
Donald Fagen(ドナルド・フェイゲン)のソロデビューアルバム『The Nightfly』(ナイトフライ)は、1982年10月にリリースされた、1950年代後半から60年代初頭のアメリカ郊外を舞台にした半自伝的なコンセプトアルバムです。
コンセプトと歌詞の特徴
アルバムのライナーノートには、フェイゲンによる次のような説明が記されています:「このアルバムの楽曲は、1950年代後半から60年代初頭に北東部の都市の遠い郊外で育った若者が抱いたかもしれない特定のファンタジーを表現しています。つまり、私と同じような身長、体重、体格の若者のことです」[1][4]。
歌詞は、Steely Danの作品と比べてより個人的で、ノスタルジックで、皮肉さが少ないのが特徴です[4]。フェイゲンは「できるだけ皮肉を排除する」ことを目指し、「ある種の無邪気さ」を保つことを心がけたと語っています[4]。
アルバムのタイトルトラック「The Nightfly」は、Fagenが少年時代に聴いていたジャズラジオDJをモデルにした架空のキャラクター「Lester the Nightfly」の視点から書かれています[11]。
音楽性とサウンドの特徴
『ナイトフライ』は、スティーリー・ダンの作品と比べてよりジャジーな印象を与えます[4]。R&Bの要素も強く、スムーズなキーボードやホーンセクション、フェイゲンの語り口調のような歌唱が特徴的です[1]。
サウンド面での最大の特徴は、完全デジタル録音を採用した先駆的なアルバムの一つだということです[6][7]。当時としては画期的な試みでしたが、これが録音を非常に困難なものにしました。フェイゲンの完璧主義的な姿勢も相まって、録音には8ヶ月、ミックスに10日を要しました[11]。
結果として生まれたサウンドは、クリアで現代的な音質を持ち、以後のデジタル録音によるポップアルバムの基礎を築きました[5]。『ナイトフライ』は、オーディオファイルの間で音響機器のテスト用CDとして使われるほど高い評価を得ています[6]。
制作エピソードと参加ミュージシャン
制作には多くの困難が伴いました。例えば、タイトルトラックでは、ピアニストのマイケル・オマーティアン(Michael Omartian)に「クリックトラックだけを頼りにグルーヴを作る」よう要求し、オマーティアンが「強く反対した」というエピソードがあります[4]。
参加ミュージシャンには、ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)、ラリー・カールトン(Larry Carlton)、リック・デリンジャー(Rick Derringer)など、スティーリー・ダンの作品でもおなじみの実力派スタジオミュージシャンが名を連ねています[2]。複数のドラマーが起用され、時には1曲の中で複数のドラマーが演奏を分担するなど、フェイゲンの「完璧なドラムトラック」へのこだわりが見られます[4]。
発表時の反響と評価
『ナイトフライ』は、批評家と商業的の両面で好評を博しました。アメリカとイギリスでプラチナディスクを獲得し、1983年のグラミー賞では7部門にノミネートされました[3]。
リードシングル「I.G.Y.」はビルボードHot 100で26位を記録し、「New Frontier」のミュージックビデオはMTVで人気を集めました[3]。
長年にわたる人気と影響力から、『The Nightfly』は「ポップミュージックで最もこっそりとした傑作のひとつ」と評されることもあります[5]。
特筆すべき点
『ナイトフライ』は、スティーリー・ダンの休止後、フェイゲンが初めて一人で取り組んだ作品です。ウォルター・ベッカー(Walter Becker)の不在により、より個人的で温かみのある作品となりました[4]。
また、アルバムは1950年代の楽観主義と1980年代の洗練されたサウンドを融合させた独特の雰囲気を持っており、ノスタルジアと現代性が共存する稀有な作品となっています[5]。
以上のように、『ナイトフライ』は音楽的にも技術的にも革新的で、ドナルド・フェイゲンの才能が遺憾なく発揮された記念碑的なアルバムと言えるでしょう。
アルバムレヴュー
ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)の『ナイトフライ』(The Nightfly)です。
1982年10月にリリースした初のソロ・アルバム。
ドナルド・フェイゲンといえば、ウォルター・ベッカーと並んでスティーリー・ダンの中心メンバー。
スティーリ・ダンはアルバム『ガウチョ』を発表してから活動休止状態になってしまいますが、『ガウチョ』をリリースしてから2年後に発表されました。
自分の印象ではもっとインターバルが長かったような感じでいましたが、調べてみたらそれほどでもなかったようです。
当時はレコードからCDへ、変わろうとしていた時期で自分が持っているCDの中でも、一番古いぐらいのCD(後にレコードで買いなおした…)だと思います。
その印象は、50年代のアメリカのR&Bをクールに仕上げたような感じでしょうか?
