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ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』

ジョン・コルトレーン『ジャイアント・ステップス』
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)『ジャイアント・ステップス』(Giant Steps)

1960年にリリースされた『Giant Steps』(ジャイアント・ステップス)はJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)がアトランティック・レコードと契約し、初めてリーダーとして発表したアルバムです。

『Giant Steps』のコンセプト

本作は「全曲自身のオリジナル」「新たなハーモニーの探究」というコルトレーンの音楽的野心を強く反映した作品であり、彼自身がジャズの未来を切り開こうとした「大きな一歩」を象徴しています。

アルバムの最大の特徴は「コルトレーン・チェンジ」と呼ばれる複雑な和声進行で、主要三つの調(B, G, E♭)を高速で巡るコード構造が使用されています。この進行はジャズ・ミュージシャンにとって「究極のハーモニック・チャレンジ」とされ、現在に至るまでモダンジャズの即興演奏の登竜門的存在です。コルトレーンはそれまでのプレスティージ時代とも異なり、コード進行を理論的に駆使しつつ、叙情性と躍動感を両立させましたす[1][2][3]。

音楽性とサウンドの特徴

コルトレーン・チェンジ

  • 『Giant Steps』最大の特徴は、急激に転調を繰り返す「コルトレーン・チェンジ」と呼ばれる和声進行です。タイトル曲「Giant Steps」はわずか16小節の中で26回もコードチェンジし、これはそれまでのジャズに見られなかった異例の複雑さでした[1][4][5]。
  • 3つの異なるキー(Bメジャー、Gメジャー、E♭メジャー)を三度間隔で移動し、これが「緊張感」「疾走感」を生み出しています[1][3][4]。
  • この革新的な和声進行は、後のジャズ・プレイヤーが腕試しとするほど、現在でも「最も難しい曲」として知られています[1][5][6]。

“Sheets of Sound”の極致

  • コルトレーンは“Sheets of Sound(音のカーテン)”と呼ばれる独自のフレージング技法を発展させ、細やかなラン(速い音列)とアグレッシブな吹奏を立体的に組み合わせました[7][8][9]。
  • ただ技巧的なだけでなく、モーダルなアプローチやメロディックなモチーフの発展など、即興と構成力が高度に結びついています[2][10]。

制作のエピソード

  • 録音は1959年5月4日・5日、12月2日にニューヨークで行われました。前半のセッションはトミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)らによるもの。後半の「Naima」はウィントン・ケリー、ジミー・コブ(両名ともマイルス・デイヴィスグループのメンバー)とのセッションです[3][9][12][13]。
  • コルトレーンは、スタジオにほぼリハーサルなしで楽曲を持ち込み、ピアニストのフラナガンも難易度の高さに苦戦したと言われています[1][8][11]。
  • アルバム制作中に録音されたアウトテイクや練習風景では、他のミュージシャンがコルトレーン・チェンジの試練に戸惑う様子もうかがえ、楽曲『Giant Steps』の難しさを物語っています[1][11]。

参加ミュージシャン

名前役割特記事項
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)テナーサックス全曲に参加
トミー・フラナガン(Tommy Flanagan)ピアノ主要曲を担当(1-1,1-2,2-1,2-3曲目など)
ウィントン・ケリー(Wynton Kelly)ピアノ「Naima」を担当
ポール・チェンバース(Paul Chambers)ベース全セッションに参加
アート・テイラー(Art Taylor)ドラム前半主要曲を担当
ジミー・コブ(Jimmy Cobb)ドラム「Naima」を担当

トラック・リスト

Side 1

  1. ジャイアント・ステップス(Giant Steps) - 4:43
  2. カズン・マリー(Cousin Mary) - 5:45
  3. カウントダウン(Countdown) - 2:21
  4. スパイラル(Spiral) - 5:56

Side 2

  1. シーダズ・ソング・フルート(Syeeda's Song Flute) - 7:00
  2. ネイマ(Naima) - 4:21
  3. ミスターP.C.(Mr. P.C.) - 6:57

