トッド・ラングレン『魔法使いは真実のスター』

トッド・ラングレン『魔法使いは真実のスター』
トッド・ラングレン(Todd Rundgren)『魔法使いは真実のスター』(A Wizard, a True Star)

1973年にリリースされた『A Wizard, a True Star』(魔法使いは真実のスター)は、Todd Rundgren(トッド・ラングレン)が前作『Something/Anything?』で商業的成功を収めた直後に発表した4作目のソロ・アルバムです。

コンセプト

本作は「幻覚剤にインスパイアされた“フライトプラン”」というコンセプトを持ち、アルバム全体がシームレスに繋がる構成となっています。冒頭はカオスなムードで始まり、最後はソウル・ミュージックのメドレーで幕を閉じるという、サイケデリックなトリップの流れを音楽で表現しています[1][2]。

ラングレン自身は「音楽やサウンドが自分の内面環境でどのように感じられるかを表現したかった」と語っており、従来のポップソングの枠にとらわれない自由な発想で制作されました。アルバムタイトルについても「本物のスターではなく、“知識の探求”と“愛の探求”という人間的傾向の音楽的代表」と説明し、リスナーに意味付けを委ねています[1]。

音楽性・サウンドの特徴

本作はプログレッシブ・ロック、サイケデリック・ロック、ショーチューン、バブルガム・ポップ、フィラデルフィア・ソウル、さらにはジャズやファンクの要素まで幅広く取り入れた“音楽の万華鏡”とも言える作品です[1][2][3]。

  • 各曲はジャンルや雰囲気が目まぐるしく変化し、1曲ごとに全く異なる世界観が展開されます[2][3]。
  • シンセサイザーをはじめとする電子楽器の大胆な導入、サウンドコラージュやノイズ、エフェクトを多用した前衛的な音作りが特徴です[1][4]。
  • 19曲・約56分という当時としては異例の長尺を1枚のLPに収めており、曲同士が切れ目なく流れる構成も斬新でした[1][2]。
  • アルバム後半にはインプレッションズ、ミラクルズ、デルフォニックス、キャピトルズといったソウル・クラシックのメドレーも収録され、ラングレンの音楽的ルーツへのオマージュも感じられます[1]。

制作時のエピソード

ラングレンは本作の制作にあたり、キーボーディストのモーギー・クリングマンとともにニューヨークに「Secret Sound Studio」を設立。自分の好きなだけ実験できる環境を整え、ほぼ全ての楽器とプロデュース、エンジニアリングを自ら担当しました[1][3]。

制作中はスタジオ機材のトラブルが頻発し、「バンドエイドとガムテープで何とか動かしていた」とクリングマンは回想しています[1]。また、ラングレンは幻覚剤(DMT、メスカリン、シロシビンなど)を積極的に体験し、その混沌とした内面世界を音楽に投影しようとしたと語っています[2][4]。

参加ミュージシャン

トッド・ラングレン自身が大半の楽器を演奏していますが、キーボードのムーギー・クリングマンをはじめ、複数のセッション・ミュージシャンが参加しています[1][3]。ラングレンの「一人多重録音」的な手法が大きな特徴です。

  • トッド・ラングレン(Todd Rundgren):ボーカル、ギター、キーボード、シンセサイザー、ベースギター、ドラム、パーカッション、サックス、プロデュース

ムーギー&ザ・リズム・キングス(Moogy & the Rhythm Kingz)

  • マーク・“ムーギー”・クリングマン(Mark "Moogy" Klingman):キーボード、オルガン、ピアノ、エレクトリック・ピアノ、グロッケンシュピール
  • ラルフ・シュケット(Ralph Schuckett):キーボード、オルガン、RMI、クラヴィネット、アコーディオン
  • ジョン・シーグラー(John Siegler):ベース、チェロ
  • ジョン・サイオモス(John Siomos):ドラムス、パーカッション

ゲスト・ミュージシャン

  • ジャン=イヴ・“M. フロッグ”・ラバト(Jean-Yves "M. Frog" Labat): VCS3シンセサイザー、ウッドウィンド
  • リック・デリンジャー(Rick Derringer):ギター
  • マイケル・ブレッカー(Michael Brecker):サックス
  • ランディ・ブレッカー(Randy Brecker):トランペット
  • バリー・ロジャース(Barry Rogers):トロンボーン
  • デイヴィッド・サンボーン(David Sanborn):サックス
  • バッファロー"・ビル・ゲルバー("Buffalo" Bill Gelber):ベース on 「たったひとつの勝利」
  • トム・コスグローヴ(Tom Cosgrove):ギター on 「たったひとつの勝利」

発表時の反響

リリース当初、批評家からは高い評価を受けたものの、商業的には前作ほどの成功を収められず、全米チャート86位止まりでした。ラングレン自身も「この作品でファンの半分を失った」と振り返っています。シングルカットも行われず、アルバム全体の流れで聴かれることを重視しました[1][6]。

しかし、後年になると本作は「ベッドルーム・ミュージシャン」や現代のプロデューサー型アーティストに多大な影響を与えた作品として再評価され、トレント・レズナーやテーム・インパラなど多くのアーティストに賞賛されています[2][4][6]。

ジャケットデザイン

アルバムジャケットはアーサー・ウッドが手がけたシュールレアリスティックな絵画で、独自の暗号メッセージが埋め込まれています。ウッドは「自分が発明した小さな言語やリズムのようなものを絵の中に流し込んだ」と語っており、ファンによって解読されたメッセージには「Be true to your work, and your work will be true to you.」など、誠実さや愛をテーマにした言葉が隠されています[5]。また、ジャケット自体も変形スリーブという凝った仕様でした[5]。

