ドナルド・フェイゲン『サンケン・コンドズ』を聴く

ドナルド・フェイゲン『サンケン・コンドズ』を聴く
ドナルド・フェイゲン『サンケン・コンドズ』

Donald Fagen(ドナルド・フェイゲン)の4枚目のソロ・アルバム『Sunken Condos』(2012年)は、Steely Danの共同創設者として知られる彼が、前作『Morph the Cat』から6年ぶりに発表した作品です。本作は、その音楽性、サウンド、制作背景、参加ミュージシャン、発表時の評価、ジャケットデザインなど、フェイゲンらしいこだわりと洗練が随所に光るアルバムです。

コンセプトとテーマ

『Sunken Condos』は、フェイゲンの過去3作のソロアルバム(『The Nightfly』『Kamakiriad』『Morph the Cat』)が自身の人生や時代背景を色濃く反映した「自伝的三部作」とされるのに対し、「より軽やかで、内省的な重さを和らげた作品」として位置づけられています。Fagen自身も「今回は特に深いコンセプトはなく、単に曲を書いて、録音し、Michael Leonhartと一緒に作り上げた」と語っています[1][14]。

歌詞のテーマは、年齢差のある恋愛(「Slinky Thing」)、失恋後の再生(「I’m Not the Same Without You」)、過去の記憶やノスタルジア(「Memorabilia」)、現代社会の皮肉や風刺など、Fagenらしいユーモアとアイロニーが随所に散りばめられています[8][12]。

音楽性・サウンドの特徴

『Sunken Condos』のサウンドは、Steely Dan時代から続く「緻密で洗練されたジャズ・ポップ/ソウル・ファンク」の伝統を受け継ぎつつ、よりソフトで滑らかな質感が特徴です。

  • グルーヴ感:全体的に70年代的なグルーヴが強調され、ミディアムテンポの楽曲が多く、ファンクやソウルの影響が色濃く出ています[2][8][9]。
  • アレンジ:ホーン・セクションやコーラス、ヴィブラフォン、ハーモニカなど多彩な音色が重層的に重なり、シンプルに聴こえながらも非常に複雑なアレンジが施されています[3][10]。
  • 演奏と録音:Fagenらしい精密なリズムセクション、緻密なミキシング、そして「滑らかでクリアな音質」が際立ちます。特にベースとドラムの一体感、ギターやキーボードの装飾的なフレーズが印象的です[10][6]。
  • カバー曲:「Out of the Ghetto」はIsaac Hayesのファンクナンバーをフェイゲン流に再構築したもので、アルバムの中でも異彩を放っています[2][8]。

制作時のエピソード

本作は2010年から2012年にかけてニューヨークの複数のスタジオで録音されました[1][4]。共同プロデューサーはマイケル・レオンハート(Michael Leonhart)で、彼はドラム、ホーンアレンジ、エンジニアリングなど多岐にわたる役割を担っています。FagenはLeonhartの「ソウルフルでオールドスクールな感覚」に惹かれ、全曲のドラム演奏を任せたと語っています[1]。

また、Steely Dan時代の名エンジニア、ロジャー・ニコルズ(Roger Nichols)を失った後の制作となりましたが、フェイゲンは「ロジャーから学んだ伝統は生きている」と述べています[1]。

参加ミュージシャン

アルバムには、フェイゲンとレオンハートを中心に、多彩なセッション・ミュージシャンが参加しています。

  • Donald Fagen(ヴォーカル、キーボード、プロデューサー)
  • Michael Leonhart(ドラム、トランペット、ヴィブラフォン、ホーンアレンジ、プロデューサー)
  • Jon Herington(ギター)
  • Kurt Rosenwinkel(ギター)
  • William Galison(ハーモニカ、バスハーモニカ)
  • Freddie Washington(ベース)
  • Jay Leonhart(アコースティックベース)
  • Larry Campbell(ギター)
  • Lincoln Schleifer(ベース)
  • Antoine Silverman(ヴァイオリン)
  • Walt Weiskopf(サックス)
  • Charlie Pillow(サックス、クラリネット、バスフルート)
  • Jim Pugh(トロンボーン)
  • Roger Rosenberg(バリトンサックス)
  • バックボーカル陣も多数参加[5][7]。

発表時の反響

『Sunken Condos』は、全米Billboard 200で12位、イギリスのアルバムチャートで23位、日本でもシングル「I’m Not the Same Without You」がBillboard Japan Hot 100で28位を記録するなど、フェイゲンのソロ作としては高い商業的成功を収めました[1][4]。

批評家の評価は概ね好意的で、「新しさは少ないが、熟練のグルーヴとサウンドの快楽がある」「フェイゲンのソロ作の中でも特に音質が良い」との声が多く聞かれました[6][10][9]。一方で、「過去の名作ほどのインパクトや新鮮さはない」とする意見もありました[3][8][9]。