『Giant Steps』『Naima』『Cousin Mary』『Countdown』『Spiral』『Syeeda’s Song Flute』『Mr. P.C.』の7曲で構成されます。タイトル曲は先鋭的でテクニカル、“Naima”は叙情的なバラード、“Mr. P.C.”はブルースフォーマットなど、多彩な表現が並びます[2][9][12]。

発表時の反響と評価

  • 1960年2月にリリースされるや否や、ジャズ界に強烈なインパクトを与え、コルトレーンの名を不動のものにしました。「新しいハーモニー」「驚異的技術の結集」と評され、多くの批評家が絶賛しました[2][12][15]。
  • 収録曲のうち「Giant Steps」「Naima」はすぐさまジャズ・スタンダードとして定着し、演奏家たちの登竜門となりました[3][6][16]。
  • 後年、このアルバムはローリング・ストーン誌「史上最高のアルバム500枚」に選出、またアメリカの議会図書館「国立録音登録簿」入りなど、時代を超えて評価されています[3][12][16]。
  • 2018年には50万枚以上のセールスを記録し、ゴールド・ディスクも獲得しています[3][6]。

特筆すべきエピソード

  • 『Giant Steps』は当時ほぼ前人未到のハーモニーを独力で設計し、ジャズ和声の地平を変えた記念碑的作品です。多くの音楽学生がソロを「譜面起こし」して学ぶほどで、今なお「通過儀礼」のような存在です[6][16]。
  • 人生の転機であり、コルトレーンがモード・ジャズからフリー・ジャズと進む進化の足跡で、「スピリチュアル」「哲学的思索」への扉も開かれました[2][6]。
  • タイトル曲や「Mr. P.C.」など収録曲名も、家族や仲間へのオマージュが込められている点も特徴です(Naimaは当時の妻、「Cousin Mary」はコルトレーンの従妹であるメアリー・ライアリー、Mr. P.C.はベーシストのポール・チェンバースのイニシャル)[3]。

まとめ

『Giant Steps』は“コルトレーン・チェンジ”を核に、音楽の構造、即興の可能性、そして個人の表現力を極限まで追求した歴史的名盤です。即興演奏の教材であり続けると同時に、全てのジャズリスナーにとって本質的な美を提供し続けています[1][4][6]。

アーティスト:COLTRANE, JOHN
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  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Giant_Steps_(composition)
  2. https://magazine.waxpoetics.com/article/john-coltrane-evolutionary-jump-1960-masterpiece-giant-steps/
  3. https://www.wikiwand.com/en/articles/Giant_Steps
  4. https://pianowithjonny.com/piano-lessons/giant-steps-a-guide-to-coltrane-changes/
  5. https://www.lmtmusicacademy.co.uk/the-most-feared-song-in-jazz-giant-steps-by-john-coltrane
  6. https://www.wrti.org/wrti-spotlight/2019-04-22/classic-jazz-album-of-the-week-john-coltranes-giant-steps
  7. https://note.com/rekishi_mimi/n/n37122c96a8e2
  8. https://ameblo.jp/jazztimenow/entry-12370659385.html
  9. https://jazzfuel.com/giant-steps-john-coltrane/
  10. https://www.youtube.com/watch?v=tzkWk7tkbyQ
  11. https://web.archive.org/web/20101202032316/http:/www.jazzstandards.com/compositions-2/giantsteps.htm
  12. https://www.rhino.com/article/mono-mondays-john-coltrane-giant-steps
  13. https://www.qobuz.com/ie-en/album/giant-steps-john-coltrane/w13y2b5td69eb
  14. https://www.jazzmessengers.com/en/90752/john-coltrane/giant-steps-
  15. https://www.rs500albums.com/250-201/232
  16. https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/GiantSteps.pdf
  17. https://groups.google.com/g/rec.music.bluenote/c/EWSOuki_Qkc
  18. https://www.seacoastjazz.org/john-coltranersquos-giant-steps.html
  19. https://www.reddit.com/r/Jazz/comments/wwuohs/what_is_your_opinion_on_giant_steps_by_john/
  20. https://www.youtube.com/watch?v=xy_fxxj1mMY
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