ザ・ドゥービー・ブラザーズ『運命の掟』

ザ・ドゥービー・ブラザーズ『運命の掟』
ザ・ドゥービー・ブラザーズ(The Doobie Brothers)『運命の掟』(Livin' on the Fault Line)

1977年にリリースされた『Livin' on the Fault Line』(運命の掟)は、The Doobie Brothers(ザ・ドゥービー・ブラザーズ)にとって7作目のスタジオ・アルバムであり、バンドの音楽的転換点を象徴する作品です。

コンセプトと制作背景

前作『Takin' It to the Streets』で加入したマイケル・マクドナルドの影響がさらに強まり、従来のギター主導のロックから、洗練されたAOR(Adult Oriented Rock)やソウル、R&B、ジャズの要素を大きく取り入れたサウンドへと大きく舵を切りました[1][2][5]。

このアルバムの制作時、バンドの創設メンバーでありロック色の強いサウンドを担ってきたトム・ジョンストンは健康上の理由でセッション初期に離脱。彼は5曲を書き録音もしましたが、最終的にアルバムには収録されませんでした[1][2][5]。そのため、パトリック・シモンズとマイケル・マクドナルドが中心となり、より都会的で複雑な音楽性を追求することとなりました。

音楽性・サウンドの特徴

1. ジャズ/R&B色の強化と複雑なアレンジ
本作の最大の特徴は、従来のドゥービーズのイメージを覆すほどのジャズやR&B、ソウルの要素の強化です。マイケル・マクドナルドのフェンダー・ローズやクラビネット、シンセサイザーが前面に出ており、リズムやコード進行もより複雑で洗練されたものになっています[2][4][6]。
特に「You're Made That Way」や「Livin' on the Fault Line」では、スティーリー・ダンを思わせるようなジャズ・ロック的なアプローチや、複雑なコードチェンジ、カウンターリズムが多用されています[2][4][6]。

2. バンド・アンサンブルの進化
ギターのジェフ・“スカンク”・バクスターとパトリック・シモンズによる緻密なギターワーク、ティラン・ポーターのメロディアスなベース、キース・ナッドセンとジョン・ハートマンのツインドラム、そしてボビー・ラカインドのコンガなど、バンド全体のアンサンブルが高度に融合しています[1][2][6]。
また、デヴィッド・ペイチ(後のTOTO)がホーンやストリングスのアレンジで参加し、サウンドにさらなる厚みと都会的な雰囲気を加えています[1][2]。

3. メロウでメランコリックなムード
アルバム全体に漂うのは、どこか哀愁を帯びたメロウなムードです。これはマクドナルドのスモーキーなボーカルや、洗練されたコード進行、そして歌詞のテーマ(不安定な時代や人間関係の揺らぎなど)によるものです[4][6][7]。

4. 代表曲とアレンジの妙

  • 「Echoes of Love」や「Nothin' But a Heartache」は、知的でグルーヴィーなポップソングとして高く評価されています[6][5]。
  • 「Livin' on the Fault Line」は、バンド史上最もジャズ色の強い楽曲の一つで、インストゥルメンタルパートの充実や、ビクター・フェルドマンのヴァイブ、バクスターのギターソロなどが聴きどころです[2][6]。
  • 「You Belong to Me」は後にカーリー・サイモンがカバーし大ヒットとなりましたが、原曲は本作に収録されています[1][4]。

参加ミュージシャン

バンドメンバー

  • パトリック・シモンズ(Patrick Simmon):ギター、ボーカル
  • ジェフ・“スカンク”・バクスター(Jeff "Skunk" Baxter):ギター
  • マイケル・マクドナルド(Michael McDonald):キーボード、ボーカル
  • タイラン・ポーター(Tiran Porter):ベース、ボーカル
  • キース・ヌードセン(Keith Knudsen):ドラム、パーカッション、ボーカル
  • ジョン・ハートマン(John Hartman):ドラム、パーカッション
  • トム・ジョンストン(Tom Johnston):クレジット上は在籍だが実質的な参加はほぼなし

ゲスト・ミュージシャン

  • ボビー・ラカインド(Bobby LaKind):コンガ、コーラス
  • ダン・アームストロング(Dan Armstrong):ギターソロ
  • デヴィッド・ペイチ(David Paich):ホーン&ストリングスアレンジ
  • ランディ・ブレッカー(Randy Brecker):トランペット
  • ノートン・バッファロー(Norton Buffalo):ハーモニカ
  • ヴィクター・フェルドマン(Victor Feldman):ヴァイブ
  • ローズマリー・バトラー(Rosemary Butler)、モーリーン・マクドナルド(Maureen McDonald):コーラス[1][2]
  • テッド・テンプルマン(Ted Templeman):パーカッション・プロデューサー

制作時のエピソード

  • トム・ジョンストンの離脱により、バンドの音楽性が大きく変化したことは、当時のファンやメンバー自身にも大きなインパクトを与えました[1][2][4]。
  • マイケル・マクドナルドは「どれだけ多くのコードや転調を曲に詰め込めるかを考えていた」と後年語っており、バンド内でも実験的な意欲が高まっていたことがうかがえます[4]。
  • 一方で、パトリック・シモンズはこの変化を肯定的に捉え、「自分にとって誇りに思える瞬間」と語っています[4]。

