スティーリー・ダン『幻想の摩天楼』

Steely Dan(スティーリー・ダン)の5枚目のスタジオ・アルバム『幻想の摩天楼』(The Royal Scam)は、1976年5月にABCレコードからリリースされました[1]。このアルバムは、バンドの音楽的進化と洗練されたサウンドを示す重要な作品として位置付けられています。
音楽性とサウンドの特徴
『The Royal Scam』は、スティーリー・ダンの特徴的な要素を多く含んでいます:
- ジャンルの融合: ロック、ジャズ、ファンクの要素を巧みに融合させた独特のサウンド[2]。
- 卓越したギターソロ: ラリー・カールトンをはじめとする一流セッションミュージシャンによる印象的なギターソロ[2][3]。
- ホーンセクション: 豊かなホーンアレンジメントが楽曲に深みを与えています[2]。
- 完璧なオーディオエンジニアリング: 細部まで行き届いた音質の高さが特徴[2]。
- 皮肉な歌詞: 犯罪者、麻薬ディーラー、不倫など、暗いテーマを明るいメロディーと組み合わせた楽曲が多い[2][3]。
制作時のエピソード
- バンド編成の変更: このアルバムでウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンのデュオ体制が確立[3]。
- セッションミュージシャンの起用: ラリー・カールトン(ギター)、チャック・レイニー(ベース)など、一流プレイヤーを起用[3]。
- 「The Fez」の共作: ポール・グリフィンがキーボードリフを提案し、共同作曲者としてクレジットされた唯一の楽曲[1]。
- イーグルスとの関係: 「Everything You Did」の歌詞にイーグルスへの言及があり、後にイーグルスが「Hotel California」の歌詞で返礼[1]。
発表時の反響
『The Royal Scam』の発表時の反響は賛否両論でした:
- ビルボードのアルバムチャートで15位を記録[1]。
- 『ローリング・ストーン』誌は「彼らの最も完成度が高く楽しい音楽の一つ」と絶賛[3][5]。
- 一方で、AllMusicは「前作からの顕著な音楽的進歩が見られない」と批判[3][5]。
フェイゲンは批評家の反応について、「グループが長く続けば続くほど、批評家は厳しくなる」と述べています[3]。
特筆すべき点
- 楽曲の多様性: 「Kid Charlemagne」のファンキーなサウンドから「Haitian Divorce」のレゲエ調まで、幅広い音楽性を展開[2][4]。
- ギターソロの秀逸さ: 特に「Kid Charlemagne」のラリー・カールトンのソロは名演として知られています[2]。
- 暗喩に富んだ歌詞: 実在の人物や出来事を巧みに織り交ぜた歌詞が特徴[1]。
- サウンドの先進性: ジャズとロックの融合、エキゾチックなアレンジメントなど、後の『Aja』につながる要素が見られます[2]。
- アルバムの構成: 各楽曲が独立して聴けるよう意図されながらも、アルバム全体としての一貫性も保たれています[3]。
『The Royal Scam』は、スティーリー・ダンの音楽的成熟を示す重要な作品であり、彼らの代表作『Aja』への橋渡しとなったアルバムとして評価されています[2]。複雑な楽曲構成、皮肉に満ちた歌詞、そして卓越したミュージシャンシップが融合した本作は、今なお多くのリスナーを魅了し続けています。
パーソネル
Steely Dan
- ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen) – keyboards, vocals, background vocals
- ウォルター・ベッカー(Walter Becker) – bass, guitar
参加ミュージシャン
『The Royal Scam』には、多数の優れたセッションミュージシャンが参加しており、その豊かなサウンドを作り上げています。主な参加ミュージシャンは以下の通りです:
ギター陣
- ラリー・カールトン:アルバム全体で印象的なギターソロを披露。特に「Kid Charlemagne」のソロは有名です[1][4]。
- エリオット・ランドール:「Sign In Stranger」などでソロを担当[3][4]。
- ディーン・パークス:「Haitian Divorce」でトークボックスギターを演奏[4]。
- デニー・ディアス:「Green Earrings」のブリッジ部分でソロを担当[4]。
リズムセクション
- チャック・レイニー:ベース全般を担当[1][3][4]。
- バーナード・パーディ:ドラムス(3曲目と8曲目以外)[4]。
- リック・マロッタ:ドラムス(3曲目と8曲目)[4]。
キーボード
- ポール・グリフィン:ピアノ、クラビネットを担当。「The Fez」の共同作曲者[1][3][4]。
- ドン・グロルニック:キーボード全般[3][4]。
- ビクター・フェルドマン:キーボード、パーカッション[3][4]。
ホーンセクション
- チャック・フィンドリー:トランペット、ホーンアレンジ[1][3][4]。
- ジム・ホーン:サックス[1][3]。
