ブルース・スプリングスティーン『ボーン・イン・ザ・U.S.A』

『Born in the U.S.A.』 (ボーン・イン・ザ・U.S.A.) はBruce Springsteen(ブルース・スプリングスティーン)が1984年にコロンビア・レコードから発表したアルバム。
コンセプト
『Born in the U.S.A.』は、アメリカの労働者階級の苦悩、失望、愛国心、個人的な関係性といったテーマを中心に据えたアルバムです。全体としてはコンセプト・アルバムとまでは言えないものの、12曲は互いに響き合うように選ばれており、個人史や社会的な背景、自己実現の可能性を探る内容が貫かれています[1][7]。
タイトル曲「Born in the U.S.A.」は、ベトナム戦争から帰還した兵士の冷遇を描いたプロテストソングであり、明るく力強いサウンドとは裏腹に、アメリカン・ドリームの崩壊や社会への幻滅を鋭く告発しています[1][6]。この曲のメッセージはしばしば誤解され、愛国的なアンセムと受け取られることが多かったのも特徴です[1][6]。
音楽性・サウンドの特徴
本作はロックンロール、ハートランド・ロック(ブルーカラーの労働者視点のロック)、ポップ、フォーク、ロカビリーの要素を持ち、1980年代半ばの主流ロックを象徴するサウンドが特徴です。シンセサイザーが前面に押し出され、「強烈」なギターと「巨大」なドラム、そして力強いボーカルが印象的です[1][2]。
特に表題曲「Born in the U.S.A.」では、ロイ・ビタンのシンセサイザーとマックス・ワインバーグの直線的なドラムが全編を牽引し、シンプルで反復的な構成がスタジアムでの大合唱を生み出しました[2]。アルバム全体で2~3コードのシンプルな楽曲構成が多く、ポップで親しみやすいメロディが並びます[1]。
また、ディスコやファンクの要素を取り入れた「Cover Me」、カントリー色の強い「Darlington County」、シンセ主導の「I’m On Fire」など、多彩なアプローチが見られます[1][6]。
制作時のエピソード
制作はニューヨークのヒット・ファクトリーで行われ、表題曲のレコーディングではマックス・ワインバーグのドラムが最高のパフォーマンスだったとスプリングスティーン自身が語っています[3]。
また、タイトル曲の着想は、映画脚本家、Paul Schrader(ポール・シュレイダー)の未発表脚本『Born in the U.S.A.』からタイトルを拝借したことに始まります。さらに、ベトナム帰還兵Ron Kovic(ロン・コビック)の著書『Born on the Fourth of July』(7月4日に生まれて)に触発され、スプリングスティーンは多くのベトナム帰還兵と交流し、彼らの体験を楽曲に反映させました[6]。
アルバム完成直前には、長年の盟友スティーヴン・ヴァン・ザントがバンドを一時離脱するという出来事もあり、「Bobby Jean」など友情の喪失をテーマにした楽曲にも影響を与えています[6]。
参加ミュージシャン
- Bruce Springsteen – ボーカル、ギター
- E Street Band(Eストリート・バンド)
- ロイ・ビタン(Roy Bittan) – シンセサイザー、ピアノ、コーラス
- クラレンス・クレモンズ(Clarence Clemons) – サックス、パーカッション、コーラス
- ダニー・フェデリシ(Danny Federici) – ハモンドオルガン、グロッケンシュピール、ピアノ
- ギャリー・タレント(Garry Tallent) – ベース、コーラス
- リトル・スティーヴン(Steven Van Zandt[スティーヴン・ヴァン・ザント]) – アコースティックギター、マンドリン、ハーモニーボーカル
- マックス・ワインバーグ(Max Weinberg) – ドラム、コーラス
- 追加ミュージシャン
- リッチー・“ラ・バンバ”・ローゼンバーグ(Richie "La Bamba" Rosenberg) – コーラス
- ルース・ジャクソン(Ruth Jackson) – コーラス
プロデューサーはスプリングスティーン自身のほか、ジョン・ランドー(Jon Landau)、チャック・プロトキン(Chuck Plotkin)、スティーヴン・ヴァン・ザント(Steven Van Zandt)が担当しています。
発表時の反響
『Born in the U.S.A.』は1984年のリリース直後から爆発的な成功を収め、全米アルバムチャート2位、1985年の年間トップセールスを記録し、全世界で3,000万枚以上を売り上げました[4][5]。7曲ものトップ10シングルを生み出し、スプリングスティーンを一躍スタジアム級のスーパースターへと押し上げた作品です[1][5]。
批評家からも高い評価を受け、「親しみやすさと新しい音楽的要素を兼ね備えた作品」として絶賛されました。一方で、従来のファンからは「売れ線に寄りすぎた」との批判や、テーマの繰り返しを指摘する声もありました[1][4]。しかし、スプリングスティーンのストーリーテリングやバンドの演奏力は多くの批評家に称賛されています[1]。

