com/kentaro_tsutsumi/n/n9e652b472659
- https://www.discogs.com/release/4343368-Wynton-Kelly-Piano
- https://www.bluenote.com/artist/wynton-kelly/
- https://concord.com/artist/wynton-kelly/
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B1%E3%83%AA%E3%83%BC
- https://colinsreview.com/2018/08/10/piano-interpretations-wynton-kelly/
- https://www.freshsoundrecords.com/wynton-kelly-albums/1426-kelly-great.html
- https://jazzfuel.com/wynton-kelly-albums/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Piano_Interpretations
- https://www.classicselectworld.com/products/wynton-kelly-four-classic-albums