マイルス・デイヴィス『スケッチ・オブ・スペイン』

『Sketches of Spain』(スケッチ・オブ・スペイン)は、1960年にリリースされたMiles Davis(マイルス・デイヴィス)による歴史的なスタジオアルバムであり、ジャズ界の巨匠ギル・エヴァンスとのコラボレーション作品です。
『Sketches of Spain』(スケッチ・オブ・スペイン)の概要とコンセプト
本作は、ジャズとヨーロッパのクラシック音楽、スペイン民謡の要素を融合させた「サード・ストリーム」の傑作の一つとされ、多様な音楽的境界を越える試みがなされています[1][2]。
アルバムの誕生は、マイルス・デイヴィスが妻フランシスと共にフラメンコ・ダンサーの公演を観たことに端を発します。情熱的なスペイン音楽に感銘を受けたマイルスはフラメンコやスペイン民謡のレコードを集め始め、それが中心的なインスピレーション源となりました。当初はホアキン・ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」を中心に据える予定でしたが、やがてスペイン各地の伝統音楽を広く取り入れる内容へと発展していきました[1][2][3]。
音楽性とサウンドの特徴
サウンドの融合と楽曲構成
本作の最大の特徴は、ジャズとスペイン古典音楽、民謡、およびクラシックの融合にあります。冒頭の「Concierto de Aranjuez (Adagio)」はロドリーゴの原曲に忠実ながらも、マイルスのトランペットとオーケストレーションにより独特の色彩を帯びています。「Will o’ the Wisp」はマヌエル・デ・ファリャのバレエ『恋は魔術師』からの楽曲、「The Pan Piper」はペルーのインディアン・フォーク、「Saeta」と「Solea」はアンダルシア地方の伝統的なフラメンコや聖週間の宗教歌を編曲したものです[3][4][5]。
また、全編を通じて緻密かつ壮大なオーケストレーションが展開され、マイルスのトランペットは、時には悲しみや内省、そして情熱を絞り出すように表現されています。従来のビバップやハードバップではなく、旋律の美しさやリズムの多様さ、繊細な空間表現が特徴です。特に「Saeta」や「Solea」では、静寂から盛り上がりへ至る緩急のある構成、民族的な旋律、抒情的な即興が光ります[3][5][6]。
技術的・感情的アプローチ
本作のトランペットは、非凡なリリシズムと絞り出すような音色、「ブルース」の魂を内包しつつ、アラブ・アフリカ音楽的なスケールを取り入れている点も注目されます。ギル・エヴァンスのアレンジメントは、ウィンドアンサンブルをストリングスのように活用するなど、通常のジャズオーケストレーションとは一線を画しています[3][6][7]。
参加ミュージシャン
主要な参加ミュージシャンは以下のとおりです。
| 楽器 | ミュージシャン名 |
|---|---|
| トランペット | Miles Davis |
| アレンジ・指揮 | Gil Evans |
| ピアノ | Bill Evans |
| ベース | Paul Chambers |
| ドラムス | Jimmy Cobb, Elvin Jones |
| その他(フルート、チューバ等) | Albert Block, Eddie Caine, Bill Barber, Jimmy McAllister等[8][9] |
大編成のオーケストラが使用され、当時のモダンジャズ・ミュージシャンのみならず、多様な楽器奏者が集結しているのも特徴です。
トラック・リスト
Side 1
- Concierto De Aranjuez(アランフェス協奏曲) - (J. Rodrigo)
- Will O' The Wisp(ウィル・オ・ザ・ウィスプ) - (M. De Falla)
Side 2
- The Pan Piper(ザ・パン・パイパー) - G. Evans)
- Saeta(サエタ) - (G. Evans)
- Solea(ソレア) - (G. Evans)
制作時のエピソード
録音は1959年11月と1960年3月、ニューヨーク・コロンビア30丁目スタジオで行われました。『Kind of Blue』とは対照的に、非常に綿密なリハーサルと多くのテイクを重ねて制作され、特にギル・エヴァンスの完璧主義ぶりが伺えます。時にレコーディング中にメンバーがこっそり野球中継を聴いていたという微笑ましい逸話や、Davisが完成後に「すべての感情が枯渇した」と漏らしたほどエネルギーを費やした難産のアルバムであったことも特筆されます[3][10]。
発表当時の反響と評価
リリース当初から大きな話題となり、評論家Bill Mathieuは「20世紀における最も重要な音楽作品の一つ」と評しています。ジャズの伝統的枠組みから逸脱していたため一部に賛否はあったものの、最終的には新たなジャズの可能性を切り拓いた作品と高く評価されました。1961年にはグラミー賞「Best Jazz Composition of More Than Five Minutes Duration」を受賞し、『ローリング・ストーン誌』の「歴代最優秀アルバム500選」にも選出されています[1][2][10]。