ジャケットデザイン

ジャケットは「水中に沈んだガラス張りのコンドミニアム」を描いたイラストで、CDを開くと水面下のコンドミニアム内部が現れ、女性が胎児のような姿勢で横たわっています。このイメージは「水没マンション」=Sunken Condosというタイトルを視覚化しつつ、気候変動や再生、あるいはアイロニカルな未来像を象徴しているとも解釈できます[8][13][7]。

特筆すべき点

  • Isaac Hayes「Out of the Ghetto」のカバー:フェイゲン流のディスコ・ファンク解釈が話題に[2][8]。
  • Michael Leonhartの全面的な関与:共同プロデューサー、ドラム、ホーンアレンジなどマルチな才能が発揮されています[1][7]。
  • Fagen独特のユーモアとアイロニー:年齢差恋愛、現代社会の風刺、ノスタルジアなど、皮肉とユーモアが随所に[8][12]。
  • サウンドの緻密さ:ヘッドフォンで聴くと、重層的なアレンジや細部の音作りの妙が堪能できます[10]。

まとめ

『Sunken Condos』は、Donald Fagenの音楽的成熟と遊び心が詰まったアルバムです。Steely Dan時代のファンはもちろん、洗練された大人のポップ/ジャズ・サウンドを求めるリスナーにとっても、細部までこだわり抜かれた「聴きごたえのある一枚」と言えるでしょう。

アルバム・レヴュー

ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)の『サンケン・コンドズ(Sunken Condos)』です。
彼の『モーフ・ザ・キャット』以来、6年ぶりの新作です。
Sunken Condosとは、沈んだコンドミニアムという意味らしい。

ジャケットのデザインはタイトルをストレートに表現した海に沈む高層コンドミニアムのイラストです。
最初にブルーの海中とおぼしきイラストが描かれたジャケットを見た印象は、ドナルド・フェイゲン先生らしからぬジャケットだなというところ。
見開きにも、水中のコンドミニアムの室内に漂う若い女性のイラストがファンタジックに描かれている。
6曲目にあるMISS MARLENEだろうか?

ドナルド・フェイゲンといえば大人の音楽であり、どうにも、こうしたジュブナイルなイメージからは正反対のポジションにいるような気がするのだが…。
どういう経緯で、こうしたデザインになったのだろう?

1曲目から彼らしい、ジャジーな楽曲から始まる。
全体にとび抜けて印象に残るといった楽曲はないが、佳曲ぞろい。
個人的には7曲目の「ミス・マーリーン」がイチオシ。

トラックリスト

  • SLINKY THING / スリンキー・シング
  • I'M NOT THE SAME WITHOUT YOU / アイム・ノット・ザ・セイム・ウィズアウト・ユー
  • MEMORABILIA / メモラビリア
  • WEATHER IN MY HEAD / ウェザー・イン・マイ・ヘッド
  • THE NEW BREED / ザ・ニュー・ブリード
  • OUT OF THE GHETTO / アウト・オブ・ザ・ゲットー
  • MISS MARLENE / ミス・マーリーン
  • GOOD STUFF / グッド・スタッフ
  • PLANET D'RHONDA / プラネット・ドロンダ

Citations:

  1. https://irom.wordpress.com/2012/10/18/q-a-donald-fagens-new-album-sunken-condos/
  2. https://magazine.waxpoetics.com/article/reluctant-steely-dan-front-man-donald-fagen/
  3. https://www.theabsolutesound.com/articles/donald-fagen-sunken-condos/
  4. https://somethingelsereviews.com/2012/11/11/steely-dan-sunday-confessions-of-a-side-man-recording-on-donald-fagens-sunken-condos-part-1-of-3/
  5. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%B1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%BA
  6. http://steelydanreader.com/2012/11/01/donald-fagens-sunken-condos/
  7. https://blog.goo.ne.jp/elmar35/e/05b73baa9cdcae069e8f28f75bbaf436
  8. https://www.criticsatlarge.ca/2012/11/calculated-irony-donald-fagens-sunken.html
  9. https://spectrumculture.com/2012/11/08/donald-fagen-reprisesunken-condos/
  10. https://wonomagazine.blogspot.com/2012/12/sunken-condos-donald-fagen.html
  11. https://www.popmatters.com/164247-donald-fagen-sunken-condos-2495806915.html
  12. https://coachellavalleyweekly.com/donald-fagen-sunken-condos-reprise-records/
  13. https://www.albumartexchange.com/covers/240099-sunken-condos
  14. https://en.wikipedia.org/wiki/Sunken_Condos
  15. https://www.tokyo-ongaku.com/df_sunken_condos/
  16. https://www.discogs.com/ja/release/3965706-Donald-Fagen-Sunken-Condos
  17. https://www.huffpost.com/entry/emsunken-condosem-a-conve_b_1965856
  18. https://superdeluxeedition.com/news/donald-fagen-sunken-condos/
  19. https://www.cltampa.com/music/album-review-donald-fagen-sunken-condos-12285443
  20. https://en.debaser.it/donald-fagen/sunken-condos/review
  21. https://artistpicturesblog.com/2012/10/13/donald-fagen-is-back-with-sunken-condos/
  22. https://s.awa.fm/track/ca594ded1fdab57eb259
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