ドナルド・フェイゲンの自伝的なアルバムともいわれ、彼自身、レコードのライナーノーツに
このアルバムの曲は、50年代後半から60年代前半にアメリカ北東部の郊外のその奥で育った青年が楽しんだかもしれない特有のファンタジーを体現しています。
つまり、私の身長や体重、身体そのものです。
というようなことを書いてます。
楽曲にもよりますが、基本『ガウチョ』の延長線上にあるといった雰囲気です。
例えば1曲目の「I.G.Y.」。
録音エンジニアのロジャー・ニコルスが製作したというドラムマシン(サンプラー)「ウェンデル2」を使用している楽曲せいか、テクノとまではいかないまでも、かなり、スクエアなビートでR&Bの泥臭さをそぎ落としたような音作り。
すべての楽曲にドラマーの名前がクレジットされているせいで冨田恵一の『ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法- 』を読むまでは、サンプラーを使っているとは思いませんでしたが、いわれてみれば、ああなるほどと。
ここでドラムを叩いているのはジェームス・ギャドソンとジェフ・ポーカロ。
ジェフ・ポーカロはAdditional drumsとクレジットされている。
これ、二人で叩いているのかなぁと改めて聴いてみるが、一人で叩いているようにしか聴こえない。
冨田恵一の著書によればベースになっているのはジェームス・ギャドソンで、その上にジェフ・ポーカロの音を切り張りしているらしい。

ジャケットに写ったディスクジョッキーはドナルド・フェイゲン本人。
時計の時間は午前4時9分。
タバコはチェスターフィールド。
レコードプレーヤーと一緒にテーブルにあるのは、ソニー・ロリンズの『Sonny Rollins and the Contemporary Leaders』というフェイゲンのお気に入りのアルバム。
関係のない話ですが、このジャケットを見ると糸居五郎の「オールナイトニッポン」を思い浮かべてしまうのは私だけでしょうか…。
まあ、名盤です。
トラックリスト&パーソネル
1. I.G.Y.[What a Beautiful World]I.G.Y. (International Geophysical Year) - 6:05
- エレクリック・ピアノ:グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- ギター:ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)
- シンセサイザー:ロブ・ムンジー(Rob Mounsey)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- シンセ・ブルース・ハープ:ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- パーカッション:スターズ・ヴァンダーロック(Starz Vanderlocket)、ロジャー・ニコルス(Roger Nichols)
- ドラムス:ジェームス・ギャドソン(James Gadson)
- ドラムス(追加):ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)
- ベース:アンソニー・ジャクソン(Anthony Jackson)
- トランペット:ランディー・ブレッカー(Randy Brecker)
- アルト・サックス:デイブ・トファニ(Dave Tofani)
- テナー・サックス:マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)
- バリトン・サックス:ロニー・キューバー(Ronnie Cuber)
- トロンボーン:デイブ・バージェロン(Dave Bargeron)
- コーラス:ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)、ザック・サンダース(Zack Sanders)、フランク・フロイド(Frank Floyd)、ゴードン・グロディー(Gordon Grody)
2.Green Flower Street(グリーン・フラワー・ストリート) - 3:40
- エレクリック・ピアノ、クラヴィネット:グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- リード・ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ギター:ディーン・パークス(Dean Parks)、リック・デリンジャー(Rick Derringer)
- シンセサイザー:ロブ・ムンジー(Rob Mounsey)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- パーカッション:スターズ・ヴァンダーロック(Starz Vanderlocket)
- ドラムス:ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)
- ベース:チャック・レイニー(Chuck Rainey)
- コーラス:ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)、ザック・サンダース(Zack Sanders)、フランク・フロイド(Frank Floyd)、ダニエル・ラゼラス(Daniel Lazerus)
3.Ruby Baby (Jerry Leiber & Mike Stoller)(ルビー・ベイビー) - 5:38
- ピアノ:マイケル・オマーティアン(Michael Omartian)
- ピアノ(ソロ):グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- エレクトリック・ピアノ、オルガン、シンセサイザー:ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- リード・ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ギター:ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)
- ドラムス:ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)
- ドラムス(追加):ジェームス・ギャドソン(James Gadson)
- ベース:アンソニー・ジャクソン(Anthony Jackson)
- トランペット、フリューゲルホーン:ランディー・ブレッカー(Randy Brecker)
- テナー・サックス:マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)
- コーラス:ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
4.Maxine(愛しのマキシン) - 3:50
- ピアノ:グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- エレクトリック・ピアノ、オルガン:ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ドラムス:エド・グリーン(Ed Green)
