ジェフ・ベック『ゼア・アンド・バック』

1980年にリリースされた『There and Back』(ゼア・アンド・バック)は、Jeff Beck(ジェフ・ベック)が4年ぶりに発表したスタジオ・アルバムで、彼のソロ名義としては4作目にあたります。
『There and Back』のコンセプト
本作は、前作『Blow by Blow』(1975年)、『Wired』(1976年)に続く「フュージョン三部作」の最終章と位置付けられていますが、前2作に比べてよりインストゥルメンタル・ロック色が強くなりつつも、ジャズ・フュージョンの要素も色濃く残しています[3][8]。
音楽性・サウンドの特徴
- サウンドの進化
本作では、従来のブルース・ロック的なギターに加え、テクニカルなフュージョン・ギター、そしてシンセサイザーを多用したサウンドが特徴です。特に「Star Cycle」などではシーケンサーやシンセリフが前面に出ており、80年代的なテクノ感覚も垣間見えますが、ベックのエモーショナルなギタープレイがそれをロックに昇華しています[2][5][6]。 - ギター・プレイ
ベックは本作で主に50年代製ストラトキャスターを使用し、トレモロアームを駆使した独特の表現力、スライド奏法、ピッキングノイズを生かしたダイナミックなプレイを展開しています。従来のレスポールからストラトへ移行したことで、より自分らしいサウンドを追求したと語っています[2]。 - 楽曲構成
前半3曲はヤン・ハマーの作曲によるフュージョン色の強い楽曲(「Star Cycle」「Too Much to Lose」「You Never Know」)、後半5曲はトニー・ハイマスとサイモン・フィリップスのコンビによる、よりロック志向で多彩な展開を持つ楽曲が並びます[3][6]。 - 代表曲
「Star Cycle」はイギリスのTV番組やプロレス番組のテーマ曲として長く使用され、ベックの代表的なインスト曲となりました。「The Pump」は映画『Risky Business』でも使用され、ライブでも定番となっています[3][5][8]。
制作時のエピソード
- 制作の経緯
1978年末からヤン・ハマーと新作のレコーディングを開始しましたが、仕上がりに満足できず一時中断。その後、ツアーを経てトニー・ハイマス、サイモン・フィリップス、モー・フォスターと共に新たなレコーディングを行い、完成に至りました[4][7]。 - 音作りのこだわり
ベックはアンプにマーシャルとフェンダーを組み合わせ、アイバニーズ製の改造ブースターやワウを使用。過度な歪みやフィードバックは抑え、ギター本来の音色と表現力を重視したサウンド設計を行っています[2]。
参加ミュージシャン
- ジェフ・ベック(Jeff Beck):ギター、プロデューサー
- ヤン・ハマー(Jan Hammer):キーボード(track 1-3)、ドラムス(track 1)
- モー・フォスター(Mo Foster):ベース(track 4-7)
- トニー・ハイマス(Tony Hymas):キーボード(track 4-8)
- サイモン・フィリップス(Simon Phillips):ドラムス(track 2-7)
- ケン・スコット(Ken Scott):プロデューサー(共同)
トラック・リスト
Side 1
- スター・サイクル(Star Cycle) - 4:59(Jan Hammer)
- トゥー・マッチ・トゥ・ルーズ(Too Much to Lose) - 2:59(Jan Hammer)
- ユー・ネヴァー・ノウ(You Never Know) - 4:03(Jan Hammer)
- ザ・パンプ(The Pump) - 5:50(Tony Hymas, Simon Phillips)
Side 2
- エル・ベッコ(El Becko) - 4:01(Hymas, Phillips)
- ザ・ゴールデン・ロード(The Golden Road) - 4:58(Hymas, Phillips)
- スペース・ブギー(Space Boogie) - 5:10(Hymas, Phillips)
- ザ・ファイナル・ピース(The Final Peace) - 3:38(Jeff Beck, Hymas)
発表時の反響
- チャート成績
アメリカではBillboard 200で21位、ジャズ・アルバム・チャートで10位、日本のオリコンでも15位を記録するなど、商業的にも成功を収めました[3][8]。 - 批評家の評価
一部では「前作までの延長線上で新鮮味に欠ける」との声もありましたが、ベックのギタープレイや楽曲の完成度は高く評価されています。特に「El Becko」や「Space Boogie」などは、ライブでも人気の高いナンバーとなっています[6]。 - 影響・特筆事項
「Star Cycle」は日本の『ワールドプロレスリング』などでも長く使用され、幅広い層に知られる存在となりました[5][7]。また、ベックのギター奏法やサウンド作りは、後進のギタリストにも大きな影響を与えています[2][6]。

特筆すべき点
- バンドメンバーの貢献
トニー・ハイマスとサイモン・フィリップスのソングライティング力が、ベックのギター表現をより豊かに引き出しています。特にハイマスのキーボード・アレンジは、ベックのギターに新たな背景を与え、独自の世界観を構築しています[4][5]。 - ジャンル横断的なアプローチ
フュージョン、ロック、ファンク、テクノ、ブルースなど多彩な要素を融合しつつ、インストゥルメンタル・アルバムとして高い完成度を誇ります[3][6]。
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Citations:
- https://note.com/yuuichi2400/n/nd27a6bd30da5
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- https://www.sessiondays.com/2020/07/1980-jeff-beck-there-and-back/
- https://www.discogs.com/master/93815-Jeff-Beck-There-Back
- https://www.navyblue-sound.jp/product/7761
- https://classicrockreview.wordpress.com/2011/07/06/jeff-beck-there-and-back-1980-2/
- https://www.loudersound.com/features/jeff-beck-a-celebration
- https://www.discogs.com/release/8225072-Jeff-Beck-There-Back
- https://www.albumoftheyear.org/album/119329-jeff-beck-there-back.php
- https://en.wikipedia.org/wiki/Jeff_Beck
- https://www.reddit.com/r/Jazz/comments/1cpw3o9/jazzrock_jeff_beck_there_and_back_full_album_with/
- https://www.imdb.com/name/nm0065169/trivia/
- https://www.britannica.com/biography/Jeff-Beck
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- https://en.wikipedia.org/wiki/Blow_by_Blow