ジョージ・ハリスン『ジョージ・ハリスン帝国』

『Extra Texture (Read All About It)』のコンセプト
1975年9月22日にリリースされたGeorge Harrison(ジョージ・ハリスン)の6作目のソロ・アルバム『Extra Texture (Read All About It)』(ジョージ・ハリスン帝国)は、ビートルズ解散後の彼の作品の中で、明確なスピリチュアルなメッセージが歌詞からほぼ消えた唯一のアルバムです[1]。当時のハリスンは、1974年の北米ツアーの不評や、前作『Dark Horse』の批判的な評価を受け、精神的にも落ち込んでいました。そのため本作は、彼自身の内面や人間関係、音楽業界への皮肉や自己批評が色濃く反映された、非常にパーソナルで率直な内容となっています[1][2]。
音楽性・サウンドの特徴
本作の最大の特徴は、キーボードを中心としたサウンドとソウル・ミュージックの影響です。従来のロックやフォーク・ロック色は後退し、スモーキー・ロビンソンやフィラデルフィア・ソウルの影響を感じさせる、柔らかくメロウなアレンジが全編を支配しています[1][2]。ピアノやエレクトリックピアノ、ストリングスが多用され、ギターの存在感は控えめですが、「Tired of Midnight Blue」や「This Guitar (Can't Keep from Crying)」ではハリスンらしいスライドギターも聴かれます[1][3]。
特にピアノは、後に大物プロデューサーとなるデヴィッド・フォスターの参加によって、これまでのハリスン作品以上に前面に出ています[2]。また、ストリングスのアレンジもフォスターが担当し、フィル・スペクター時代の重厚なオーケストレーションとは異なり、より洗練された軽やかな仕上がりです[2]。
ヴォーカル面では、前作で酷評された声の不調(喉頭炎)は回復し、ファルセットやゴスペル風のスキャットも披露。録音も「クローズマイク」気味の柔らかな歌い方が特徴的です[1]。
収録曲と制作エピソード
アルバム制作は主にロサンゼルスで行われ、ハリスンがダーク・ホース・レコードの業務で滞在中、急遽空いたスタジオ枠を利用して録音が始まりました[1]。契約満了を控えたアップル・レコードからの早期脱却を意図した、やや急ごしらえの側面もあり、半ば未完成の曲や新曲を短期間で仕上げたとされています[1]。
シングル「You」は実は1971年にフィル・スペクターと録音された未発表音源をもとに、1975年にオーバーダビングして完成させたものです[1]。また、「This Guitar (Can't Keep from Crying)」は「While My Guitar Gently Weeps」の続編的存在で、批評家への反論も込められています[1][2][3]。
参加ミュージシャン
本作には多彩なミュージシャンが参加しています[1][2][3]。
- ジョージ・ハリスン(ヴォーカル、ギター、シンセサイザー他)
- デヴィッド・フォスター(ピアノ、オルガン、ストリングスアレンジ)
- ゲイリー・ライト(オルガン、エレクトリックピアノ、シンセサイザー)
- ジム・ケルトナー、アンディ・ニューマーク(ドラムス)
- ジェシ・エド・デイヴィス(ギター)
- クラウス・フォアマン、ウィリー・ウィークス、カール・レイドル(ベース)
- レオン・ラッセル、ニッキー・ホプキンス、ビリー・プレストン(ピアノ、キーボード)
- トム・スコット、ジム・ホーン(サックス)
- チャック・フィンドリー(トランペット、トロンボーン)
- ロニー・スペクター(ヴォーカル) ほか
ジャケットデザイン
アルバムのアートワークはキャピトル・レコードのロイ・コハラが担当し、ハリスン自身のスケッチをもとに、ユーモラスで「ワッキー」なデザインとなっています[1]。鮮やかなオレンジ色の表紙には「EXTRA TEXTURE」の文字が型抜きされ、その下から青みがかったハリスンの写真が覗く仕様。アップル・レコードのロゴは「食べかけのリンゴの芯」として描かれ、レーベルの終焉を皮肉っています[1]。
また、内袋の写真には「OHNOTHIMAGEN(またあいつかよ)」という自虐的なキャプションが添えられ、当時の人気低迷やメディア批判への自嘲も込められています[1]。
![ジョージ・ハリスン(George Harrison)『ジョージ・ハリスン帝国』(Extra Texture[Read All About It]):ジャケットの裏面](https://otolog.net/wp-content/uploads/2025/05/George-Harrison_Extra-Texture_02-300x225.jpg)
発表時の反響
リリース当時、批評家からの評価は概ね芳しくありませんでした。ローリング・ストーン誌は「You」など一部楽曲を評価しつつも、全体的には「キーボードに頼りすぎで、ハリスンの声も弱々しい」と酷評[1]。NMEは「前作よりは良いが、全盛期には及ばない」とし、ファン以外には慎重な購入を勧めています[1]。ハリスン自身も後年「1970年代で最も出来の悪いアルバム」「グラビーなアルバム」と語っています[1]。
しかし、アメリカではリリース2か月でゴールドディスクを獲得し、シングル「You」もヒットするなど、一定の商業的成功は収めました[1]。近年は「隠れた佳作」「ソウルフルで独特な質感」と再評価する声もあります[2]。
特筆すべきこと
- 本作はアップル・レコードから発売された最後のスタジオ・アルバムであり、ハリスンのアップル在籍ラスト作です[1]。
- アルバムタイトルは新聞売りの呼び声「Extra! Extra! Read all about it!」のパロディであり、当初は「Ohnothimagen」という自虐的タイトルも検討されていました[1]。
- 2014年のリマスター再発時には、息子ダーニ・ハリスンやリンゴ・スターらが参加した「This Guitar (Can't Keep from Crying)」の新バージョンも追加収録されています[1][2][3]。
まとめ
『Extra Texture (Read All About It)』は、ジョージ・ハリスンのキャリアの中でも異色のアルバムであり、内省的かつソウルフルな音楽性、ユーモラスなアートワーク、そして時代背景を反映した率直なメッセージが特徴です。発表当時は評価が分かれましたが、今なおその独自性と誠実さが再評価されています。
Citations:
- https://en.wikipedia.org/wiki/Extra_Texture_(Read_All_About_It)
- https://freeasahub.wordpress.com/2022/02/06/read-all-about-it-georges-extra-texture-album/
- https://en.wikipedia.org/wiki/This_Guitar_(Can't_Keep_from_Crying)
- https://www.udiscovermusic.jp/essentials/george-harrison-extra-texture
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%8F%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%B3%E5%B8%9D%E5%9B%BD
- https://bushitsu.blog.jp/archives/6058214.html
- https://narurukato.exblog.jp/28846714/
- https://www.reddit.com/r/beatles/comments/1d6z96h/how_does_everyone_feel_about_georges_album_extra/
- https://www.reddit.com/r/beatles/comments/rzl3tn/extra_texture/
- https://www.pinterest.com/pin/extra-texture-1975-by-george-harrison--331647960036249243/