特筆すべきこと

  • 本作は「シングルヒット狙い」からの決別と、「アーティストとしての自己表現の追求」を象徴する作品です[1][6]。
  • その音楽的冒険心や実験性は、後の宅録アーティストやプロデューサー型ミュージシャンに大きな影響を与えました[2][4]。
  • アルバム発表後、ラングレンは自身のバンド「ユートピア」を結成し、より実験的な活動へと舵を切っていきます[1]。
  • 収録曲「International Feel」は後年、ダフト・パンクの映画『Electroma』でも使用されるなど、時代を超えて評価されています[6]。

まとめ

『A Wizard, a True Star』は、トッド・ラングレンの創造性と実験精神が極限まで発揮されたアルバムであり、サイケデリック・ロックやプログレッシブ・ポップの金字塔として、今なお多くの音楽ファンやクリエイターに影響を与え続けています。商業的な成功よりも「自分に忠実であること」を選んだ本作は、アーティストの自由な表現の象徴とも言えるでしょう[1][2][4][5][6]。

Citations:

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/A_Wizard,_a_True_Star
  2. https://thirdeyepsychrock.blog/2025/04/24/a-wizard-a-true-star-by-todd-rundgren-1973/
  3. https://faroutmagazine.co.uk/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star-album-review/
  4. https://www.guitarplayer.com/players/largely-considered-a-career-mistake-todd-rundgrens-a-wizard-a-true-star-is-now-a-celebrated-work-heres-why
  5. https://labs.blogs.com/its_alive_in_the_lab/visualizing-arthur-woods-encrypted-messages-on-todd-rundgrens-a-wizard-a-true-star-album-cover.html
  6. https://www.rhino.com/article/march-1973-todd-rundgren-releases-a-wizard-a-true-star
  7. https://kxua.com/2025/04/07/a-wizard-a-true-star-by-todd-rundgren/
  8. https://www.headheritage.co.uk/unsung/the-book-of-seth/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star
  9. https://kakereco.com/magazine/?p=12349
  10. https://altrockchick.com/2025/03/02/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star-classic-music-review/
  11. https://psychedelicscene.com/2023/05/12/the-psych-ward-a-wizard-a-true-star-by-todd-rundgren/
  12. https://www.youtube.com/watch?v=k8wH6CsMzl0
  13. https://bangnzdrum.blogspot.com/2019/09/a-wizard-true-star-my-all-time.html
  14. https://www.headheritage.co.uk/unsung/reviews/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star
  15. https://rhythms.com.au/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star/
  16. https://wmg.jp/toddrundgren/discography/13722/
  17. https://www.progarchives.com/forum/forum_posts.asp?TID=130574
  18. https://forums.stevehoffman.tv/threads/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star-lp.80987/
  19. https://oresuki.dreamlog.jp/archives/10868402.html
  20. http://jawbonepress.com/a-wizard-a-true-star/
  21. https://www.edition-olms.com/buecher/a-wizard-a-true-star/
  22. https://www.groovenutrecords.net/products/detail/14940
  23. https://www.resident-music.com/productdetails&product_id=108914
  24. https://www.stereo-records.com/detail.php?itemCd=70437
  25. https://www.librarycat.org/lib/cctesttc1/item/264809952
  26. https://rockokey.exblog.jp/15150713/
  27. https://somethingelsereviews.com/2020/04/15/todd-rundgren-individualist-a-true-star-interview/
  28. https://www.ultra-vybe.co.jp/post/CLOJ1897.html
  29. https://www.pinterest.com/oohmygodd/a-wizard-a-true-star/
  30. https://toddrundgren.bandcamp.com/album/a-wizard-a-true-star-live
  31. https://www.discogs.com/release/3351255-Todd-Rundgren-A-Wizard-A-True-Star
  32. https://ianmarchant.com/2010/02/a-true-star-a-wizard/
  33. https://onceuponatimeinthe70s.com/2022/07/26/a-wizard-a-true-star/
  34. https://www.huffpost.com/entry/still-a-wizard-a-true-sta_b_1325709
  35. https://www.progarchives.com/album.asp?id=20816
  36. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%94%E6%B3%95%E4%BD%BF%E3%81%84%E3%81%AF%E7%9C%9F%E5%AE%9F%E3%81%AE%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC
  37. https://oresuki.dreamlog.jp/archives/86030218.html
  38. https://labs.blogs.com/its_alive_in_the_lab/2010/11/paul-myers-a-wizard-a-true-star-todd-rundgren-in-the-studio.html
  39. https://www.goodreads.com/book/show/8695857-a-wizard-a-true-star
  40. https://en.wikipedia.org/wiki/Utopia_(band)
  41. https://thequietus.com/interviews/todd-rundgren-interview-drugs-patti-smith-mark-chapman-and-the-new-york-dolls/
  42. https://www.discogs.com/master/93839-Todd-Rundgren-A-Wizard-A-True-Star
  43. https://fridaymusic.com/products/todd-rundgren-a-wizard-a-true-star-transparent-magenta-vinyl-limited-2-lp-tour-edition-gatefold-cover-pre-order
  44. https://www.rhino.com/article/march-1973-todd-rundgren-releases-a-wizard-a-true-star
  45. http://tralfaz-archives.com/coverart/R/Rundgren/rundgren_wizard.html
SHARE:
この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
あなたへのおすすめ