- ベース:マーカス・ミラー(Marcus Miller)
- フリューゲルホーン:ランディー・ブレッカー(Randy Brecker)
- アルト・サックス:デイブ・トファニ(Dave Tofani)
- テナー・サックス:マイケル・ブレッカー(Michael Brecker)
- バリトン・サックス:ロニー・キューバー(Ronnie Cuber)
- ユーフォニアム:デイブ・バージェロン(Dave Bargeron)
5.New Frontier(ニュー・フロンティア) - 6:23
- ピアノ、エレクトリック・ピアノ:マイケル・オマーティアン(Michael Omartian)
- リード・ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ハーモニカ:ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)
- パーカッション:スターズ・ヴァンダーロック(Starz Vanderlocket)
- ドラムス:エド・グリーン(Ed Green)
- ベース:エイブラハム・ラボリエル(Abraham Laboriel)
- コーラス:スターズ・ヴァンダーロック(Starz Vanderlocket)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
6.The Nightfly(ナイトフライ) - 5:45
- ピアノ:ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- エレクトリック・ピアノ:マイケル・オマーティアン(Michael Omartian)
- リード・ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ギター:ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)、リック・デリンジャー(Rick Derringer)
- シンセサイザー:ロブ・ムンジー(Rob Mounsey)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- ドラムス:ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)
- ベース:マーカス・ミラー(Marcus Miller)
- コーラス:ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)、ザック・サンダース(Zack Sanders)、フランク・フロイド(Frank Floyd)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
7.The Goodbye Look(グッドバイ・ルック) - 4:47
- エレクトリック・ピアノ、シンセサイザー:グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- リード・ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ギター:ディーン・パークス(Dean Parks)
- アコースティック・ギター:スティーヴ・カーン(Steve Khan)
- パーカッション:スターズ・ヴァンダーロック(Starz Vanderlocket)
- ドラムス:ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro)
- ベース:マーカス・ミラー(Marcus Miller)
- コーラス:ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
8.Walk Between Raindrops(雨に歩けば) - 2:38
- エレクトリック・ピアノ、オルガン、シンセサイザー:ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)
- ギター:ラリー・カールトン(Larry Carlton)
- ドラムス:スティーヴ・ジョーダン(Steve Jordan)
- シンセサイザー・ベース:グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)
- ベース:ウィル・リー(Will Lee)
- コーラス:レスレイ・ミラー(Leslie Miller)
Citations:
[1] https://www.tinymixtapes.com/delorean/donald-fagen-nightfly
[2] https://www.sessiondays.com/2016/01/1982-donald-fagen-the-nightfly/
[3] https://1001albumsgenerator.com/albums/5cOS6szqlcoqmiSoVTqqe8/the-nightfly
[4] https://en.wikipedia.org/wiki/The_Nightfly
[5] https://insheepsclothinghifi.com/album/donald-fagen-the-nightfly/
[6] http://steelydanreader.com/2001/03/01/remembering-nightfly/
[7] https://www.hifinews.com/content/donald-fagen-nightfly
[8] https://www.discogs.com/release/6624576-Donald-Fagen-The-Nightfly
[9] https://en.wikipedia.org/wiki/Donald_Fagen
[10] https://chrisledrew.wordpress.com/2019/07/04/notes-on-ithe-nightfly-i/
[11] https://www.rhino.com/article/deep-dive-donald-fagen-the-nightfly
[12] https://musicboard.app/album/the-nightfly/donald-fagen/
[13] https://www.superverbose.com/2017/07/31/album-assignments-the-nightfly/
[14] https://byjeffburger.com/1983/04/01/donald-fagen-the-nightfly-1983/
[15] https://musicbrainz.org/release-group/a0f2615e-aebd-3300-99e3-626c4ea7bcae
[16] https://ashesoflaughter.wordpress.com/2012/08/03/personal-reflections-on-donald-fagens-the-nightfly/