スティーリー・ダン『キャント・バイ・ア・スリル』を聴く
スティーリー・ダン『キャント・バイ・ア・スリル』
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Steely Dan(スティーリー・ダン)のデビューアルバム『Can't Buy A Thrill』(キャント・バイ・ア・スリル)は、1972年11月にABCレコードからリリースされた画期的な作品です。このアルバムは、バンドの中核メンバーであるドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーの才能を存分に発揮し、彼らの独特な音楽性を確立しました。

アルバムのコンセプトと音楽性

『Can't Buy A Thrill』は、ロック、ジャズ、R&B、ラテン音楽などの要素を巧みに融合させた革新的なサウンドを特徴としています[1][2]。アルバムのタイトルはボブ・ディランのアルバム『追憶のハイウェイ 61』(Highway 61 Revisited)に収録された曲「It Takes a Lot to Laugh, It Takes a Train to Cry」の歌詞から取られており、Steely Danの文学的な影響を示しています[9]。

アルバムの楽曲は、緻密に構築された和音進行と巧みに絡み合うメロディ、そして知的で暗号めいた歌詞によって特徴づけられています[1]。この時点で既に、Steely Danの後のキャリアを通じて見られる洗練された職人技が明確に表れています。

制作エピソードと参加ミュージシャン

興味深いエピソードとして、ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen)は当初自身の歌唱力に自信がなく、リードボーカルを担当することを躊躇していました[4]。そのため、デイヴィッド・パーマー(David Palmer)がいくつかの曲でリードボーカルを務めています。

スティーリー・ダン

  • ドナルド・フェイゲン - ピアノ、エレクトリックピアノ、プラスチックオルガン、ボーカル
  • ウォルター・ベッカー - ベース、ボーカル
  • ジェフ・"スカンク"・バクスター - ギター、ペダル・スティール・ギター
  • デニー・ダイアス - ギター、エレクトリックシタール
  • ジム・ホッダー - ドラムス、パーカッション、ボーカル
  • デイヴィッド・パーマー - ボーカル

ゲストミュージシャン

  • ヴィクター・フェルドマン - パーカッション
  • エリオット・ランドール - ギター
  • ジェローム・リチャードソン - テナーサクソフォーン
  • スヌーキー・ヤング - フリューゲルホルン
  • ヴェネッタ・フィールズ - バックグラウンドボーカル
  • クライディ・キング - バックグラウンドボーカル
  • シャーリー・マシューズ - バックグラウンドボーカル

特筆すべき楽曲

  1. 「Do It Again」: アルバムの先行シングルとして大ヒットし、ラテンジャズのビートを取り入れた革新的な楽曲です[4][5]。
  2. 「Reelin' In The Years」: エリオット・ランドールによる印象的なギターソロが特徴的で、ジミー・ペイジが「お気に入りのギターソロ」と評したことでも知られています[10]。
  3. 「Dirty Work」: 後にポインター・シスターズがカバーし、様々な映画やテレビ番組で使用された人気曲です[10]。
  4. 「Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)」: ハードコアなファンに人気の楽曲で、BeckerとFagenの近所の住人をモチーフにしています[10]。

発表時の反響と評価

『Can't Buy A Thrill』は商業的にも批評的にも大成功を収めました。アルバムはビルボードのTop LPs & Tapeチャートで17位を記録し、後にRIAAからプラチナ認定を受けています[2]。

批評家からも高い評価を得ており、ローリングストーン誌の「歴史上最も偉大な500枚のアルバム」リストに選出されています[2]。クリエイティブな歌詞、洗練された楽曲構成、そして多様な音楽ジャンルの融合が高く評価されました。

まとめ

『Can't Buy A Thrill』は、Steely Danの独特な音楽性を確立した記念碑的なデビューアルバムです。洗練されたポップサウンドの中に、ジャズやR&Bの要素を巧みに取り入れ、知的で皮肉めいた歌詞と組み合わせることで、70年代のロック音楽に新たな地平を切り開きました。このアルバムの成功により、BeckerとFagenは以降さらに実験的で革新的な音楽制作へと進んでいくことになります[5]。

『Can't Buy A Thrill』は、デビュー作とは思えないほど完成度の高い作品であり、Steely Danの後のキャリアを通じて追求される音楽的方向性を明確に示した重要なアルバムとして、音楽史に残る作品となっています。

アルバムレヴュー

スティーリー・ダンといえば『エイジャ』や『ガウチョ』のように洗練された大人のロックをイメージするが、本作はちょっと違う。
ジャズとラテンテイストをまとった泥臭いサウンドで、彼らのアルバムの中で最もロックバンドらしいアルバムに仕上がっている。

