カーリー・サイモン『トーチ』

Carly Simon(カーリー・サイモン)の1981年リリースアルバム『Torch』(トーチ)は、彼女のキャリアにおいて重要な転換点となった作品です。このアルバムは、サイモンが初めてスタンダードナンバーに挑戦した意欲作であり、特にトーチソングと呼ばれる失恋や片思い、報われない愛などを歌った、感傷的なラブソングを中心に構成されています[1][3]。
コンセプトと背景
『トーチ』は、1940年代から50年代のブロードウェイミュージカルや映画音楽から選曲された楽曲で構成されています[1]。サイモンは当時、ジェームス・テイラー(James Taylor)との結婚生活が破綻に向かう中で、自身の心の痛みを表現するのに最適な曲を探していました[1][3]。
アルバムには、Hoagy Carmichael、Alec Wilder、Richard Rodgers & Lorenz Hart、Duke Ellington & P.F. Websterなど、名だたる作曲家の楽曲が収録されています[1]。また、唯一のオリジナル曲として「From the Heart」が含まれており、これはテイラーとの関係の崩壊を描いた曲となっています[1]。
音楽性とサウンドの特徴
『トーチ』の音楽性は、従来のシンガーソングライター的なアプローチから大きく離れ、よりソフィスティケートされたサウンドを追求しています。プロデューサーのマイク・マイニエリ(Mike Mainieri)は、最高のセッションミュージシャンを起用し、豊かでありながら抑制の効いたオーケストレーションを実現しました[1]。
アルバム全体を通して、サイモンの豊かなコントラルトの声が際立っています。特に「I'll Be Around」や「Pretty Strange」での彼女の歌唱は、真摯な憧れと悲しみから得た知恵に満ちています[1]。
サウンド面では、ドラムス、ストリングス、ホーン、そしてシンセサイザーの控えめな使用が特徴的です。前作『Come Upstairs』の新波的なサウンドと比較すると、『トーチ』はほぼアヴァンギャルドとも言えるミニマリスティックな制作アプローチを取っています[1]。
参加ミュージシャン
アルバムには多くの優れたミュージシャンが参加しています[3]:
- Warren Bernhardt(ウォーレン・バーンハート):ピアノ、シンセサイザー
- Mike Mainieri(マイク・マイニエリ):アレンジ、ピアノ、ヴァイブラフォン、マリンバ
- Hugh McCracken(ヒュー・マクラッケン):ギター
- Lee Ritenour(リー・リトナー):ギター
- Anthony Jackson(アンソニー・ジャクソン):ベース
- Eddie Gomez(エディ・ゴメス):ベース
- Rick Marotta(リック・マロッタ):ドラムス
- Grady Tate(グレイディ・テイト):ドラムス
- Jerry Marotta(ジェリー・マロッタ):ドラムス
- David Sanborn(デイヴィッド・サンボーン):アルトサックス
- Phil Woods(フィル・ウッズ):アルトサックス
- Michael Brecker(マイケル・ブレッカー):テナーサックス
- Randy Brecker(ランディ・ブレッカー:トランペット
発表時の反響
『トーチ』は批評家から高い評価を受けました。Rolling Stoneの評論家Stephen Holdenは、このアルバムを「華麗な回帰」と称し、サイモンの「荒々しい低音と物憂げな高音を持つ壮麗なアルト」が素晴らしいと絶賛しました[5]。
特に「Not a Day Goes By」は、アルバムの真髄を表現した曲として高く評価されました。Holdenは「大きく直接的なバラードで、サイモンのヴォーカルは一つ一つの痛みを感じさせる」と評しています[3]。
しかし、商業的には大きな成功を収めることはできませんでした。レコード会社のワーナーブラザースのプロモーション不足もあり、リリースされた2枚のシングル「Hurt」と「I Get Along Without You Very Well」はチャートでの影響力を持ちませんでした[1][3]。

特筆すべき点
『トーチ』は、サイモンのキャリアにおいて重要な転換点となりました。これは彼女が初めて本格的にスタンダードナンバーに挑戦したアルバムであり、後の『My Romance』(1990)、『Film Noir』(1997)、『Moonlight Serenade』(2005)といったスタンダードアルバムシリーズの先駆けとなりました[2]。
また、このアルバムは1975年から1983年にかけてサイモンが生み出した創造的な録音の中でも特筆すべき作品であり、彼女の解釈力が作曲家やミュージシャンとしての能力に匹敵することを示しました[1]。
アルバムジャケットも印象的で、写真家、リン・ゴールドスミス(Lynn Goldsmith)が撮影した、背中を向けた男性の腕を引っ張るサイモンの姿が描かれています。この男性は後に友人となる『Dynasty』の俳優アル・コーリー(Al Corley)でした[1][3]。
『トーチ』は、商業的な成功には至らなかったものの、サイモンの芸術性と表現力を十分に示した作品として、彼女のディスコグラフィーにおいて重要な位置を占めています。
Citations:
[1] https://albumism.com/features/carly-simon-torch-turns-40-anniversary-retrospective
[2] http://www.riffsbeatsandcodas.com/book-review-blog/2016/1/31/confessing-obsessing-and-professing-carly-simon-bares-her-soul
[3] https://en.wikipedia.org/wiki/Torch_(Carly_Simon_album)
[4] https://www.independent.co.uk/incoming/carly-simon-true-confessions-6111860.html
[5] https://www.rollingstone.com/music/music-album-reviews/torch-194415/
[6] https://johnesimpson.com/blog/2009/02/whats-in-a-song-i-get-along-without-you-very-well-part-1/