レッド・ホット・チリ・ペッパーズ『バイ・ザ・ウェイ』

Red Hot Chili Peppers(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)の『By the Way』(バイ・ザ・ウェイ)は、バンドのターニングポイントとなった、メロディと内省性を前面に押し出したアルバムです。
『バイ・ザ・ウェイ』のコンセプトと位置づけ
『By the Way』は、2002年7月9日にリリースされたバンド8作目のスタジオ・アルバムで、『Californication』路線をさらに推し進めつつ、よりメロディアスで感情的な側面を強く打ち出した作品として位置づけられます。
批評家からは、それまでのファンク色の強いスタイルからの「変化」として評価され、より穏やかで内省的な感情表現が特徴のアルバムと評されています。
音楽性・サウンドの特徴
本作のサウンドの核を握るのはジョン・フルシアンテで、メロディ、コーラスのアレンジ、ギター進行、さらには多くのベース・ラインまで、彼が主導して作り上げたとされています。
彼自身は、ファンク/ブルース色を抑え、ザ・スミスやザ・キュアー、Siouxsie and the BansheesといったUKギターバンド的な、より「イギリス的」でメロディックな音像をコンセプトとしていたと語っています。
アルバム全体では、以下のような特徴が見られます。
- ギターは歪みを抑えたウォームで繊細なトーンが中心で、多層的なオーバーダブとアルペジオが多用される。
- コーラスワークが非常に厚く、ドゥーワップ的なハーモニーがポップさと浮遊感を生み出している。
- フリーのベースは従来よりも歌メロを支えるラインが増え、必要な場面でのみファンキーな跳ね方を見せる。
- リック・ルービンのプロダクションのもとでサウンドは洗練され、アレンジの隙間を活かした立体的なミックスとなっている。
「By the Way」や「The Zephyr Song」「Universally Speaking」などでは、ポップでサイケデリックなカリフォルニア感覚が前面に出ており、ビーチ・ボーイズやビートルズ的な要素を指摘する批評もあります。
制作過程とエピソード
本格的な制作は2001年2月ごろから始まり、バンドはリハーサルルームで約6ヶ月にわたり、ほぼ毎日曲作りとアレンジに取り組んだとメンバーは振り返っています。
その時点で楽曲の骨格を作り込んでからスタジオ入りするスタイルで、ジャムからアイデアを出し、フリーとフルシアンテが「フェイスオフ」と呼ぶ、別々にパートを書いて持ち寄る作業をほぼ全曲で行ったとされています。
録音は主にロサンゼルスのCello Studiosと、サンセット大通りの老舗ホテル、シャトー・マーモントで行われました。
2001〜2002年にかけて、アンソニー・キーディスはこのホテルに長期滞在し、フルシアンテも同じく滞在しながらボーカルやギターパートを詰めていったというエピソードが残っています。
フルシアンテはこの時期、バンド内での発言力を増し、自身の美意識に沿った方向性を強く押し出していましたが、同時にメンバー間のコミュニケーションは以前よりも健全で、問題があればすぐ話し合うようになったと語っています。
そのため、内的な緊張感を抱えつつも、バンドとしては比較的安定した状態で制作に臨めた時期の作品といえます。
参加ミュージシャンとスタッフ
クレジット上の中心メンバーは以下の4人です。
- アンソニー・キーディス(Anthony Kiedis):ボーカル
- ジョン・フルシアンテ(John Frusciante):ギター、コーラス、ピアノ、キーボード、モジュラー・シンセ、メロトロン
- フリー(Flea):ベース(一部ギターやトランペット、メロディカも担当)
- チャド・スミス(Chad Smith):ドラム、パーカッション
プロデュースは前作に続きリック・ルービン(Rick Rubin)が担当し、ジム・スコット(Jim Scott)らがレコーディングとミキシングに携わっています。
録音はアナログテープを中心としたクラシカルな手法で行われ、そこにプロツールズを併用しつつ最終的にアナログに戻すようなワークフローがこの時期の彼らの標準となっていたことも指摘されています。

トラック・リスト
Disc 1 / Side 1
- バイ・ザ・ウェイ(By the Way) - 3:37
- ユニヴァーサリー・スピーキング(Universally Speaking) - 4:19
- ディス・イズ・ザ・プレイス(This Is the Place) - 4:17
- ドースト(Dosed) - 5:12
Disc 1 / Side 2
- ドント・フォゲット・ミー(Don't Forget Me) - 4:37
- ザ・ゼファー・ソング(The Zephyr Song) - 3:52