1曲目の「ドゥ・イット・アゲイン」は全米のシングルチャートでは6位となり、彼ら最初のヒット曲となった。
イントロはジム・ホッダーのパーカッションがラテンのリズムを奏で、全体にタイトで緊張感のあるソリッドなロックである。
デニー・ダイアスのエレクトリックシタールとフェイゲンが弾くオルガン、各々のソロが効いている。
ヴォーカルはドナルド・フェイゲン。
歌っている内容は登場人物の絞首刑になったジャックの悲哀だろうか…。

また、2曲目の「ダーディーワーク」のヴォーカルはデイヴィッド・パーマー。
デイヴィッド・パーマーはこの曲と「ブルックリン」でリードヴォーカルを担当するが、次作の『エクスタシー』ではバックグランドヴォーカルに名を連ねるだけで結局、解雇されてしまう。
ちなみに、パーマーはドナルド・フェイゲンがツアーの時にバンドのフロントマンになるのが嫌で誰かシンガーはいないかと探していたときにギターのジェフ・"スカンク"・バクスターの推薦で加入した。
余談だが、パーマーはキャロル・キングとも親交があり彼女の「ジャズマン」や「ナイチンゲール」などの作詞も行っている。
才能のある人なのだ。

B面1曲目の「リーリン・イン・ジ・イヤーズ」は軽快なロックナンバー。
本作でのギター・ソロはエリオット・ランドール。
『スティーリー・ダン大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)によれば、ジミー・ペイジが「あらゆる曲の中で最も好きなギター・ソロだ」と絶賛しているとか…(ホントかいな?)
ランドールは3曲目の「キングス」でもギター・ソロをとっている。

ちなみに、このアルバムの楽曲、やたら映画で使われている。
ざっと挙げてみると1曲目の「ドゥ・イット・アゲイン」は『僕を育ててくれたテンダー・バー』、『マスク』(ジム・キャリー主演じゃないやつ)、『インヴィンシブル 栄光へのタッチダウン』、『しあわせの法則』、『幸せの行方...』など
2曲目の「ダーティー・ワーク」は『アメリカン・ハッスル』で使われたのが印象的だったし、「リーリン・イン・ジ・イヤーズ」はケヴィン・コスナー主演の『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』で使われた。
アメリカではテレビドラマでもかなり使われているらしい。

最初にスティーリー・ダンを聴いたのは大学1年生の時に聴いた『aja』だったと思う。
これまで聴いてきたアメリカやイギリスのロックとはまったく違うテイストで、すっかり彼らの音楽に魅了されてしまった。
そうなると「これは、1枚目から聴かなくては」と、さっそく、中古レコード屋に駆け込み購入したのが本作で、ますます、彼らの音楽にはまった。
以来、いまだにスティーリー・ダン推しである。

トラックリスト

Side 1

  1. Do It Again(ドゥ・イット・アゲイン) - 5:56
  2. Dirty Work(ダーティ・ワーク) - 3:08
  3. Kings(キングス) - 3:45
  4. Midnight Cruiser(ミッドナイト・クルーザー) - 4:08
  5. Only a Fool Would Say That(オンリー・ア・フール) - 2:57

Side 2

  1. Reelin' in the Years(リーリン・イン・ジ・イヤーズ) - 4:37
  2. Fire in the Hole(ファイア・イン・ザ・ホール) - 3:28
  3. Brooklyn (Owes the Charmer Under Me)(ブルックリン) - 4:21
  4. Change of the Guard(チェンジ・オブ・ザ・ガード) - 3:39
  5. Turn That Heartbeat Over Again(ハートビート・オーバー・アゲイン) - 4:58
合わせて読みたい

Citations:
[1] https://www.lasercd.com/cd/cant-buy-thrill
[2] https://en.wikipedia.org/wiki/Can't_Buy_a_Thrill
[3] https://broberg.se/sd_cbat.htm
[4] https://ultimateclassicrock.com/steely-dan-cant-buy-a-thrill/
[5] https://www.udiscovermusic.com/stories/steely-dan-cant-buy-a-thrill-feature/
[6] https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Steely_Dan_members
[7] http://blog.musoscribe.com/index.php/2022/11/28/music-to-your-ears-steely-dans-cant-buy-a-thrill/
[8] https://www.progarchives.com/album.asp?id=19394
[9] https://www.bbc.co.uk/music/reviews/bvhf/
[10] https://onceuponatimeinthe70s.com/2023/09/24/cant-buy-a-thrill-steely-dan/

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