特筆すべきこと
- 本作はシンセサイザーを大胆に導入し、従来のハートランド・ロックから一歩進んだサウンドを確立しました[1][4]。
- タイトル曲「Born in the U.S.A.」は、そのメッセージがしばしば誤解され、政治家によるキャンペーンソングとしても利用されるなど、社会的な議論を巻き起こしました[1][3]。
- スプリングスティーンのキャリア最大の商業的成功作でありながら、アメリカ社会の光と影を描き続ける彼の姿勢は揺るぎません[6]。
- 「No Surrender」や「Bobby Jean」など、友情や青春の喪失をテーマにした楽曲も収録され、個人的な物語と社会的メッセージが見事に融合しています[6]。
まとめ
『Born in the U.S.A.』は、アメリカの現実を鋭く描きつつも、ポップで親しみやすいサウンドで多くの人々に受け入れられた、ロック史に残る名盤です。商業的成功と社会的メッセージ、音楽的進化が高次元で融合した本作は、今なお多くのリスナーに新たな発見をもたらし続けています。
Citations:
- https://en.wikipedia.org/wiki/Born_in_the_U.S.A.
- https://www.shmoop.com/study-guides/born-in-the-usa/music.html
- https://www.theringer.com/2024/06/04/music/born-in-the-usa-politicians-campaign-bruce-springsteen-misinterpreted
- https://www.blogness-brucespringsteen.net/post/born-in-the-usa-40-years-springsteen-greatest-album
- https://www.boston.com/culture/music/2024/06/04/springsteen-born-in-the-usa-is-40-is-it-his-greatest-album/
- https://rockcellarmagazine.com/bruce-springsteen-born-in-the-usa-40th-anniversary-retrospective/
- https://ultimateclassicrock.com/bruce-springsteen-born-in-the-u-s-a/
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BBU.S.A.
- https://www.reddit.com/r/BruceSpringsteen/comments/b3kubr/unpopular_opinion_born_in_the_usa_is_bruces_best/
- https://www.npr.org/2019/03/26/706566556/bruce-springsteen-born-in-the-usa-american-anthem
- https://en.wikipedia.org/wiki/Born_in_the_U.S.A._(song)
- https://www.loudersound.com/features/bruce-springsteen-born-in-the-usa
- https://open.spotify.com/album/0PMasrHdpaoIRuHuhHp72O
- https://www.reddit.com/r/BruceSpringsteen/comments/xzycws/born_in_the_usa_album/
- https://www.thatericalper.com/2025/02/18/5-surprising-facts-about-bruce-springsteens-born-in-the-u-s-a/
- http://brucebase.wikidot.com/stats:born-in-the-usa-studio-sessions
- https://www.reddit.com/r/LetsTalkMusic/comments/oifptc/lets_talk_reevaluating_the_themes_of_bruce/
- https://www.rollingstone.com/music/music-features/bruce-springsteen-wrote-born-in-usa-exclusive-book-excerpt-811634/
- https://songlexikon.de/songs/bornintheusa/
- https://www.voanews.com/a/springsteen-dead-mans-town-born-in-the-usa/2483939.html