特筆すべきこと・レガシー
- サードストリームという新ジャンルの代表作であり、「ジャズはどこまで広がれるか」という問いに対し明快な回答を示しました。
- ジョン・コルトレーンの『Africa/Brass』など、以降のジャズ×オーケストレーション作品にも多大な影響を与えました。
- モーダル・ジャズや民族音楽的アプローチの深化により、従来のジャズファンのみならずクラシックやワールドミュージックリスナーにも受け入れられ、マイルスのさらなる飛躍の足場となりました[1][2][3][11]。
まとめ
『スケッチ・オブ・スペイン』は、マイルス・デイヴィスの豊かな感性とギル・エヴァンスの革新性、そして多彩な演奏陣が一体となって生み出した、音楽ジャンルを超えた金字塔です。スペインの情熱的な旋律、クラシカルな構成と即興、そして深い情感が織り成す独自の世界観は、60年以上を経ても色褪せることなく、多くの音楽リスナーに新たな発見と感動を与え続けています[1][2][3][6][10]。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Sketches_of_Spain
- https://jazzdaily.blog/2023/11/20/sketches-of-spain-miles-davis-flamenco-inspired-jazz-masterpiece/
- https://www.milesdavis.com/albums/sketches-of-spain/
- https://music.apple.com/ca/album/sketches-of-spain/832060615
- https://music.apple.com/gb/album/sketches-of-spain/832060615
- https://www.npr.org/2011/06/17/4555394/miles-davis-sketches-of-spain
- https://www.goldenplec.com/featured/miles-davis-sketches-of-spain-golden-vault-82/
- https://www.hemioliarecords.com/en/master-tapes/59-sketches-of-spain-miles-davis-2reels-8050616581327.html
- https://www.allmusic.com/album/sketches-of-spain-mw0000191713
- https://www.jazzmessengers.com/en/75442/miles-davis/sketchesofspain
- https://www.reddit.com/r/Jazz/comments/16fanpv/is_sketches_of_spain_a_truly_unique_album/
- https://www.kcrw.com/music/shows/tom-schnabels-rhythm-planet/the-dna-of-miles-davis-sketches-of-spain
- https://forum.audiogon.com/discussions/miles-davis-sketches-of-spain-inside-story-1960
- https://music.apple.com/us/album/sketches-of-spain/832060615
- https://www.albumoftheyear.org/user/justsomeguy/album/6041-sketches-of-spain/
- https://www.reddit.com/r/Jazz/comments/15i06tn/journey_into_jazz_miles_davies_sketches_of_spain/
- https://www.discogs.com/master/48172-Miles-Davis-Sketches-Of-Spain
- https://pl.wikipedia.org/wiki/Sketches_of_Spain
- https://www.kcrw.com/music/articles/show-100-tracing-miles-daviss-sketches-of-spain
- https://www.elsewhere.co.nz/albumconsidered/7960/miles-davis-sketches-of-spain-considered-1960-jazz-at-the-interface-of-classical-music/