- キャント・ストップ(Can't Stop) - 4:29
- アイ・クッド・ダイ・フォー・ユー(I Could Die for You) - 3:13
Disc 2 / Side 1
- ミッドナイト - Midnight (4:55)
- スロウ・アウェイ・ユア・テレヴィジョン(Throw Away Your Television) - 3:44
- キャブロン(Cabron) - 3:38
- テアー(Tear) - 5:17
Disc 2 / Side 2
- オン・マーキュリー(On Mercury) - 3:28
- マイナー・シング(Minor Thing) - 3:37
- ウォーム・テープ(Warm Tape) - 4:16
- ヴェニス・クイーン(Venice Queen) - 6:08
発表時の反響と評価
『By the Way』はリリース当時、批評家から概ね好意的に受け止められました。
AllMusicはアルバムを「洗練されていながらも、バンドのエネルギーや“人生と愛と欲望”への情熱を失っていない」と評し、メロディアスで多層的なサウンドを高く評価しています。
Rolling Stoneは「ばかげているほどメロディック」とまで表現し、バンド特有の“汚れたグルーヴ”と高い芸術性のバランスがほぼ完璧に取れた作品だと評しました。
また、イギリスのMojo誌は『Blood Sugar Sex Magik』以来もっとも強力な作品だとし、バンドの成熟を示すアルバムと位置づけています。
商業的にも成功を収め、タイトル曲「By the Way」はUSロックチャートで複数週にわたり1位を獲得し、イギリスやイタリアなどではシングルとして非常に高いチャートアクションを記録しました。
ファンの間では、従来のファンクロック路線を支持する層からの賛否もあったものの、時間の経過とともにバンドの代表作の一つとして再評価される傾向が強まっています。
ジャケットデザインとビジュアル
アルバムのアート・ディレクションには、映画監督・画家としても知られるジュリアン・シュナーベル(Julian Schnabel)が参加し、バンド自身もアートワークに関わっています。
ジャケットに描かれた女性像は、シュナーベルの娘ステラをモデルにしたもので、ペインティングのようなタッチと、バンドロゴが塗料で書き殴られたようなデザインが印象的です。
ブックレットにはヤギの頭部をモチーフにしたペインティングや、荒涼としたフィールドに立つモノクロのバンド写真、メンバー個別のポートレートなどが収められており、音楽の内省性とどこかシュールな雰囲気を視覚的に補完する役割を果たしています。
シングル「By the Way」のアートワークにも、同様の絵画的モチーフが展開され、アルバム全体の世界観を統一する要素となっています。
特筆すべきポイント
『By the Way』で特に重要なのは、ジョン・フルシアンテのクリエイティブな主導権がバンドのサウンドを大きく変えたという点です。
ファンク・メタル的なイメージの強かったバンドが、ここであえてファンク色を引き算し、UKギターポップやサイケデリック、ドゥーワップ的ハーモニーなどを大胆に取り入れることで、結果的に「唯一無二のチリ・ペッパーズらしさ」をより際立たせることに成功しています。
また、シャトー・マーモントでのボーカル録音や、長期にわたる入念なプリプロダクションなど、制作そのものが一種のライフスタイルと結び付いていた点も興味深いところです。
『By the Way』は、バンドの過去と未来をつなぐ架け橋のような作品であり、エネルギッシュなグルーヴと繊細なメロディ、ポップさと実験性が独自のバランスで共存したアルバムとして、今なお語り継がれているといえるのではないでしょうか。
Citations:
- https://en.wikipedia.org/wiki/By_the_Way
- https://rhcp.fandom.com/wiki/By_the_Way_(album)
- https://www.rollingstone.com/music/music-album-reviews/by-the-way-249917/
- https://ultimateclassicrock.com/red-hot-chili-peppers-by-the-way-song/
- https://www.loudersound.com/features/how-red-hot-chili-peppers-conquered-the-world-with-by-the-way
- https://www.rhcpsessions.com/20012002-by-the-way
- https://rateitall.com/reviews/by-the-way-red-hot-chili-peppers


