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スティーリー・ダン『エクスタシー』

スティーリー・ダン『エクスタシー』
Steely Dan(スティーリー・ダン)『Countdown To Ecstasy』(エクスタシー)

Steely Dan(スティーリー・ダン)の『Countdown To Ecstasy』(邦題:エクスタシー)は、1973年にリリースされました。
前作『Can't Buy a Thrill』からジャズ・ロック路線を深化させ、リーダー格のウォルター・ベッカーとドナルド・フェイゲンが生み出した洗練・知性・アイロニーに満ちた名盤として高く評価されています[1]。

『エクスタシー』のコンセプトとテーマ

本作は「精神的な高揚(エクスタシー)までのカウントダウン」というタイトル自体が、スピリチュアリティを合理化しようとする試みを風刺化したジョークでもあります。
歌詞はアメリカ社会の退廃、ドラッグカルチャー、ショウビズ界の虚飾、アウトサイダーの視点といったテーマを、知的かつ皮肉交じりで描き出しており、後の『Pretzel Logic』『Katy Lied』と続くロサンゼルスの「ダークサイド三部作」のさきがけと評されます[4]。

音楽性・サウンドの特徴

本作の楽曲は前作よりさらにジャズ色を強めたロックで、ライブバンド編成を前提にして書かれた唯一のアルバムです。
アップテンポでありながら、コードやリズムの複雑さやアレンジの妙、そして各楽器プレイヤーの個性が融合されています。
代表曲「Bodhisattva」はバップ風のジャズギターソロ、「My Old School」はピアノリフとサックス、「Show Biz Kids」はブルージーな雰囲気、「Pearl of the Quarter」ではカントリー風味(ペダルスティールギターによる)が光ります[2]。

音響的にはクリーンでほとんど雑味のないプロダクション、40年代バップ〜60年代初期のポップロックの影響、絶妙なオーバーダブとミキシングが特徴とされます。
「King of the World」などではサウンドエフェクトやシンセサイザーも活用されています[5]。

制作時のエピソード

本作の制作はバンド形態で行われ、各メンバーの楽器パートや個性が色濃く反映されていますが、ツアー疲れやプロデューサーやエンジニアとの果てしないリテイク要求による緊張感・疲弊も伝えられています。
ベッカーとフェイゲンは、理想的なサウンドのために何度もテイクを重ね、完璧主義的な姿勢で知られるようになりました(後年のフェイゲンとベッカーの収録時のやり取りを収めた録音テープも現存)[8]。

トラック・リスト

Side 1

  1. Bodhisattva (菩薩) - 5:18
  2. Razor Boy (レイザー・ボーイ) - 3:12
  3. The Boston Rag (ボストン・ラグ) - 5:40
  4. Your Gold Teeth (ユア・ゴールド・ティース) - 6:59

Side 2

  1. Show Biz Kids (ショウ・ビズ・キッズ) - 5:26
  2. My Old School (マイ・オールド・スクール) - 5:46
  3. Pearl of the Quarter (パール・オブ・ザ・クォーター) - 3:51
  4. King of the World (キング・オブ・ザ・ワールド) - 5:00

主な参加ミュージシャン

  • ドナルド・フェイゲン(Donald Fagen):ボーカル、ピアノ、エレピ
  • ウォルター・ベッカー(Walter Becker):ベース、バッキングボーカル
  • デニー・ディアス(Denny Dias):ギター
  • ジェフ“スカンク”バクスター(Jeff "Skunk" Baxter):ギター、ペダルスティール
  • ジム・ホッダー(Jim Hodder):ドラムス
  • ヴィクター・フェルドマン(Victor Feldman):ヴィブラフォン、マリンバ、パーカッション
  • リック・デリンジャー(Rick Derringer):スライドギター(Show Biz Kids)
  • レイ・ブラウン(Ray Brown):コントラバス(Razor Boy)
  • その他、サックス奏者やコーラス隊が参加しています。​
  • ゲイリー・カッツ(Gary Katz):プロデューサー
  • ロジャー・ニコルズ(Roger Nichols):エンジニア

発表時の反響

商業的には大ヒットシングルを生みませんでしたが、アルバム全体でビルボード35位、1978年にはゴールド認定を受けました。
その一方、批評家からは非常に高い評価を受け、完璧に近いスコアや「バンドの代表作」としての位置づけがなされています[9]。

ジャケットデザイン

ジャケットは当時フェイゲンの恋人であったドロシー・ホワイト(Dotty of Hollywoodとクレジット)によるもので、「5人組なのに3人しか描かれていない」ことをレコード会社が問題視し、人物を増やすよう指示されたエピソードがあります。
最終的にレイアウトにまつわる紆余曲折もあり、バンド側がプロトタイプを“盗み出し”たという逸話も存在。
また、裏ジャケットはエンジニアのロジャー・ニコルスが写ったスタジオ写真で、ミキサー卓に“切断された手”が置かれているなど遊び心も感じられるものです[10]。