- ジョン・クレマー:テナーサックス。「The Caves of Altamira」でソロを担当[1][3][4]。
- プラス・ジョンソン:サックス[1][3]。
バックグラウンドボーカル
- マイケル・マクドナルド[1][3][4]。
- ティモシー・B・シュミット[3][4]。
- ベネッタ・フィールズ[1][3][4]。
- クライディ・キング[1][3][4]。
- シャーリー・マシューズ[1][3][4]。
これらのミュージシャンたちの卓越した演奏が、『The Royal Scam』の複雑で洗練されたサウンドを形作っています。特にラリー・カールトンのギターワークやチャック・レイニーのベースラインは、アルバムの特徴的な要素となっています。
トラックリスト
Side 1
- Kid Charlemagne - 滅びゆく英雄 (4:38)
- The Caves of Altamira - アルタミラの洞窟 (3:37)
- Don't Take Me Alive - 最後の無法者 (4:16)
- Sign In Stranger - 狂った町 (4:24)
- The Fez - トルコ帽もないのに (4:01)
Side 2
- Green Earrings - 緑のイヤリング (4:05)
- Haitian Divorce - ハイチ式離婚 (5:51)
- Everything You Did - 裏切りの売女 (3:56)
- The Royal Scam - 幻想の摩天楼 (6:31)
アルバムレビュー
原題は『The Royal Scam』。
『The Royal Scam』は直訳すれば「Royal(王様の、高貴な)」という言葉と「Scam(詐欺、ペテン)」という言葉を組み合わせることで社会の上層部や権力者による欺瞞を示唆し、アメリカンドリームの虚構を皮肉った表現として使われるそうです。

『彩(エイジャ)』以降の作品に比べると洗練された感じはありませんが、その萌芽を感じさせます。
緻密なアレンジと文学的なリリックは、まさに彼らの真骨頂。
彼らの作品全体に通じるジャズのニュアンスはここでも十分、聞き取れますが、そうした中でもロックの色彩の強い作品。
これまでもスタジオミュージシャンを使ってましたが、このアルバム以降そうした傾向がより顕著になり一流のスタジオミュージシャンを多用していきます。
参加ミュージシャンは、ドナルド・フェイゲン(ヴォーカル)、ウォルター・ベッカー(ギター・ベース)、デニー・ダイアス(ギター)といったオリジナルメンバー3人の他に、リック・マロッタ(ドラム)、チャック・レイニー(ベース)、ドン・グローニック(キーボード)、バーナード・パーディー(ドラム)、etc…といった腕利きのミュージシャンを起用しています。
なかでもギターリストにはラリー・カールトンやエリオット・ランドール、ディーン・パークスといったミュージシャンが参加しギターアルバムとしても聴きどころ満載です。
1曲目の「Kid Charlemagne」のモデルになったのはオーガスタス・オーズリー・スタンリー3世という1960年代半ばにLSDを工場で大量生産した人物。
この人物、グレイトフル・デッド結成のきっかけとなった人物としても知られている。
楽曲はラリー・カールトンのギターソロが印象的なもので、彼のベストプレイといわれることもあります。
カールトンは3曲目の「Don't Take Me Alive」でもファンキーなギタープレイを冒頭から聴かせてくれます。
オリジナルメンバーのデニー・ダイアスはこのアルバムを最後にスティーリー・ダンを脱退しますが、推察するに、彼がオリジナルメンバーとして、そもそもどの程度、発言権があったのか? なかなか微妙なポジションだったのではないかという気がします。
プロデューサーはゲイリー・カッツ、録音エンジニアはロジャー・ニコルズというスティーリー・ダン御用達のスタッフ。
蛇足ながらロジャー・ニコルズは渋谷系のミュージシャンに影響を与えた「ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ」の、その人とは別人です。
彼らはこの一年後にロック史に残る名盤『彩(エイジャ)』を発表します。
それにしても『彩(エイジャ)』にくらべるとジャケットのデザインはかなり、イマイチな感じ。
Citations:
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/The_Royal_Scam
[2] https://progrography.com/steely-dan/review-steely-dan-the-royal-scam-1976/
[3] https://ultimateclassicrock.com/steely-dan-royal-scam/
[4] https://cedricsuggests.co.uk/the-royal-scam-steely-dan-aotm-october-2019/
[5] http://steelydanreader.com/2016/05/31/40-years-ago-steely-dan-pulls-off-royal-scam/