発表時の反響と評価

  • アルバムは全米Billboard 200で10位、ゴールドディスクを獲得するなど商業的には一定の成功を収めましたが、シングルヒットには恵まれませんでした(「Little Darling (I Need You)」が全米48位、「Echoes of Love」が66位)[7]。
  • 批評家からは「バンド史上最も挑戦的で豊かな音楽を含む作品」「ジャズからの明確な影響と哀愁のムードが全体を支配している」と評価される一方、従来のロック色を好むファンからは賛否が分かれました[5][7][4]。
  • 一部では「スムースで洗練されたAORサウンドの傑作」として再評価されており、特にAORファンやオーディオファイルからは高い支持を受けています[6][8]。

特筆すべきこと

  • 本作は、後の『Minute by Minute』(1978年)での大成功に繋がる「マクドナルド時代」の礎となった重要作です[5][6]。
  • バンドの音楽的柔軟性と進化を象徴するアルバムであり、ジャズやAOR、R&Bの要素を大胆に取り入れた点は、同時代のイーグルスやスティーリー・ダンとも比較されます[2][6][8]。
  • 「You Belong to Me」はカーリー・サイモンによるカバーで大ヒットし、作曲家としてのマクドナルドの才能も広く認知されました[1][4]。

まとめ
『運命の掟』は、ドゥービー・ブラザーズの音楽的冒険心と進化を象徴するアルバムです。従来のロックバンド像から脱却し、AORやジャズ、R&Bの洗練されたサウンドを追求した本作は、バンドのキャリアの中でも特に挑戦的かつ豊かな音楽性を持つ作品として、今なお再評価が進んでいます。

Citations:

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Livin'_on_the_Fault_Line
  2. https://somethingelsereviews.com/2021/08/06/doobie-brothers-livin-on-the-fault-line-1977-on-second-thought/
  3. https://en.wikipedia.org/wiki/The_Doobie_Brothers
  4. https://ultimateclassicrock.com/doobie-brothers-livin-on-the-fault-line/
  5. https://www.seaoftranquility.org/reviews.php?op=showcontent&id=11727
  6. https://ontherecord.co/2024/07/28/the-doobie-brothers-livin-on-the-fault-line-2/
  7. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%8B%E5%91%BD%E3%81%AE%E6%8E%9F
  8. https://note.com/yuuichi2400/n/n8e4ea4bc991f
  9. https://ototoy.jp/feature/2022013101/2
  10. https://note.com/yuuichi2400/n/n8e4ea4bc991f
  11. https://www.rollingstone.com/music/music-features/doobie-brothers-hall-of-fame-michael-mcdonald-1083580/
  12. https://ototoy.jp/feature/2022013101
  13. https://www.allmusic.com/album/livin-on-the-fault-line-mw0000651903
  14. https://www.discogs.com/release/3959824-The-Doobie-Brothers-Livin-On-The-Fault-Line
  15. https://kool1017.com/the-unlikely-story-of-how-the-doobie-brothers-got-their-name/
  16. https://musicboard.app/ac-frost/review/album/livin-on-the-fault-line/the-doobie-brothers/
  17. https://tower.jp/item/183137
  18. https://www.reddit.com/r/ClassicRock/comments/1f3imdy/who_strayed_the_farthest_from_what_made_them/
  19. https://www.discogs.com/master/111116-The-Doobie-Brothers-Livin-On-The-Fault-Line
  20. https://wmg.jp/doobiebros/discography/15402/
  21. https://ototoy.jp/feature/2022120802/2
  22. https://www.discogs.com/release/808737-The-Doobie-Brothers-Livin-On-The-Fault-Line
  23. https://www.guitarrecords.jp/product/17808
  24. https://wmg.jp/doobiebros/discography/6460/
  25. https://www.imdb.com/title/tt24590272/
  26. https://wmg.jp/doobiebros/discography/3245/
  27. https://www.discogs.com/release/16974900-The-Doobie-Brothers-Livin-On-The-Fault-Line
  28. https://www.discogs.com/release/2900643-The-Doobie-Brothers-Livin-On-The-Fault-Line
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  30. https://music.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_kaQM5_Z09S9etJ1S_XnorT5fV64ZCF8Bo
  31. https://diskunion.net/rock/ct/detail/DS170421-255
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  34. https://www.youtube.com/watch?v=PKic0aZrO2Q
  35. https://www.rhino.com/aod/livin-on-the-fault-line-the-doobie-brothers
  36. https://musicbrainz.org/release/0ea223b0-fee7-4b3d-8c6f-db11daa8c788
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  38. https://www.sessiondays.com/2019/02/1977-doobie-brothers-livin-fault-line/
  39. https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/f/fa/The_Doobie_Brothers_-_Livin'_on_the_Fault_Line.jpg?sa=X&ved=2ahUKEwim19ev89iMAxVX8DgGHZLKJYMQ_B16BAgGEAI
  40. https://open.spotify.com/album/1OxvjMjLLh0gn17KCnqNBL
  41. https://ultimateclassicrock.com/doobie-brothers-livin-on-the-fault-line/
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  43. https://en.wikipedia.org/wiki/Livin'_on_the_Fault_Line
  44. https://narurukato.exblog.jp/29548351/
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  46. https://www.vintageblissmarketplace.com/products/doobie-brothers-album-livin-on-the-fault-line-mts
  47. https://ultimateclassicrock.com/doobie-brothers-minute-by-minute/
  48. https://www.youtube.com/watch?v=17PmVEPpSWo
  49. https://en.wikipedia.org/wiki/The_Doobie_Brothers
  50. https://somethingelsereviews.com/2021/08/06/doobie-brothers-livin-on-the-fault-line-1977-on-second-thought/
  51. https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_the_Doobie_Brothers_band_members
  52. http://diary.mutsumishindo.net/music/minute_by_minute_the_doobie_brothers.html
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