ラッシュ『パーマネント・ウェイヴス』

『Permanent Waves』(パーマネント・ウェイヴス)は、カナダのロックバンドRush(ラッシュ)による7作目のスタジオ・アルバムで、1980年1月14日にリリースされました。
Rush『Permanent Waves』の概要とコンセプト
前作『Hemispheres』(1978年)までの長大でコンセプチュアルなプログレッシブ・ロック路線から、よりコンパクトでラジオ向きの楽曲構成へと大きく舵を切った作品です[1][5][6]。この変化は、1970年代末から1980年代初頭の音楽シーンの変化――パンクやニューウェーブの台頭、より短く直接的な楽曲が求められる時代背景――を反映しています[3][5]。
歌詞のテーマも、これまでのファンタジーやSF的な長編物語から、より現実的で多様なトピックへと広がりました。アルバム全体のコンセプトは「嵐の雲を突き抜ける太陽の光」というシンプルなビジョンに基づいており、人生や自由意志、現代社会への洞察などが盛り込まれています[1][5]。
音楽性・サウンドの特徴
『パーマネント・ウェイヴス』は、Rushの音楽的転換点とされています。以下のような特徴が挙げられます。
- 楽曲構成の変化
それまでの10分超の大作や組曲形式から、5分前後のシングル向き楽曲が中心になりました。「The Spirit of Radio」や「Freewill」はその代表例です[1][2][5][6]。 - ジャンルの融合
プログレッシブ・ロックとハードロックを基盤としつつ、ポップ、ニューウェーブ、レゲエなどの要素も取り入れています。特に「The Spirit of Radio」ではレゲエのリズムがアウトロに登場し、バンドの遊び心が垣間見えます[2][4][6]。 - 演奏面の進化
Geddy Lee(ベース/ボーカル)は、より抑制されたボーカルスタイルを採用しつつ、ベースラインはよりメロディアスかつ前面に出ています。Alex Lifeson(ギター)は、リフとソロのバランス、アコースティックとエレクトリックの使い分けが巧みです。Neil Peart(ドラム/作詞)は、変拍子や複雑なパターンを維持しつつも、より楽曲に溶け込むドラミングを展開しています[4][5]。 - サウンドの温かみと一体感
バンド3人のアンサンブルが非常に高いレベルで融合しており、温かみと生命力を感じさせるサウンドが特徴です[4]。
制作時のエピソード
- レコーディング環境
本作はカナダ・ケベック州のLe Studioで録音されました。バンドはそれまでのイギリス・ウェールズでの録音をやめ、よりリラックスできる田舎のスタジオを選択。家族が頻繁に訪れるなど「第二の我が家」のような環境で制作されました[1][3]。 - 楽曲制作の流れ
LeeとLifesonが楽器のジャムを重ね、Peartが歌詞を執筆するという分業体制。最初は14世紀の叙事詩『サー・ガウェインと緑の騎士』を題材にした長編曲を構想したものの、他の曲との整合性が取れず断念。その一部アイデアは「Natural Science」に流用されました[1][5]。 - 録音技術とサウンド作り
楽器やマイクのセッティングを細かく調整し、複数テイクからベストを選ぶ手法を採用。自然の湖でオールを使って水音を録音し、「Natural Science」の冒頭に使用するなど、実験的なアプローチも見られます[1]。 - 制作の雰囲気
録音後は深夜にバレーボールを楽しむなど、和やかで創造的な雰囲気が制作の質を高めました[3]。
参加ミュージシャン
- Geddy Lee(ゲディ・リー):ベース、ボーカル、シンセサイザー
- Alex Lifeson(アレックス・ライフソン):ギター
- Neil Peart(ニール・パート):ドラム、パーカッション、作詞
- Hugh Syme(ヒュー・サイム):カバーアートおよび「Different Strings」でピアノ参加[1][6]
発表時の反響
- 商業的成功
発売直後からカナダ、イギリスで3位、アメリカで4位を記録し、Rush史上最も成功したアルバムとなりました。アメリカではリリースから2か月でプラチナディスク(100万枚超)を達成[1][5]。 - 批評家の評価
『Permanent Waves』は、従来のプログレファンから新たなリスナー層まで幅広く支持され、批評家からも高評価を得ました。特に「The Spirit of Radio」「Freewill」「Jacob’s Ladder」などが名曲として挙げられています[2][5]。 - ツアーとライブ
発売後は大規模なツアーが行われ、25人のクルーと60トンの機材を動員した大掛かりなステージ演出も話題となりました[1]。
特筆すべきこと
- アートワーク
ジャケット写真は1961年のハリケーン・カーラ時のテキサス州ガルベストンの海岸が背景。前景の女性モデルはカナダ人のポーラ・タンブル(Paula Turnbull)で、背景で手を振る男性はデザイナーのヒュー・サイムです。スカートが風でなびく様子は、実際にファンを使って撮影されました[1][6]。 - 音楽的転換点
『パーマネント・ウェイヴス』はRushの「第三期」の幕開けとされ、続く『Moving Pictures』(1981年)でそのスタイルがさらに洗練されます。バンド自身も「長大な組曲形式がマンネリ化していた」と認識し、意識的に変化を求めた結果が本作に結実しています[7]。 - 現代的意義
本作は、プログレッシブ・ロックとポップ/ロックの融合、ジャンル横断的なサウンド、そしてバンドの柔軟な進化の象徴として、今日でも高く評価されています[3][5]。

まとめ
『パーマネント・ウェイヴス』は、Rushが時代の変化に柔軟に対応し、独自の音楽性を進化させた歴史的なアルバムです。プログレッシブ・ロックの複雑さとポップ/ロックの親しみやすさを両立させ、バンドの黄金期を切り開いた本作は、今なお多くのリスナーやミュージシャンに影響を与え続けています。
Citations:
- https://en.wikipedia.org/wiki/Permanent_Waves
- https://pienemmatpurot.com/2023/07/21/review-rush-permanent-waves-1980/
- https://rushbrasil.com/en/permanent-waves-and-a-golden-age/
- https://www.metal-archives.com/reviews/Rush/Permanent_Waves/3579/
- https://ultimateclassicrock.com/rush-permanent-waves-album/
- https://www.rush.com/albums/permanent-waves/
- http://2112.net/powerwindows/transcripts/202020500classicrock.htm
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%B9
- https://riffology.co/2025/01/14/the-making-of-permanent-waves-by-rush/
- https://www2.uis.edu.co/rush-permanent-waves-rare-1980-mercury-records-original-ray-s-cut-vinyl-lp-Rk5BChdDXUscUlxM