ティアーズ・フォー・フィアーズ『シャウト』

ティアーズ・フォー・フィアーズ『シャウト』
ティアーズ・フォー・フィアーズ(Tears for Fears)『シャウト』(Songs From The Big Chair)

『Songs From The Big Chair』(邦題:シャウト)は、Tears for Fears(ティアーズ・フォー・フィアーズ)が1985年2月25日に発表した2作目のスタジオ・アルバムであり、彼らのキャリアと80年代ポップ・ミュージックを象徴する金字塔的作品です[3][6]。このアルバムは、世界的な大ヒットを記録し、バンドの名声を決定づけました。

『Songs From The Big Chair』のコンセプトとテーマ

アルバムタイトルは、1976年の映画『Sybil』(シビル、日本未公開)に由来しています。映画の主人公シビル(サリー・フィールド)は多重人格障害を抱えており、セラピストの「大きな椅子」だけが心の安らぎを得られる場所でした。Curt Smithは「“Big Chair”のアイデアは、16の人格を持つ少女が唯一自分でいられる場所としての椅子から来ている」と語っています。このタイトルには、バンド自身がイギリス音楽メディアからのプレッシャーや批判から逃れ、安心できる場所を求める皮肉も込められています[1]。原題の直訳は「大きな椅子からの歌集」。

アルバム全体のテーマは、前作『The Hurting』の個人的・心理的な苦悩から、より広い社会的・政治的テーマ(戦争、権力、喪失、腐敗など)へと拡大しています[1][3][5][6]。歌詞にはカタルシスや自己解放、社会への問いかけが色濃く反映されています。

音楽性・サウンドの特徴

前作のシンセポップ色を残しつつも、より壮大でオーケストラルなサウンドへと進化しています[2][3][10]。ギター、ピアノ、サックス、ベースなど生楽器の導入が増え、音の厚みやダイナミズムが格段に向上しました[10]。

  • シンセサイザーとサンプラー
    主にYAMAHA DX7、PPG Wave 2.3、Sequential Prophet T-8、Fairlight CMIなど80年代最先端の機材が用いられ、UMI(Universal Musical Interface)というMIDIシーケンサーで精緻なプログラミングが行われました[4]。
  • ドラムマシンと生ドラムの融合
    LinnDrum、Oberheim DMXなどのドラムマシンと生ドラム(Manny Elias)が巧みに組み合わされ、独特のリズム感を生み出しています[4][10]。
  • 楽曲ごとの多様性
    8曲それぞれが異なる個性を持ち、プログレッシブ・ロック、ジャズ、ワールドミュージック的要素も取り入れられています[2][3][7]。

代表曲とその特徴

  • Shout
    プリミティブなドラムパターンとシンセのリフ、繰り返される「Shout, shout, let it all out」のフックが特徴。冷戦時代への抗議、自己表現の重要性を訴えるメッセージソングであり、制作には数ヶ月を要しました[1][6][11]。
  • Everybody Wants to Rule the World
    2つのシンプルなコード進行から生まれた楽曲で、わずか1週間で完成。政治的腐敗や権力への欲望、環境問題などをテーマにしています[3][6]。
  • Head Over Heels / Broken
    メロディアスなピアノとサックスが印象的で、感情の爆発や恋愛の混乱を描写。Brokenはインストゥルメンタルで、Head Over Heelsのリプライズとしても機能します[3][7]。
  • Listen
    アルバムのラストを飾るシンフォニックなインストゥルメンタル。多層的なアンビエンスとワールドミュージックの要素が融合し、静謐かつ壮大な余韻を残します[7]。

制作時のエピソード

レコーディングは主にバンド所有のThe Wool Hallスタジオ(バース近郊)で行われました。メンバー自身がスタジオを設営し、リラックスした環境で制作が進められたため、前作よりもはるかにスムーズだったとオーザバルlは語っています[9]。プロデューサーのクリス・ヒューズとキーボーディストのイアン・スタンリーがアレンジやサウンド構築の中心を担い、ローランド・オーザバルの楽曲アイデアを膨らませていきました[9][11]。

「Shout」の制作では、オーザバルが持ち込んだシンプルなデモを基に、数ヶ月かけてリズムやシンセ、ギターソロなどを少しずつ加えていく有機的なプロセスが取られました[11]。

