ディープ・パープル『イン・コンサート』

『Deep Purple in Concert』(イン・コンサート)は、ディープ・パープルの第二期、いわゆる“Mk II”がBBCのために収録した1970年と1972年のライヴを組み合わせた作品です。
1980年に2枚組LPとして発表され、スタジオ作では捉え切れない、バンドが即興演奏で楽曲を拡張していく現場を記録した貴重なドキュメントになっています。
二つの時代を収めた作品
本作の面白さは、一つのコンサートを収録したライヴ盤ではなく、性格の異なる二つのBBCセッションを並べている点にあります。
1枚目のレコードは1970年2月19日、ロンドンのBBCスタジオで収録されたものです。
これは出演予定だったジョー・コッカーがキャンセルしたため、ディープ・パープルが急きょ代役を務めたセッションでした。
司会と曲紹介を担ったのはジョン・ピール(John Peel)で、当時のBBCラジオらしい近接感のある空気まで伝わってきます。
2枚目のレコードは1972年3月9日、ロンドンのパリス・シアターで収録されたBBCの「Sounds of the Seventies」用音源です。
こちらは『Machine Head』発売の直前、バンドが世界的な頂点へ駆け上がるまさに途中の姿をとらえています。
1970年の演奏が『Deep Purple in Rock』期の荒々しい実験性を示すのに対し、1972年の演奏には、巨大なライヴ・バンドとして完成へ向かう確信と余裕があります。
コンセプトは「完成前の爆発力」
『In Concert』に明確な物語的コンセプトがあるわけではありません。
しかし実質的には、「録音されたばかり、あるいはまだ正式発売前の曲を、観客と放送の前でどう生き物に変えるか」というバンドの姿勢が刻まれたアルバムです。
特に1972年のセットは、『Machine Head』収録曲を大きく中心に据えています。
『Machine Head』が3月下旬に発売される前の録音であり、「Highway Star」「Maybe I’m a Leo」「Never Before」「Lazy」「Space Truckin’」などは、まだ聴き手にも演奏者にも“これから定番になる曲”でした。
そのため、後年の定型化された名演とは少し異なる、曲の輪郭を探りながらも一気に押し出す緊張感があります。
「Smoke on the Water」は、この放送で初めてライヴ演奏されたとされます。
しかし、オリジナルのLPに収録されることはありませんでした。
あまりに有名になったリフが、まだ“歴史的名曲”として扱われていない瞬間を本レコードで聴けないのは残念ですが、後年、発売されたCDには収録されました。

音楽性とサウンド
1970年盤面の核は「Speed King」「Child in Time」、そして長大な「Wring That Neck」「Mandrake Root」です。
ここでのディープ・パープルは、ハード・ロックの重量感を持ちながら、ブルース、ジャズ、クラシック的な構築性、サイケデリックな自由さを混ぜ込んでいます。
曲は単なる再現ではなく、各人が主導権を取り合う即興演奏の場です。
リッチー・ブラックモアのギターは、鋭利なリフとブルージーなフレーズの間を往復し、時に不穏な緊張を作ります。
ジョン・ロードのハモンド・オルガンは、伴奏にとどまらず、歪ませた音色でギターと真正面から競り合います。
ロジャー・グローヴァーとイアン・ペイスは、単にビートを支えるのではなく、テンポや強弱を流動させ、演奏を前へ押し出します。
そしてイアン・ギランは、絶叫、高音、スキャット、語りかけるような節回しを自在に使い、5人目のリズム楽器のようにバンドへ食い込みます。
1972年になると、楽曲はより簡潔でリフ中心のハード・ロックへ整理されます。
しかし演奏時間はむしろ伸び、「Strange Kind of Woman」ではブラックモアのギターとギランの声が“掛け合い”を展開し、「Space Truckin’」は22分に及ぶ巨大な即興曲へ成長します。
終盤のリトル・リチャードの曲「Lucille」も含め、バンドの根にあるロックンロールの熱量がむき出しになります。
制作とリリースの事情
1972年のBBC収録は8トラックで記録されました。
当時のラジオ用セッションとしては充実した録音条件であり、後年のリミックスや再発を可能にした重要な要素です。
もっとも、最初の1980年版は完全版ではありませんでした。
「Maybe I’m a Leo」と「Smoke on the Water」はオリジナルLPから外され、「Smoke on the Water」はシングルとして別に発表されました。
2001年の2CD版では曲が追加され、1972年の演奏がよりまとまった形で聴けるようになります。
さらに2012年には、1972年音源だけを『In Concert ’72』としてリミックスし、本来の曲順を復元した版が登場しました。
この版では「Maybe I’m a Leo」のサウンドチェックも収録され、放送用の整ったパフォーマンスだけではない、演奏を組み立てる過程にも触れられます。
参加メンバーと反響
参加したのは、ディープ・パープルの黄金期Mk IIです。
- リッチー・ブラックモア(Ritchie Blackmore):ギター
- イアン・ギラン(Ian Gillan):ヴォーカル
- ロジャー・グローヴァー(Roger Glover):ベース
- ジョン・ロード(Jon Lord):ハモンド・オルガン、キーボード
- イアン・ペイス(Ian Paice):ドラムス
本作は1980年の全英アルバム・チャートで30位、日本のオリコン・アルバム・チャートで36位を記録しました。
大ヒット新作というより、すでに『Made in Japan』で伝説化していたディープ・パープルのライヴ像を、別の角度から補強するアーカイヴ作品として受け止められたアルバムです。

トラック・リスト
Side 1
- スピード・キング(Speed King) - 6:21
- リング・ザット・ネック(Wring That Neck) - 18:37
Side 2
- チャイルド・イン・タイム(Child in Time) - 10:23
- マンドレイク・ルート(Mandrake Root) - 17:30
Side 3
- ハイウェイ・スター(Highway Star) - 6:40
- ストレンジ・ウーマン(Strange Kind of Woman) - 8:35
- レイジー(Lazy) - 8:51
- ネヴァー・ビフォア(Never Before) - 3:48
Side 4
- スペース・トラッキン(Space Truckin') - 21:05
- ルシール(Lucille) - 7:06
特筆すべき聴きどころ
『Made in Japan』が、観客の熱狂とバンドの圧倒的な完成度が一体になった“決定版ライヴ”だとすれば、『In Concert』はその少し前の、曲が変化し、定着し、巨大化していく過程を映した作品です。
とりわけ1972年録音には、後に定番となる「Smoke on the Water」の初ライヴ、「Maybe I’m a Leo」の希少なMk IIライヴ版、そして「Never Before」の唯一知られるMk IIライヴ録音が含まれます。
したがって本作は、入門者が最初に選ぶ一枚というより、『Machine Head』や『Made in Japan』を聴いたあとで接すると格別に面白い作品です。完成品としての名曲を知っているからこそ、その名曲がまだ揺れ、試され、5人の演奏によって形を獲得していく瞬間の価値が分かります。
『In Concert』は、ディープ・パープルが単に名曲を持つバンドではなく、舞台上で名曲を毎晩作り替えていたバンドだったことを証明する記録なのです。




Citations:
https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_Purple_in_Concert
https://getreadytorock.me.uk/blog/2014/06/album-review-deep-purple-in-concert-72-2012-mix/
https://www.loudersound.com/reviews/deep-purple-in-concert-72


