ライ・クーダー『バップ・ドロップ・デラックス』

ライ・クーダー『バップ・ドロップ・デラックス』
ライ・クーダー(Ry Cooder)『バップ・ドロップ・デラックス』(Bop till You Drop)

Ry Cooder(ライ・クーダー)の『Bop Till You Drop』(邦題:バップ・ドロップ・デラックス)は、1979年にリリースされたアメリカン・ルーツ音楽の探究者としての彼の資質が色濃く反映されたアルバムです。

『Bop Till You Drop』のコンセプトと音楽性

本作の最大の特徴は、R&Bやソウル、ロックンロールの名曲を中心に構成されたカバー・アルバムである点です。収録曲の大半は1950~60年代のリズム&ブルースやソウルの佳曲で、エルヴィス・プレスリーの「Little Sister」やアーサー・アレキサンダーの「Go Home Girl」、アイク&ティナ・ターナーの「I Think It’s Going to Work Out Fine」など、当時のアメリカ音楽の豊かな土壌を再発掘する意図が明確です[1][2][3]。

クーダー自身が「音楽の宝探し人」と評されるように、メインストリームから外れた楽曲やスタイルに光を当てる姿勢が貫かれています[1]。唯一のオリジナル曲「Down in Hollywood」も、都会の危うさやアメリカン・ドリームの裏側をユーモラスかつシニカルに描いた佳作で、アルバム全体の流れに自然に溶け込んでいます[1][4]。

サウンドの特徴とデジタル録音

『バップ・ドロップ・デラックス』は、メジャーレーベルから発売されたポップ・アルバムとして世界初のデジタル録音作品という歴史的意義を持ちます。3M製32トラック・デジタルレコーダーを使用し、当時としては画期的な音質と明瞭さを実現しました[2][3][5][6]。

このデジタル録音の音質については賛否が分かれました。楽器の分離やクリアなサウンドは高く評価された一方で、一部の評論家やファンからは「薄さ」や「冷たさ」を指摘されることもありました。AllMusicのレビューでも「演奏の熱気が録音の過程で失われた」とされる一方、ハイファイ・マニアの間ではデモンストレーション用アルバムとして長く愛用されるなど、オーディオ的な価値も高かったことが特筆されます[2][7]。

サウンド面では、クーダーの流麗なエレクトリック・ギターとボトルネック奏法が随所で冴えわたり、ソウルフルなコーラスやグルーヴィーなリズム・セクションと共に、アメリカ音楽の多様なエッセンスを現代的に再構築しています[1][6][8]。

参加ミュージシャン

本作には、アメリカ音楽界屈指の名手たちが集結しています。

  • Ry Cooder(ライ・クーダー):ギター、マンドリン、ボーカル、プロデューサー
  • David Lindley(デヴィッド・リンドレー):ギター、マンドリン(全曲参加、「I Can’t Win」を除く)
  • Tim Drummond(ティム・ドラモンド):ベース
  • Jim Keltner(ジム・ケルトナー):ドラムス
  • Milt Holland(ミルト・ホランド):パーカッション、ドラムス
  • Ronnie Barron(ロニー・バロン):オルガン、ギター
  • Rev.(Reverend[レヴァレンド]の略で、聖職者の意味) Patrick Henderson(パトリック・ヘンダーソン牧師):オルガン
  • Bobby King(ボビー・キング):ボーカル、バック・ボーカル
  • Chaka Khan(チャカ・カーン):ボーカル(「Down in Hollywood」「Don’t You Mess Up a Good Thing」)
  • その他 – ゴスペル系コーラス陣(Cliff Givens、Bill Johnson、Herman Johnson、Randy Lorenzo、George "Biggie" McFadden、Simon Pico Payne、Greg Prestopinoなど)[5][6][9][10]。

この豪華な布陣が、アルバム全体に豊かなハーモニーとグルーヴをもたらしています。

制作時のエピソード

デジタル録音という新技術の導入は、当時の音楽業界に大きな衝撃を与えました。クーダー自身も「デジタル録音の音の薄さ」に戸惑いを感じたと語っていますが、演奏陣の力量によって「デジタル=無機質」という先入観を覆す、温かみのあるサウンドに仕上げています[2][3]。

