ジェリー・マリガン『ジェル』

1962年録音、発表のGerry Mulligan(ジェリー・マリガン)のアルバム『JERU』(ジェル)は、「ピアノを正式に迎えた初めてのスタンダード・カルテット」として、彼のキャリアのなかでも特別な存在とされています。
本作は、その編成と演奏スタイルを通じて、マリガンが「ピアノ伴奏のクァルテット」というフォーマットをどう料理するかを示す、ある種の“実験的宣言”のような性格を持っています。
コンセプトと音楽性
『JERU』は、ピアノレス・カルテットの代表格として知られるマリガンが、初めて正式にピアノを加えたスタンダード・フォーマット(バリトン・サックス+ピアノ・ベース・ドラム+コンガ)で録音したアルバムとして知られています。
それまでピアノレス・クォートや、あるいはトゥーロン・ピアノなどの形でしかピアノを扱ってこなかったマリガンにとって、この形は「ピアノを伴奏の核として真正面から受け入れる」初の録音だったのです。
音楽性は、いわゆる「ウエスト・コースト・ジャズ」の整理されたハーモニーと、ビル・エヴァンスらに近いような繊細なリズム感を経由した「クール」な色調を保ちつつ、その中でバリトン・サックスの温かく肉厚なトーンと、メロディックなセンスを前面に出した作品です。 全体のモードは落ち着いた中速のスウィングで、装飾を最小限にしつつも、フレーズのラインとリズムの揺れが生き生きとしており、「静かだが決して眠くない」演奏スタイルが貫かれています。
サウンドの特徴
サウンド面では、トミー・フラナガンのピアノが「支柱」でありつつも、必要最小限の装飾しか加えず、和音の厚みとリズムの“ポケット”をしっかり支える役割を果たしています。
これにより、マリガンのバリトン・ラインは、沈み込み過ぎず、かといって軽過ぎず、ちょうどいいバランスのスペースを保ちながら歌うことができます。
ベーシストのベン・タッカーは、安定したウォーキング・ベースで全体の土台を支え、ドラマーのデイヴ・ベイリーは飾り気を排した、いわゆる「ノー・フリルズ」のパッケージで、自然なグルーヴとテンポの安定感を提供します。
さらにコンガを持つアレック・ドーシーが、さりげないラテン・フィーリングを添え、曲によっては軽やかさや“弾む”感を加えることで、ピアノ・カルテットの典型像にやや斜めのスパイスを加えています。
参加ミュージシャンと制作エピソード
アルバムの参加メンバーは以下の通りです。
- ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan):バリトン・サックス
- トミー・フラナガン(Tommy Flanagan):ピアノ
- ベン・タッカー(Ben Tucker):ベース
- デイヴ・ベイリー(Dave Bailey):ドラムス
- アレック・ドーシー(Alec Dorsey):コンガ
ニューヨークのNola Penthouse Studioで、1962年6月30日に1日だけのセッションで録音されました。
実は本作は、もともとベイリーが立ち上げた独立レーベル「Jazzline」向けにプロデュースされた企画でした。
しかしレコード会社の大手、CBS(コロムビア)がマスターテープを購入したため、Jazzlineのレーベル名ではなく、コロムビアのレーベルとして世に出たという経緯があります。
つまり、このアルバムは「ドラマーの個人的企画をマリガンが引き受けてくれた」という“友情作”に近い性格を持ちつつ、結果的にはコロムビア傘下の公式アルバムとしてリリースされたわけです。
フラナガンとの共演は、このアルバムのみとされる点も注目されます。
一方、マリガンはこの時点でピアノとの共演には慣れてはいたものの、このような「単一のホーン+ピアノ+B+D+エクストラ・パーカッション」というフォーマットはやや珍しく、自らのテクスチャーの幅を試す意味合いもあったと評されています。
トラック・リスト
Side 1
- カプリシャス(Capricious) - 5:44
- ヒア・アイル・ステイ(Here I'll Stay) - 4:57
- インサイド・インプロンプチュ(Inside Impromptu) - 5:30
- ユーヴ・カム・ヒア(You've Come Home) - 5:39
Side 2
- ゲット・アウト・オブ・タウン(Get Out of Town) - 4:20
- ブルー・ボーイ(Blue Boy) - 4:34
- ロンリー・タウン(Lonely Town) - 5:34
発表時の反響と評価
リリース当初から、マニアの間では「自然なグルーヴと申し分ないアレンジ感」を持つ作品として高い評価を受けましたが、必ずしも「金字塔的な大作」として押し上げられたわけではありません。
その後の評論では、AllMusicなどでは約3つ星前後の評価ではあるものの、「マリガンは好調で、作品全体としては必ずしも“必須”ではないが、確かに愉しめる」という、やや穏健ながら肯定的なジャッジが与えられているようです。
サウンド面では、「トゥービー・マジック(Tubey Magic)」を重視するオーディオ愛好家たちの間で、特に優れたヴィンテージLP盤が“ホット・スタンパー”として評価され、リズムと空間感が豊かに再現される作品として知られています。
また、ジャズのライナーノートや評論では、「楽器のバランスがよく、マリガンのボーカルライクなラインが生きるフォーマット」として、このアルバムの構成そのものが賞賛されています。

特筆すべきこと
『JERU』を特筆すべき点として挙げられるのは、ズバリ「マリガンにとっての『ピアノ・カルテット・デビュー』」という位置づけです。
彼の前にあったピアノレス・カルテットのかたちを否定するものではなく、その延長線上で「ピアノが加わった場合、彼はどう振る舞うか」を示した、貴重な断面といえます。
また、フラナガンとタッカー、ベイリーという、後世のスタンダード・ジャズにおいても有名な名手たちが、1回きりのセッションながら見事に同調しており、「出来上がったグルーヴ」が自然な印象を残している点も見逃せません。
さらに、デイヴ・ベイリーが個人レーベルに賭けた企画を、マリガンが“恩義として”快く引き受けてくれたというエピソードは、ジャズの世界における人間関係や、小さなレーベルとメジャー・レーベルのパワーダイナミクスを垣間見る、興味深い一例でもあります。
こうした音楽的・歴史的な側面を踏まえると、『JERU』は、マリガンのキャリアのなかでも、控えめながらも確実に“意味深い一歩”を示す作品と位置づけることができます。


- https://ontherecord.co/2024/06/15/gerry-mulligan-jeru-999999/
- https://raggywaltz.com/2019/03/19/jeru-gerry-mulligan-columbia-cl-1932/
- http://www.jazzspace.net/2018/01/jeru-gerry-mulligan-columbia-1962/
- https://www.jazzmessengers.com/en/62879/gerry-mulligan/gerry-mulligan-jeru
- https://www.youtube.com/watch?v=BmafgLn7_IA
- https://www.jazzmessengers.com/en/60664/gerry-mulligan/jeru-what-is-there-to-say
- https://a.osmarks.net/content/wikipedia_en_all_maxi_2020-08/A/Jeru_(album)
- https://en.wikipedia.org/wiki/Jeru_(album)


