キース・ジャレット『イン・ザ・ライト』

キース・ジャレット(Keith Jarrett)の『In The Light』(イン・ザ・ライト)は、1973年に録音され、翌1974年にECMレーベルからリリースされた2枚組のアルバムです。
『In The Light』のコンセプト
この作品は、ジャレットが自ら作曲した現代クラシック音楽の集大成であり、彼の「より個人的で、もしかすると今まで秘密にされてきた音楽的意図」を表現したものと位置づけられています。ジャレット自身は「この作品は、何の発表の場もないまま書き溜めた楽曲のコレクション」であり、「自分が働いておらず、良い楽器も住む場所もなかった時期に、何かを表現する手段として作曲が意味を持った」と述懐しています[1][4]。
音楽性とサウンドの特徴
『イン・ザ・ライト』は、ジャズ・ピアニストとして知られるジャレットのイメージを覆す、純粋な現代音楽作品集です。バロックから現代的な不協和音、ブラス・クインテットのための華やかな対位法からストリングスのための同音的な書法まで、幅広い音楽スタイルを縦横無尽に展開しています[1][2]。
- 「Metamorphosis」はフルートと弦楽のための大作で、パストラルな響きと緻密な構成が特徴。オーケストラの楽器を叩くことで点描的な効果を生み出すなど、実験的な要素も見られます[2]。
- 「Fughata for Harpsichord」や「A Pagan Hymn」は、バロックとゴスペルの要素が融合したソロ作品で、ジャレットの多面的な作曲センスが光ります[2]。
- 「Brass Quintet」は、アメリカン・ブラス・クインテットによる演奏で、様々な音色とスタイルが変幻自在に現れます[2]。
- 「Short Piece for Guitar and Strings」では、ラルフ・タウナーのギターがストリングスと繊細に絡み合い、室内楽的な美しさを醸し出します[2]。
- 「Crystal Moment」は4台のチェロと2本のトロンボーンという珍しい編成で、やや異質な雰囲気を持っています[2]。
- アルバム最後の「In the Cave, in the Light」では、ジャレット自身がピアノ、ゴング、パーカッションを担当し、オーケストラと壮大な音世界を築きます[2]。
全体として、明確なジャンルや時代にとらわれない「イディオムの滑らかさ(idiomatic slipperiness)」がアルバム全体を貫き、聴く者に鮮烈な印象を与えます[2]。
制作時のエピソード
プロデューサーのマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)との緻密な制作作業も本作の特徴です。ジャレットは「ソロ・ピアノの録音時、マイクの位置を数ミリ単位で1時間半も調整した」「アイヒャーは理想の音を求めて何時間も、時には新しいマイクを買いに行くほどだった」と語っています。また、ブラス・クインテットのトラックには100以上のテープ・スプライス(編集)が施されており、しかもその継ぎ目が全く分からないほど精緻だったと述懐しています[1]。
参加ミュージシャン
- キース・ジャレット(Keith Jarrett):ピアノ、ゴング、パーカッション、指揮
- シュトゥットガルト・ズードフンク交響楽団の弦楽セクション(String Section of Südfunk Symphony Orchestra, Stuttgart)
- ムラデン・グテシャ(Mladen Gutesha):指揮
- アメリカン・ブラス・クインテット(The American Brass Quintet)
- フリッツ・ゾンライトナー弦楽四重奏団(The Fritz Sonnleitner Quartet)
- ラルフ・タウナー(Ralph Towner):ギター
- ヴィリ・フライフォーゲル(Willi Freivogel):フルート[2][3]

発表時の反響
AllMusicのリチャード・S・ジネルは「当時28歳のジャレットは、ジャンル分けを頑なに拒み、バロックから現代の不協和音まで自在に行き来している」と評価しています[1]。ただし、一般的なジャズ・ファンからは「実験的すぎて難解」との声もあり、クラシックや現代音楽ファンからは高い評価を受けました。アルバム全体としては「一度に通して聴くにはやや大作だが、現代音楽の最も興味深い人物の一人であるジャレットの深い洞察を与えてくれる」と評されています[2]。

特筆すべきこと
- ジャレットの「作曲家」としての側面が強く打ち出された、数少ないアルバムであること。
- ジャズ・ピアニストとしての即興性と、クラシック作曲家としての構築性が見事に融合している点[2]。
- ECMレーベルの徹底した音質・編集へのこだわりが、作品の完成度を高めていること[1]。
- 収録曲の多様性と実験精神は、ジャレットの音楽的探究心の高さを象徴しています。
『イン・ザ・ライト』は、キース・ジャレットの多面的な才能と、ECMレーベルの美学が結実した、現代音楽史における特異な金字塔といえるでしょう。



- https://en.wikipedia.org/wiki/In_the_Light_(Keith_Jarrett_album)
- https://ecmreviews.com/2010/10/02/in-the-light/
- https://ecmrecords.com/product/in-the-light-keith-jarrett/
- https://downbeat.com/microsites/ecm-jarrett/post_2-jarrectt-interview.html
- https://jazztokyo.org/interviews/post-46457/
- https://diskunion-jazztokyo.blog.jp/archives/25084925.html
- https://pjportraitinjazz.com/keith-jarrett/20190723_3928/
- https://organicmusic.jp/products/keith-jarrett-in-the-light
- https://www.discogs.com/ja/release/4648907-Keith-Jarrett-In-The-Light
- https://jazztimes.com/reviews/products-and-gear/sounds-of-jarrett/
- https://organicmusic.jp/en/products/keith-jarrett-in-the-light
- https://organicmusic.jp/collections/new-arrivals-music/products/keith-jarrett-in-the-light
- https://music.apple.com/us/album/in-the-light/1452838792
- https://diskunion.net/jazz/ct/detail/DF171006-135
- https://www.discogs.com/release/4648907-Keith-Jarrett-In-The-Light
- https://www.allmusic.com/album/in-the-light-mw0000612161
- https://rateyourmusic.com/release/album/keith-jarrett/in-the-light/
- https://burningambulance.com/2017/08/04/keith-jarrett-in-the-70s/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Keith_Jarrett
- https://www.discogs.com/release/3911233-Keith-Jarrett-In-The-Light
- https://musicaficionado.blog/2020/06/10/keith-jarretts-quartet-1973-1976/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Bridge_of_Light_(album)
- https://artsfuse.org/214395/jazz-album-review-keith-jarretts-budapest-concert-crystalline-endgame/
- https://indianapublicmedia.org/nightlights/birth-early-keith-jarrett.php