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ジョン・コルトレーン『至上の愛』

ジョン・コルトレーン『至上の愛』
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)『至上の愛』(A Love Supreme)

John Coltrane(ジョン・コルトレーン)が1965年に発表したアルバム『A Love Supreme』(邦題:至上の愛)は、ジャズ史の中でも特に精神性の高い作品として知られ、コルトレーン自身の宗教的覚醒と音楽的到達点を記録した名盤です[1]。

『至上の愛』のコンセプトと精神性

『至上の愛』は、コルトレーンが深い宗教的体験を経て生まれた「神への感謝と信仰の表明」です。
彼はこのアルバムを通じて、演奏そのものを祈りの行為として昇華させました。
ライナーノーツには自身の詩が記されており、音楽はその詩に対応する形で進行します。
作品は4部構成(「Acknowledgement」「Resolution」「Pursuance」「Psalm」)で構築され、それぞれが「神の存在を認識し、信仰を決意し、探求し、最終的に神を賛美する」という精神的旅路を表しています。
この構成は、彼が述べた「Thank you God」という言葉を音で表現する試みでもありました[3]。

音楽性とサウンドの特徴

サウンド面では、モーダル・ジャズとフリー・ジャズの橋渡し的役割を果たし、即興と構造が高度に統合されています。
1曲目「Acknowledgement」では、ジミー・ギャリソンのベースによる4音のモチーフが繰り返され、その上でコルトレーンが36回にわたりヴァリエーションを展開。後半では自身の声で「A Love Supreme」と唱え、このモチーフが神の遍在を象徴するものとなっています[2]。
最終楽章「Psalm」では、コルトレーンが詩を言葉にせずサックスで「朗読」しており、その旋律はまるで説教のように高揚していきます。
音楽理論的にはペンタトニックや全音階的要素が多用され、宗教的瞑想を音で描く構造になっています[3]。

制作エピソード

録音は1964年12月9日、ニュージャージー州エングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオで行われました。
録音時にはスタジオの照明を落として、ジャズクラブのような親密な雰囲気を再現したという証言もあります[21]。
参加したのはコルトレーンの「クラシック・カルテット」と呼ばれるメンバー、すなわちマッコイ・タイナー(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)、エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)で、録音はわずか一晩で完了しました。
エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー、プロデューサーはボブ・シールであり、録音時の緊張感と高揚感はメンバー全員が特別な「霊的体験」として語っています。
また、同年にコルトレーンは麻薬依存からの脱却とともに信仰を得ており、この作品は彼の再生を象徴するものとなりました[5]。

参加ミュージシャン

このアルバムには以下のメンバーが参加しています[2]:

  • ジョン・コルトレーン(John Coltrane):テナー・サックス、ヴォーカル、作曲
  • マッコイ・タイナー(McCoy Tyner):ピアノ
  • ジミー・ギャリソン(Jimmy Garrison):ウッドベース
  • エルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones):ドラム、ゴング、ティンパニ

また、デラックス版の「Acknowledgement」の別テイクにはアーチー・シェップ(Archie Shepp)やアート・デイヴィス(Art Davis)も参加しています。

トラック・リスト

Side 1

  1. パート1:承認(Acknowledgement)
  2. パート2:決意(Resolution)

Side 2

  1. パート3:追求(Pursuance)
  2. パート4:賛美(Psalm)

発表時の反響

1965年1月にImpulse! Recordsから発表された本作は、ジャズ界で衝撃を与え、宗教音楽とジャズの融合を実現した画期的なアルバムとして高く評価されました。
発売当初から批評家の称賛を受け、わずか数年のうちに50万枚を売り上げています。
評論家ロバート・クリストガウは「彼の神聖性を確固たるものにした作品」と評し、日本でも特に崇拝的な人気を得ました。
その後本作は『ローリング・ストーン』誌の「史上最高のアルバム500」に選出され、米国議会図書館の「国家録音登録簿」にも保存されています[7]。

特筆すべき影響と遺産

『至上の愛』は単なる音楽作品にとどまらず、精神的芸術の一里塚として多くのアーティストに影響を与えました。
カルロス・サンタナやジョン・マクラフリンはこの作品へのオマージュとして『Love Devotion Surrender』(1973年)を制作し、ロックや現代音楽にもその宗教的構造美が受け継がれました。
また、サンフランシスコには「セント・ジョン・コルトレーン教会」という宗教団体が存在し、このアルバムを典礼音楽の中心に据えています[9]。

70年代以降、『至上の愛』は「魂のジャズ(Spiritual Jazz)」の源流として多くの解釈を呼び、現代に至るまでその崇高さを保ち続けています。
アフリカ系アメリカ人の宗教的表現、禅的瞑想、モダン・ジャズの即興構造などが一体化したこの作品は、コルトレーンが生涯をかけて追い求めた「神との対話」の最も純粋な結晶です[10]。

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  1. https://altrockchick.com/2020/04/13/john-coltrane-a-love-supreme-classic-music-review/
  2. https://en.wikipedia.org/wiki/A_Love_Supreme
  3. https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/Coltrane.pdf
  4. https://sites.google.com/mc.edu/copy-resonances/home/unit-5-functional-music/chapter-11-music-for-spiritual-expression/john-coltrane-a-love-supreme
  5. https://downbeat.com/news/detail/a-love-supreme-at-60-thoughts-on-coltranes-masterwork
  6. https://www.wbgo.org/music/2020-10-01/a-deep-dive-into-john-coltranes-a-love-supreme-by-his-biographer-lewis-porter-pt-3
  7. https://www.jazz88.org/articles/1964:_John_Coltrane_Finds_Love,_Realizes_A_Love_Supreme_the_Manifestation_of_an_18-Year-Old_Vision_/
  8. https://www.everythingjazz.com/story/john-coltrane-a-love-supreme-at-60/
  9. https://artsfuse.org/313056/jazz-commentary-john-coltranes-a-love-supreme-turns-60-a-homage/
  10. https://blog.truefire.com/inspiration/john-coltranes-a-love-supreme-60-years-of-spiritual-jazz/
  11. https://wyntonmarsalis.org/discography/title/a-love-supreme
  12. https://concord.com/concord-albums/a-love-supreme-the-legacy-of-john-coltrane/
  13. https://www.youtube.com/watch?v=yUb7UvNVlG0
  14. https://www.reddit.com/r/Jazz/comments/27y1tf/can_you_guys_give_me_some_more_context_and/
  15. https://www.facebook.com/johncoltrane/posts/the-recording-sessions-for-a-love-supreme-took-place-on-december-9-and-10-1964-a/1163504511811832/
  16. https://www.jerryjazzmusician.com/a-love-supreme-on-john-coltrane-an-essay-by-carlo-rey-lacsamana/
  17. https://www.facebook.com/johncoltrane/posts/the-los-angeles-times-explored-the-legacy-of-a-love-supreme-and-its-continued-im/1155174795978137/
  18. https://music.apple.com/us/album/a-love-supreme/1440713018
  19. https://thepigeonpress.org/reaction-john-coltrane-a-love-supreme/
  20. https://www.abigaildevoe.com/post/john-coltrane-a-love-supreme-the-album-review
  21. https://classicalbumsundays.com/album-of-the-month-john-coltrane-a-love-supreme/
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