トッド・ラングレン『ア・カペラ』

『A Cappella』(ア・カペラ)は、Todd Rundgren(トッド・ラングレン)が1985年に発表したスタジオ・アルバムです。
『A Cappella』のコンセプト
『ア・カペラ』は、その名の通り「声だけ」で全てのサウンドを構築した意欲作です。アルバムに収録された全ての音――リードボーカル、ハーモニー、ベース、ドラム、ギター、シンセサイザーに至るまで――が、ラングレン自身の声を多重録音し、E-mu Emulator(イーミュー エミュレータ)という初期のサンプラーで加工・変調することで生み出されています[2][3][5]。この手法により、従来のアカペラの枠を超え、声を「楽器」として徹底的に追求した革新的な作品となっています[6][7]。
音楽性・サウンドの特徴
- 全編ボーカル多重録音
ラングレンは自らの声を何重にも重ね、時には生の響きを活かし、時には電子的な加工を加えることで、ベースラインやドラム、シンセサイザー、パーカッションなど様々な楽器の音色を再現しています[2][3][7]。 - E-mu Emulator(イーミュー エミュレータ)の活用
当時としては先進的だったサンプリング技術を駆使し、声を切り貼りしながらリズムやメロディを構築。例えば「Blue Orpheus」では、声で作られた重厚なハーモニーと、まるでドラムマシンのようなビートが展開されます[2][5]。 - ジャンルの多様性
曲調はバラエティに富み、ドゥーワップ風の「Hodja」、キャッチーなポップ「Something to Fall Back On」、ゴスペル的な「Honest Work」、サイケデリックな「Miracle in the Bazaar」など、幅広い音楽性が声だけで表現されています[2][7][8]。 - 声の実験的アプローチ
ラングレンは「声そのものの限界」に挑戦しており、単なるアカペラではなく、声を加工し“シンセサイザー”や“打楽器”として使うことで、従来のアカペラと一線を画しています[6][8]。
制作時のエピソード
- レーベルとの軋轢と発売延期
アルバムは1984年に完成していましたが、当時の所属レーベルBearsville Recordsは「実験的すぎて商業的に難しい」と判断し、発売を見送りました。その後、Bearsvilleが倒産し、Warner Bros.が契約を引き継いだことでようやくリリースに至ります[3][4][5]。 - 制作の裏側
ラングレンはE-mu Emulatorというモノフォニック・サンプラーを用い、ピアノで作曲したものを一音ずつ声でサンプリングし、レゴブロックのように積み上げていったと語っています[2]。曲ごとにアプローチを変え、「Pretending to Care」ではまずピアノで全体を作り、後から声で置き換える手法を採用。一方、「Johnee Jingo」では最初から声だけでリズムやメロディを構築しています[2]。
参加ミュージシャン
本作はトッド・ラングレンの「完全なソロ作品」であり、全てのボーカル、サウンド、プロデュース、エンジニアリングを彼自身が担当しています[3][7]。外部ミュージシャンやゲストは一切参加していません。
発表時の反響
- 評価とチャート成績
発売当初はその実験性から賛否両論を呼び、批評家からは「勇敢な実験作」と評価される一方、一般リスナーやレーベルからは「奇妙な作品」と見なされました[4][5][8]。商業的にはBillboardアルバムチャートで128位と、ラングレンのキャリアの中では控えめな成績にとどまりました[3][8]。 - 後世への影響
その後の音楽シーンにおいて、サンプリングや声を多重録音する手法は広く一般化し、マイク・パットンやビョークといったアーティストにも影響を与えたと評価されています[3][5][8]。

特筆すべきこと
- ライブ・パフォーマンス
アルバム発表後のツアーでは、ラングレンは11人編成のコーラス隊を従え、バンドではなく「声だけ」のアンサンブルで楽曲を再現するという斬新なステージを展開しました[1][5]。 - カバーとサンプリング
「Pretending to Care」はジェニファー・ウォーンズやダリル・ブレイスウェイトなど複数のアーティストにカバーされ、「Johnee Jingo」や「Lost Horizon」はヒップホップや他ジャンルでサンプリングされています[3]。 - アートワークとスタッフ
アートディレクションもラングレン自身が担当し、アルバム全体が彼の個性と実験精神で貫かれています[7]。
総括
『ア・カペラ』は、トッド・ラングレンの革新性とスタジオ技術の粋を極めたアルバムです。声という最もパーソナルな楽器を徹底的に追求し、サンプリングや多重録音を駆使することで、従来のアカペラやポップスの枠を超えたサウンドを実現しました。その実験性ゆえに商業的な成功は限定的でしたが、後世の音楽制作やアーティストに大きな影響を与えた、1980年代を代表する“異色の名盤”です[3][5][8]。
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Citations:
- http://tel1400.blog.fc2.com/blog-entry-4041.html
- https://www.youtube.com/watch?v=RRTDlnjVM1o
- https://en.wikipedia.org/wiki/A_Cappella_(Todd_Rundgren_album)
- https://blog.musoscribe.com/index.php/2019/07/26/cant-stop-running-todd-rundgrens-nearly-human-at-30/
- https://daily.redbullmusicacademy.com/2013/07/todd-rundgren-a-capella/
- http://tel1400.blog.fc2.com/blog-entry-6262.html
- https://insheepsclothinghifi.com/album/todd-rundgren-a-cappella/
- https://thisisbooksmusic.wordpress.com/2015/09/10/dust-it-off-todd-rundgren-a-cappella-30-years-later/
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- https://ultimateclassicrock.com/todd-rundgren-interview-2025/
- https://www.progarchives.com/album.asp?id=20891
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- http://burnwoodtonite.blogspot.com/2020/04/a-buyers-guide-to-todd-rundgren.html
- https://oresuki.dreamlog.jp/archives/10868402.html
- https://raregroove.jp/en/products/todd-rundgren-a-cappella-1
- https://www.discogs.com/master/93859-Todd-Rundgren-A-Cappella
- https://www.discogs.com/release/8201051-Todd-Rundgren-A-Cappella
- https://en.wikipedia.org/wiki/Category:Albums_produced_by_Todd_Rundgren
- https://www.discogs.com/release/4163149-Todd-Rundgren-A-Cappella
- https://www.soundonsound.com/people/todd-rundgren
- https://www.reddit.com/r/toddrundgren/comments/s2ny06/a_capella_project/
- https://www.youtube.com/watch?v=22BsxsprVfU
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- https://www.allmusic.com/album/a-cappella-mw0000198336
- https://en.wikipedia.org/wiki/Todd_Rundgren
- https://www.discogs.com/release/1548266-Todd-Rundgren-A-Cappella
- https://www.imdb.com/name/nm0750221/trivia/
- https://oresuki.dreamlog.jp/archives/18637085.html
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%9A%E3%83%A9_(%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%A0)
- https://thelogbook.media/music/todd-rundgren-a-capella/
- https://masque-musik.tea-nifty.com/progre/2007/09/post.html
- https://www.discogs.com/release/3770469-Todd-Rundgren-A-Cappella
- https://americansongwriter.com/4-of-todd-rundgrens-greatest-production-credits-for-other-bands-music/
- https://www.youtube.com/watch?v=0Cw5fW63qpE
- https://www.albumoftheyear.org/album/56157-todd-rundgren-a-cappella.php
- https://www.reddit.com/r/toddrundgren/comments/1jkk5ny/todd_rundgren_a_cappella_albums_i_blank_2/