また、チャカ・カーンの参加は話題となり、特に「Down in Hollywood」での彼女のパワフルなボーカルはアルバムのハイライトの一つです[4][6]。

発表時の反響と評価

『バップ・ドロップ・デラックス』は、リリース当時から高い評価を受けました。ローリング・ストーン誌など主要メディアで好意的に取り上げられ、クーダーにとって最大のヒットとなった「Little Sister」はチャートでも健闘しました[2][4][8]。

一方で、デジタル録音の音質に関しては賛否が分かれ、評論家の間でも議論を呼びました。しかし、アメリカン・ルーツ音楽の再解釈というクーダーのスタンスや、卓越したギタープレイ、選曲の妙は広く認められています[2][3][7]。

特筆すべきこと

  • 世界初のデジタル録音メジャー・アルバム:音楽制作の歴史を変えた技術的マイルストーン[2][3][5]。
  • アメリカ音楽の再発見:R&Bやソウル、ロックンロールの名曲を現代的に再構築し、次世代に伝えた意義[1][3][4]。
  • 豪華な参加ミュージシャン:チャカ・カーンやデヴィッド・リンドレー、ジム・ケルトナーらによる、ジャンルを超えたコラボレーション[5][6][10]。
  • Ry Cooderのギター・ワーク:伝統と革新を融合させた、唯一無二のプレイスタイル[6][8]。

まとめ

『Bop Till You Drop』は、ライ・クーダーの音楽的探究心と技術革新への挑戦が結実したアルバムです。アメリカ音楽のルーツを現代的な感覚で再解釈し、デジタル録音という新時代の幕開けを告げた本作は、今なお色褪せない魅力を放ち続けています。多彩なミュージシャンとの共演、選曲の妙、そしてクーダーならではのギター・サウンドは、音楽ファンなら一度は体験すべき傑作です[1][2][3][5][6]。

Citations:

  1. https://wasser-prawda.de/ry-cooder-bop-till-you-drop/
  2. https://en.wikipedia.org/wiki/Bop_Till_You_Drop
  3. https://americana-uk.com/classic-americana-albums-ry-cooder-bop-till-you-drop-warners-1979
  4. https://www.uncut.co.uk/reviews/ry-cooder-1970-1987-1067/
  5. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9
  6. https://funkyduckvinyl.com/buy-records/second-hand-vinyl/rock/ry-cooder-bop-till-you-drop-lp-exc-vg/
  7. https://www.vivascene.com/ry-cooder-pull-up-some-dust-and-sit-down-music-review/
  8. https://www.guitarplayer.com/players/five-reasons-why-ry-cooder-is-a-guitar-legend
  9. https://vinylmusicmadness.co.uk/product/ry-cooder-bop-till-you-drop-lp-nr-mint/
  10. https://www.guitarrecords.jp/product/20224
  11. http://blog.livedoor.jp/gentle_soul/archives/51740836.html
  12. https://ameblo.jp/sfmp/entry-11523207564.html
  13. https://www.discogs.com/release/5391648-Ry-Cooder-Bop-Till-You-Drop
  14. https://forum.audiogon.com/discussions/old-vs-new-3?sort_order=asc
  15. https://www.discogs.com/release/7219483-Ry-Cooder-Bop-Till-You-Drop
  16. https://music.apple.com/jp/album/bop-till-you-drop/336767770?l=en-US
  17. https://narurukato.exblog.jp/30664389/
  18. https://elusivedisc.com/ry-cooder-bop-till-you-drop-180g-lp/
  19. https://www.youtube.com/watch?v=Uh9c4UQxVX8
  20. https://forums.stevehoffman.tv/threads/ry-cooders-bop-till-you-drop-borderline-on-rhino-vinyl.317719/
  21. https://am-records.com/2020/11/23/cooders-story-part-3/
  22. https://www.youtube.com/watch?v=NE4y-D0_ymc
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