ゲイリー・ピーコック『テイルズ・オブ・アナザー』

『Tales of Another』(テイルズ・オブ・アナザー)は、アメリカのベーシスト、Gary Peacock(ゲイリー・ピーコック)が1977年2月にニューヨークのGeneration Sound Studiosで録音し、同年にECMレーベルからリリースしたアルバムです。
『Tales of Another』のコンセプトと制作背景
ピーコックのオリジナル曲のみで構成されており、ピアノにキース・ジャレット、ドラムにジャック・ディジョネットというトリオ編成。この組み合わせは後に「キース・ジャレット・スタンダーズ・トリオ」として長年にわたり活動することになる伝説的な顔ぶれですが、このアルバムが三人による最初の共演盤となります[1][2][3]。
当時ピーコックは、長い日本滞在から帰国した直後で、音楽活動の「カムバック」を意図した作品でもありました[3]。ピアニストの人選で悩んでいたピーコックは、ECMのプロデューサー、マンフレート・アイヒャーの勧めでキース・ジャレットの音源を聴き、彼を起用することを決めました[4]。
音楽性・サウンドの特徴
アルバムは全6曲(「Vignette」「Tone Field」「Major Major」「Trilogy I~III」)で構成され、すべてピーコックの作曲。自由度の高い即興性と、ECMらしい透明感ある音響美が特徴です。ピーコックのベースはスコット・ラファロの流れを汲む対位法的なアプローチで、単なる伴奏にとどまらずメロディやリズム、ハーモニーの中心を担います。ジャレットのピアノはリリカルかつ時に鋭く、ディジョネットのドラムは繊細なブラシワークや絶妙な間合いで全体を包み込みます[5][6][7]。
特に「Major Major」では、12音技法的な発想をメジャー・トライアドとペダルポイントに応用しており、ピーコックの作曲家としての独自性が際立ちます[7]。また、アルバム後半を占める「Trilogy」三部作は、三者の即興的な対話と緊密なインタープレイが頂点に達する楽曲群です[5]。
制作時のエピソード
録音はほぼリハーサルなしの一発録りに近い形で進められました。ピーコックは「細かい指示を出さなくても、音楽的な意味で“次に何をするか”を理解し合えるメンバーと演奏できるのは大きな安心だった」と語っています。また、ディジョネットは「この録音がきっかけで、マンフレート・アイヒャーが“この三人でトリオを組んでみてはどうか”と提案し、後のスタンダーズ・トリオ結成につながった」と回想しています[1]。
なお、録音後すぐにトリオとしての活動が始まったわけではなく、三人が再び集い本格的にスタンダード曲をレパートリーとするトリオとして録音を開始するのは1983年のことです[1][8][9]。
参加ミュージシャン
- ゲイリー・ピーコック(Gary Peacock):ダブルベース
- キース・ジャレット(Keith Jarrett):ピアノ
- ジャック・ディジョネット(Jack DeJohnette):ドラムス
この三人は後に「キース・ジャレット・トリオ」として、現代ジャズ史に燦然と輝く数々の名演を残しますが、その原点が本作です[1][2][3]。
発表時の反響
リリース当時から高い評価を受けました。AllMusicは「三者が完全な対等関係で、先鋭的な即興演奏の中でのサポートとコミュニケーションが印象的」と評し、Penguin Guide to Jazzも「ジャレットのアルバムではなく、ピーコックの音楽としての一体感が素晴らしい」とコメントしています。また、ジャレットの伝記作家イアン・カーは「1970年代のクラシック・アルバムの一つ。初共演とは思えぬ神秘的な一体感と、音楽が輝くような生命力がある」と絶賛しています[1]。

特筆すべきこと
- 『Tales of Another』は、後の「スタンダーズ・トリオ」誕生のきっかけとなった歴史的録音です[1][3]。
- 全曲ピーコック作曲で、彼の作曲家・即興演奏家としての個性が強く打ち出されています[7]。
- ジャレットのヴォーカライゼーション(演奏中の唸り声や声の発声)が顕著で、賛否両論を呼びましたが、これも彼の音楽的誠実さの現れと捉えられています[5]。
- ECMサウンドの代表例として、録音・ミキシングのクオリティも高く評価されています53。
まとめ
『Tales of Another』は、ゲイリー・ピーコックの音楽的再出発と、現代ジャズ・トリオの新たな地平を切り拓いた記念碑的作品です。即興性と構築性、個性と協調が高次元で融合したサウンドは、今なお多くのリスナーやミュージシャンに影響を与え続けています[1][3][5][7]。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Tales_of_Another
- https://ecmrecords.com/product/tales-of-another-gary-peacock-keith-jarrett-jack-dejohnette/
- https://ecmrecords.com/gary-peacock-1935-2020/
- https://jazztimes.com/features/profiles/keith-jarrett-jack-dejohnette-gary-peacock-standard-bearers/
- https://ecmreviews.com/2011/01/21/tales-of-another/
- http://www.jazzshelf.org/kjtrio.html
- https://jazztimes.com/features/lists/artists-choice-gary-peacock/
- https://calperformances.org/learn/program_notes/2013/pn_jarrett.pdf
- https://www.udiscovermusic.com/stories/keith-jarrett-gary-peacock-jack-dejohnette-standards-feature/
- https://www.discogs.com/master/168862-Gary-Peacock-Keith-Jarrett-Jack-DeJohnette-Tales-Of-Another
- https://www.allmusic.com/album/tales-of-another-mw0000515609
- https://organicmusic.jp/products/gary-peacock-tales-of-another-4
- https://plaza.rakuten.co.jp/hauhau/diary/202007010000/
- https://tower.jp/item/1644614
- https://organicmusic.jp/products/gary-peacock-tales-of-another-5
- https://www.dustygroove.com/item/555653/Gary-Peacock-Keith-Jarrett-Jack-DeJohnette:Tales-Of-Another
- https://organicmusic.jp/en/products/gary-peacock-tales-of-another-4
- http://www.jazzmusicarchives.com/album/gary-peacock/tales-of-another
- https://thebluemoment.com/2020/09/07/gary-peacock-1935-2020/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Standards,_Vol._1


