パーカー、クリス、ベイカー『イングルウッド・ジャム』

1978年に発表されたチャーリー・パーカー、ソニー・クリス、チェット・ベイカーによる『INGLEWOOD JAM』(イングルウッド・ジャム)は、1952年6月16日にカリフォルニア州イングルウッドのTrade Windsクラブで録音されたライブ・ジャム・セッション・アルバムです[1]。
『イングルウッド・ジャム』のコンセプト
このアルバムのコンセプトは、ジャズ界の巨匠たちが小規模なクラブ空間で即興演奏を繰り広げる「ジャム・セッション」を記録することにあります。
当時、ジャズは商業的全盛期を過ぎて“アンダーグラウンド”な音楽となり、大劇場よりもこうしたライブハウスやバーで本質的な演奏が多く生まれていた背景があります。
Bird(パーカー)は西海岸ツアー中で、地元のベテランたちに声をかけられてこの一夜のセッションが実現しました。
企画立案はベーシストのハリー・ババジンであり、録音はボブ・アンドリューズのワンマイク録音という手作り感が特徴です[3]。
参加ミュージシャン
- チャーリー・パーカー(Charlie Parker):アルトサックス
- ソニー・クリス(Sonny Criss):アルトサックス
- チェット・ベイカー(Chet Baker):トランペット
- アル・ヘイグ(Al Haig):ピアノ
- ラズ・フリーマン(Russ Freeman):ピアノ(Indianaのみ)
- ハリー・ババジン(Harry Babasin):ベース
- ローレンス・マラブル(Larance Marable):ドラムス)
若きチェット・ベイカーは、この録音の1ヶ月後にジェリー・マリガン・カルテットに加入するため、まさに「世界的ブレイク寸前」の姿が記録されています[1]。

トラック・リスト
演奏曲は次の4曲です。
Side 1
- ザ・スクワーラル - The Squirrel(Tadd Dameron)(14:40)
- ゼイ・ディドント・ビリーヴ・ミー - They Didn't Believe Me(DePaul-Raye)(6:11)
Side 2
- インディアナ - Indiana(Hanley-McDonald-Parker)(11:03)
- ライザ - Liza(George Gershwin)(9:52)
音楽性・サウンドの特徴
10分を超える長尺の即興演奏などもあり、豪快なバップ・ジャズが展開。ソロは複数回まわされ、パーカーの流麗なアルトサックス、クリスの輝くトーン、ベイカーの若々しく切れ味あるトランペット・プレイが堪能できます。
ピアノも曲ごとにアル・ヘイグとラズ・フリーマンが交互に担当し、リズム隊は古典的な西海岸ジャズの安定したグルーヴを作り出しました。
ライブ録音の制限(ベースやドラムがやや遠く聴こえる)があるものの、クラブ独特の熱気や臨場感は十分に伝わります[3]。
制作時のエピソード
この夜は、本来ソニー・クリスがリーダーで始まり、途中でパーカーが遅れて登場するという展開。
彼がステージに現れた瞬間、場内はどよめきに包まれ、“Bird”の存在感とカリスマ性が一気に会場を支配しました。
録音エンジニアのアンドリューズは、後にこのテープを友人経由でヨーロッパに送った結果、ブートレグ盤として流通してしまったが、幸いオリジナルコピーが残されたことで正規盤化が可能となりました[3]。
発表時の反響
CD化を経て再び評価が高まりました。
特に「若きベイカーが世界デビュー前夜にパーカーと共演」という点、そしてバード晩年の活躍が西海岸で記録された歴史的セッションであることがジャズファンにとって価値ある資料となっています。
批評家も「22歳のベイカーは既にオリジナリティあふれるアイディアを次々と披露し、パーカーの即興にも見事に食らいついている」(Doug Ramsey/All Music Guide)、「本作は歴史的資料でもあり、バップの熱気を体験できる貴重な傑作」と評しています[1]。
特筆すべきこと
- ベイカーにとってはジェリー・マリガン加入前の貴重な記録
- パーカーがカリフォルニアでライブ演奏した希少な録音
- ソニー・クリス(“パーカー直系”のアルト奏者)の初期の重要記録
- オリジナル録音テープが一度紛失・ブートレグ化されながらも復元された経緯
- ライブ録音ならではの臨場感と1940〜50年代ジャズシーンの雰囲気が伝わる音場
- 写真はセンチェリーレコードから発売された日本盤。
まとめ
『イングルウッド・ジャム』はジャズ史の偶然が生んだ貴重な“瞬間”を捉えた一枚です。
パーカーの気まぐれで始まるセッションに、ベイカーとクリスの情熱が掛け合わさり、まさに歴史的ジャムとなりました。
録音環境や音質の限界を超えた演奏の熱量が、ジャズの本質を伝えてくれる日本盤でも定評あるライブアルバムです[4]。
- https://www.freshsoundrecords.com/charlie-parker-chet-baker-albums/3546-inglewood-jam-bird-chet-live-at-the-trade-winds-1952-remastered-edition.html
- https://www.claramusic.shop/shopdetail/000000010485/
- https://www.latimes.com/archives/la-xpm-1991-01-03-ca-10830-story.html
- https://diskunion.net/jazz/ct/detail/XAT-1245733296
- https://en.wikipedia.org/wiki/Inglewood_Jam:_Live_at_the_Trade_Winds_16_June_1952
- https://www.allmusic.com/album/inglewood-jam-mw0000268385
- https://ameblo.jp/fifth-of-july/entry-12885612658.html
- https://www.guitarplayer.com/guitarists/when-eric-clapton-met-jack-bruce-and-the-formation-of-cream
- http://modernjazznavigator.a.la9.jp/years/chet1.htm
- https://www.youtube.com/watch?v=Ym7vWEjDvRI
- https://www.jerryjazzmusician.com/jeroen-de-valk-author-of-chet-baker-his-life-and-music/
- http://toppe2.web.fc2.com/Art_Pepper/Inglewood_Jam_1952.html
- https://en.wikipedia.org/wiki/Charlie_Parker
- https://www.youtube.com/watch?v=rVVDh7kYM7A
- https://banjonews.com/2020-04/the_old_time_scene_in_the_greater_los_angeles_area.html
- https://people.com/artists-who-have-fought-for-music-ownership-11822749


