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ニール・ヤング『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』

ニール・ヤング『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』
ニール・ヤング(Neil Young)『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』(After the Gold Rush)

Neil Young(ニール・ヤング)のアルバム『After the Gold Rush』(1970年)は、アメリカン・カウンターカルチャーと個人的な感性が交差する名盤であり、今なお多くのリスナーに影響を与え続けています。

『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のコンセプト

『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のコンセプトは、俳優ディーン・ストックウェルと脚本家ハーブ・バーマンによる、映画化されなかった同名の脚本に強く影響を受けています。
脚本は、カリフォルニアのトパンガ・キャニオンのヒッピーコミュニティを壊滅させる終末的なエコロジー災害を扱っており、宗教的・サイケデリックな要素も含まれていました。
この物語世界に触発されたニール・ヤングは、アルバムの大部分の楽曲を書き上げ、それらは“映画のサウンドトラック”のように構想されたと言われています。
特にタイトル曲「After the Gold Rush」とラストの「Cripple Creek Ferry」には、崩壊や希望など時代の空気が色濃く反映されています[1]。

音楽性とサウンドの特徴

本作は、ヤングの特徴であるフォーク、カントリー、ロックを融合しつつも、そのサウンドは非常に多彩です。「Tell Me Why」「Only Love Can Break Your Heart」「Birds」などはシンプルなコードとピアノまたはアコースティック・ギターが中心。対して「Southern Man」や「When You Dance I Can Really Love」ではエレクトリックな要素とバンドサウンドが際立ち、静と動、優しさと激しさを併せ持つ独特のコントラストを生み出しています。
リスナーを“穏やかさと高揚の間”に揺さぶる構成は、後の作品やAOR/シンガーソングライター・ムーブメントにも大きな影響を与えました。

特筆すべきサウンドの特徴には、ヤングの素朴かつ詩的なボーカル、高揚感をもたらすピアノやハーモニカ、そして朴訥としたバンドアンサンブルが挙げられます。
「After the Gold Rush」では牧歌的なメロディと深い内省が融合し、アメリカン・ソングブックの一篇とも評されています[4]。

制作時のエピソード

制作は主にロサンゼルスとヤング自身のトパンガ・キャニオンの自宅地下スタジオで進行。
当初参加する予定だったクレイジー・ホースのダニー・ウィッテンはほぼ不参加となった一方、代わりに当時わずか18歳のニルス・ロフグレンが招かれ、ピアノやギター、そしてコーラスで重要な役割を果たしました。
多忙なCrosby, Stills, Nash & Young活動の合間、限られた時間とメンバーで集中して録音されたため、完成したアルバムには即興的でラフさを感じさせる部分も残っています[6]。

「Only Love Can Break Your Heart」はGraham Nashの失恋を慰めるために書かれたという逸話も有名です[2]。

トラック・リスト

Side 1

  1. Tell Me Why - テル・ミー・ホワイ(2:54)
  2. After The Gold Rush - アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ(3:45)
  3. Only Love Can Break Your Heart - オンリー・ラヴ(3:05)
  4. Southern Man - サザン・マン(5:41)
  5. Till The Morning Comes - やがて朝が(1:17)

Side 2

  1. Oh, Lonesome Me - オー・ロンサム・ミー(3:47)
  2. Don't Let It Bring You Down - ブリング・ユー・ダウン(2:56)
  3. Birds - バーズ(2:34)
  4. When You Dance I Can Really Love - アイ・キャン・リアリー・ラヴ(4:05)
  5. I Believe in You - アイ・ビリーヴ・イン・ユー(3:24)
  6. Cripple Creek Ferry - 壊れた渡し船(1:34)

参加ミュージシャン

  • ニール・ヤング(Neil Young):ヴォーカル、ギター、ピアノ、ハーモニカ、ヴィブラフォン
  • ニルス・ロフグレン(Nils Lofgren):ギター、ピアノ、ヴォーカル
  • ダニー・ウィッテン(Danny Whitten):ギター、ヴォーカル(特に「When You Dance I Can Really Love」)
  • ビリー・タルボット(Billy Talbot):ベース
  • グレッグ・リーヴス(Greg Reeves):ベース
  • ラルフ・ モリーナ(Ralph Molina):ドラム、ヴォーカル
  • ジャック・ニッチェ(Jack Nitzsche):ピアノ
  • スティーヴン・スティルス(Stephen Stills):ヴォーカル(一部コーラス参加)
  • ビル・パターソン(Bill Peterson):フリューゲルホルン