特筆すべきこと

  • ジャズロックの頂点の一つともいえるアレンジ・演奏力。
  • 裏社会やショービズの皮肉と知性が交錯するリリック。
  • 「King of the World」は核戦争後のアメリカを描き、1962年のSF映画『Year Zero』から着想したといわれています[11]。​
  • Steely Danが「バンド」として活動した数少ない時期の作品で、のちの「スタジオ集団化」以前の貴重なアンサンブルを記録しています[2]。​
  • ドナルド・フェイゲンが初めて全曲でリードボーカルを担当し、前作で一部のボーカルを担当していたデビッド・パーマーはバックボーカルのみとなった。
  • 「My Old School」:フェイゲン と Beckerの母校Bard Collegeでの薬物逮捕事件に触発された曲で、珍しく個人的な経験が反映されている。

このように『エクスタシー』は、スティーリー・ダンの音楽的探求と批評精神、そしてバンドらしさが最も色濃く刻まれたアルバムと言えるでしょう[1]。

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Citations

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Countdown_to_Ecstasy
  2. https://broberg.se/sd_ecstasy.htm
  3. https://www.popmatters.com/steely-dan-countdown-to-ecstasy-atr50
  4. https://fontsinuse.com/uses/64697/steely-dan-countdown-to-ecstasy-album-art
  5. https://rockandrollglobe.com/rock/show-biz-kids-steely-dans-countdown-to-ecstasy-at-50/
  6. https://www.audiophilia.com/reviews/2023/8/12/obhe7b7os4slfrxsm7uah181pur39q
  7. https://www.analogplanet.com/content/steely-dan%E2%80%99s-countdown-ecstasy-almost-achieves-liftoff-new-180g-1lp-reissue-geffenume
  8. https://expandingdan.substack.com/p/steely-dan-oral-history-complete
  9. https://ultimateclassicrock.com/steely-dan-countdown-to-ecstasy/
  10. https://www.reddit.com/r/SteelyDan/comments/1acdfbz/cover_of_countdown_to_ecstasy/
  11. https://christiansmusicmusings.wordpress.com/2023/07/28/steely-dans-countdown-to-ecstasy-hits-the-big-50/
  12. https://www.udiscovermusic.com/stories/steely-dan-countdown-to-ecstasy-feature/
  13. https://www.reddit.com/r/SteelyDan/comments/1j1jieb/countdown_to_ecstasy_live_a_seamless_compilation/
  14. https://www.progarchives.com/album.asp?id=19396
  15. https://www.imdb.com/title/tt25691068/
  16. https://www.reddit.com/r/SteelyDan/comments/16nkggp/day_2_why_is_countdown_to_ecstacy_your_favourite/
  17. https://www.backseatmafia.com/not-forgotten-steely-dan-countdown-to-ecstacy/
  18. https://discordpod.com/listen/050-steely-dan-countdown-to-ecstasy-1973-and-aja-1977
  19. https://note.com/yuuichi2400/n/n92d72bb18a62
  20. https://albumism.com/features/steely-dan-countdown-to-ecstasy-album-anniversary
  21. https://www.youtube.com/watch?v=JZfNKJLbNEE
  22. https://wiki-lied.fandom.com/wiki/Countdown_to_Ecstasy
  23. https://www.reddit.com/r/SteelyDan/comments/14mcq4k/has_anybody_else_noticed_that_countdown_to/
  24. https://open.spotify.com/episode/5ijObadCKKIRVrEz7A0Ll4
  25. https://trackingangle.com/music/if-these-guys-are-counting-down-to-ecstasy-what-do-they-look-like-when-they-re-pissed
  26. https://www.youtube.com/watch?v=A6Cw1dCz6wA
  27. https://www.youtube.com/watch?v=9Q6iR_mAZc8
  28. https://ritholtz.com/2009/08/steely-dan/
  29. https://www.youtube.com/watch?v=JonUikSVfNE&vl=ja
  30. https://expandingdan.substack.com/p/ed-caraeff-making-steely-dan-album-covers
  31. https://www.facebook.com/groups/478613695592616/posts/24178817478478905/
  32. https://waynerobins.substack.com/p/countdown-to-ecstasy-steely-dans
  33. https://www.youtube.com/watch?v=syQoNrWU2wU
  34. http://steelydanreader.com/1993/08/22/two-decade-countdown-ecstasy/
  35. https://www.facebook.com/groups/tributetotheveryworstalbumcovers/posts/10160949693304661/
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