参加ミュージシャン

  • Roland Orzabal(ローランド・オーザバル):ギター、リードボーカル、作曲
  • Curt Smith(カート・スミス):ベース、ボーカル
  • Ian Stanley(イアン・スタンリー):キーボード、バッキングボーカル
  • Manny Elias(マニー・エリアス):ドラム、パーカッション

ゲストミュージシャン

  • Chris Hughes(クリス・ヒューズ):プロデュース、追加ドラム
  • Will Gregory(ウィル・グレゴリー):サックス(「I Believe」など)[2][10]

発表時の反響と評価

アルバムはイギリスで2位、アメリカではビルボード・アルバムチャート1位を獲得し、全世界で800万枚以上を売り上げる大ヒットとなりました[1][6][8]。シングル「Shout」「Everybody Wants to Rule the World」は全米1位を記録。批評家からも高評価を受け、80年代を代表するアルバムの一つとされています[1][2][8]。

特筆すべきこと・レガシー

  • MTV時代の象徴:ビデオクリップの大量オンエアにより、世界的な知名度を獲得[8]。
  • ジャンル横断的なサウンド:シンセポップ、プログレ、ロック、ジャズ、ワールドミュージックの要素を融合した先進的な音作り[2][7]。
  • 後世への影響:2001年の映画『ドニー・ダーコ』で「Head Over Heels」が使用されるなど、世代を超えて愛される楽曲群[8]。
  • バンドの頂点:本作の成功により、ティアーズ・フォー・フィアーズは世界的なアリーナ級バンドへと成長しました[1][6]。

まとめ

『シャウト』は、ティアーズ・フォー・フィアーズが個人的な苦悩から社会的テーマへと視野を広げ、音楽的にもシンセポップから壮大なポップ・ロックへと進化した歴史的名盤です。革新的なサウンド、深いテーマ性、そして普遍的なメロディが融合した本作は、今なお多くのリスナーに影響を与え続けています[1][2][3][6][7][8][10][11]。

  1. https://www.classicpopmag.com/features/classic-album/classic-album-songs-from-the-big-chair-tears-for-fears/
  2. https://eclecticmusiclover.com/2020/07/07/emls-favorite-albums-tears-for-fears-songs-from-the-big-chair/
  3. https://en.wikipedia.org/wiki/Songs_from_the_Big_Chair
  4. https://reverbmachine.com/blog/tears-for-fears-everybody-wants-to-rule-the-world-synths/
  5. https://spectrumculture.com/2022/07/13/discography-tears-for-fears-songs-from-the-big-chair/
  6. https://post-punk.com/tears-for-fears-songs-from-the-big-chair/
  7. https://albumism.com/features/tears-for-fears-songs-from-the-big-chair-album-anniversary
  8. https://ultimateclassicrock.com/tears-for-fears-songs-from-the-big-chair/
  9. https://www.hifinews.com/content/tears-fears-songs-big-chair-production-notes
  10. https://dcsaudio.com/edit/revisiting-tears-for-fears-songs-from-the-big-chair
  11. https://daily.redbullmusicacademy.com/2015/03/key-tracks-tears-for-fears-songs-from-the-big-chair/
  12. https://ameblo.jp/katteni-sydbarrett/entry-12615009492.html
  13. https://www.spin.com/2020/03/tears-for-fears-songs-from-the-big-chair-turns-35-musicians-reflect-on-80s-pop-favorite/
  14. https://gearspace.com/board/so-much-gear-so-little-time/1016292-how-did-tears-fears-get-so-much-sound-tape-6.html
  15. https://www.guitarrecords.jp/product/18338
  16. https://amass.jp/178804/
  17. https://open.spotify.com/intl-ja/track/4EXImsmktYPot8e8J7PosZ
  18. https://murlough23.wordpress.com/2023/07/27/tears-for-fears-songs-from-the-big-chair-these-are-the-songs-i-cant-do-without/
  19. https://musicmuncher.com/songs-from-the-big-chair-tears-for-fears-album-review/
  20. https://www.classicpopmag.com/features/qa-roland-orzabal/
  21. https://reverbmachine.com/blog/tears-for-fears-shout-synths/
  22. https://en.wikipedia.org/wiki/Tears_for_Fears

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