特にニルス・ロフグレンのピアノ参加(本人はピアノ経験がほぼなかった)は、アルバムにユニークな質感をもたらしました[3]。

発表時の反響とその後の評価

1970年9月にリリースされた直後は一部批評家から“平凡”“新曲に強い印象を感じない”と評されるなど否定的な反応もありました。しかしロバート・クリストガウなど一部評論家からは“静かな強さ”や“詩的な歌詞”などが高く評価され、やがて再評価の声が高まりました[8]。

発売当時のBillboardアルバムチャートで8位に入り、Young初のトップ10入りソロ作品となりました。シングル「Only Love Can Break Your Heart」もBillboard Hot 100で33位を記録。じわじわと売上と評価が上昇し、現在では“ヤングの代表作”“重要なアメリカン・アルバム”と称賛されています[4]。

特筆すべきこと

  • アルバムカバーの写真は、ヤングがグリニッジ・ヴィレッジで偶然すれ違った老婆とともに写った一枚であり、ニューヨークの都会的喧騒とアルバムの内省的な内容を象徴しています[9]。
  • 「Southern Man」は人種差別や南部の歴史に鋭く切り込む社会派の楽曲としても有名です。
  • 本作は、ヤングのフォーク色、“ヒッピー時代の終焉”というテーマ、アメリカ音楽史に対する洞察が有機的に統合された名盤として、ロック史ランキング常連の一枚です[3]。
  • ニルス・ロフグレンにとってはプロキャリアの始点となり、本作の成功後もブルース・スプリングスティーンなどで華やかな活動を続けています。

『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』は、静謐さとロックのエネルギー、内省と時代への批評精神が交錯した、ニール・ヤングの孤高の表現世界の結晶です。今聴いても色褪せないその深みと響きは、時代を超えて愛される理由の証しと言えるでしょう。

アーティスト:Young, Neil
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  1. https://en.wikipedia.org/wiki/After_the_Gold_Rush
  2. https://www.thatericalper.com/2025/01/03/5-surprising-facts-about-neil-youngs-after-the-gold-rush/
  3. https://classicalbumsundays.com/the-story-of-neil-young-after-the-gold-rush/
  4. https://ultimateclassicrock.com/neil-young-after-the-gold-rush/
  5. https://ontherecord.co/2023/09/03/neil-young-after-the-gold-rush-2/
  6. https://en.apoplife.nl/neil-youngs-first-masterpiece-after-the-gold-rush/
  7. https://classicalbumsundays.com/classic-album-sundays-washington-d-c-presents-neil-young-after-the-goldrush/
  8. https://www.vice.com/en/article/retrospective-review-neil-young-after-the-gold-rush/
  9. http://neilyoungnews.thrasherswheat.org/2011/07/discovering-after-gold-rush-story.html
  10. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5
  11. https://note.com/okatano/n/n9ea04e29c7b2
  12. http://blog.livedoor.jp/jikkennezumi/archives/2040039.html
  13. https://altrockchick.com/2019/04/18/neil-young-after-the-gold-rush-classic-music-review/
  14. https://1001albumsgenerator.com/albums/3N3lauREStzcTAN6ZyaPvC/after-the-gold-rush
  15. https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/music/features/neil-young-after-the-gold-rush-the-harvest-1692297.html
  16. https://www.bmi.com/news/entry/Tales_from_the_Top_Neil_Youngs_After_the_Gold_Rush
  17. https://colossalreviews.com/music/after-the-gold-rush-by-neil-young-vinyl-record-album-review/
  18. https://www.songfacts.com/facts/neil-young/after-the-gold-rush
  19. https://ystmokzk.hatenablog.jp/entry/2020/11/09/181926
  20. https://www.imdb.com/fr-ca/name/nm0949918/trivia/
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