ジャクソン・ブラウン『レイト・フォー・ザ・スカイ』

ジャクソン・ブラウン『レイト・フォー・ザ・スカイ』
ジャクソン・ブラウン(Jackson Browne)『レイト・フォー・ザ・スカイ』( Late For The Sky)

Jackson Browne(ジャクソン・ブラウン)の1974年リリースアルバム『Late for the Sky』(レイト・フォー・ザ・スカイ)は、シンガーソングライターの傑作として高く評価されています。

『Late for the Sky』のコンセプト

『レイト・フォー・ザ・スカイ』は、ジャクソン・ブラウンのキャリアの中でも最も高く評価されるアルバムであり、愛、喪失、人生の意味、そして人間の成長や喪失感といった普遍的なテーマを深く掘り下げた作品です。アルバム全体を通じて、「イノセンスと経験」「幻想と幻滅」「誕生と死」「創造と崩壊」といった人間のサイクルを描写し、個人的な体験だけでなく、当時の世代全体の心情や時代のムードをも映し出しています[1][7]。

タイトル曲「Late for the Sky」は、恋愛関係が崩壊しつつある瞬間を静かに、しかし痛烈に描写し、幻想が剥がれ落ちた後に残る孤独と現実を見つめる内容です。この曲に象徴されるように、アルバム全体が「意味を見出し、やがてその意味が消えていく」人生の過程を問いかけています[1][2]。

音楽性・サウンドの特徴

音楽的には、ピアノを基調としたバラードと、カリフォルニアらしいフォーク・ロックサウンドが融合しています。全体的に静謐で内省的なトーンが支配的ですが、「The Road and the Sky」や「Walking Slow」など、テンポの速い曲もアクセントとして配置されています[3][6]。

バンドのアンサンブルは極めて緻密で、デヴィッド・リンドレーの繊細なギターやフィドル、ジャイ・ウィンディングのピアノとオルガン、ダグ・ヘイウッドのベース、ラリー・ザックのドラムが、必要最小限の装飾で楽曲の情感を引き立てています[3][4][10]。また、ダン・フォーゲルバーグ、ドン・ヘンリー、J.D.サウザーらによるハーモニー・ボーカルが、楽曲に温かみと奥行きを加えています[2][4][10]。

プロダクションは極めてシンプルかつ硬質で、感情の起伏や歌詞の重みを強調するために、過度な装飾やエフェクトを避けています。ブラウン自身も「バンドとしての一体感」を重視し、事前に自宅でバンドとリハーサルを重ねてからレコーディングに臨みました[13]。

制作時のエピソード

前作『For Everyman』の制作費が高騰したことから、レコード会社(アサイラム・レコード)のデヴィッド・ゲフィンは、今作の予算と制作期間を厳しく制限しました。そのため、ブラウンはツアーバンド(リンドレー、ヘイウッド、ウィンディング、ザック)をそのまま起用し、事前に1ヶ月間自宅でリハーサルを行い、6週間で録音を完了させました。費用も前作の半分(約5万ドル)に抑えられています[4][5][13]。

レコーディングは主にロサンゼルスのエレクトラ・サウンド・レコーダーズで行われ、エンジニアのアル・シュミットが共同プロデューサーを務めました。ブラウンは「ほとんどの曲をバンドと一緒にライブ録音した」と語っており、アルバム全体にライブ感と一体感が漂っています[13]。

参加ミュージシャン

  • ジャクソン・ブラウン(Jackson Browne):ボーカル、アコースティックギター、ピアノ、スライドギター
  • デヴィッド・リンドレー(David Lindley):エレクトリックギター、ラップスティールギター、フィドル、ハーモニーボーカル
  • ジャイ・ウィンディング(Jai Winding):ピアノ、ハモンドオルガン
  • ダグ・ヘイウッド(Doug Haywood):ベース、ハーモニーボーカル
  • ラリー・ザック(Larry Zack):ドラム、パーカッション
  • ダン・フォーゲルバーグ(Dan Fogelberg)、ドン・ヘンリー(Don Henley)、J.D.サウザー(J.D. Souther)、テリー・リード他:ハーモニーボーカル
  • デヴィッド・キャンベル:ストリングスアレンジ(「The Late Show」)[4][10][13]

トラックリスト

Side1

  1. レイト・フォー・ザ・スカイ(Late for the Sky) - 5:36
  2. 悲しみの泉(Fountain of Sorrow) - 6:42
  3. もっと先に(Farther On) - 5:17
  4. ザ・レイト・ショー(The Late Show) - 5:09

Side2

  1. 道と空(The Road and the Sky) - 3:04
  2. ダンサーに(For a Dancer) - 4:42
  3. ウォーキング・スロウ(Walking Slow) - 3:50
  4. ビフォー・ザ・デリュージ(Before the Deluge) - 6:18

発表時の反響

リリース当時、『レイト・フォー・ザ・スカイ』は批評家から絶賛されました。ローリング・ストーン誌は「ジャクソン・ブラウンの最高傑作であり、最も成熟し、コンセプト的に統一された作品」と評し、5点満点を付けています[6][7]。ビルボードも「質の高い楽曲と繊細な演奏」と評価しました[7]。

商業的には全米ビルボード200で14位を記録し、シングルカットされた「Walking Slow」と「Fountain of Sorrow」はチャート入りしなかったものの、アルバムとしての完成度と芸術性が高く評価されました[4][11]。1974年にゴールド、1989年にプラチナディスクを獲得し、2003年にはローリング・ストーン誌の「史上最高のアルバム500」にも選出されています[4][7]。

特筆すべきこと・影響

  • タイトル曲「Late for the Sky」は1976年のマーティン・スコセッシ監督映画『タクシードライバー』で印象的に使用され、ブラウンの音楽をより広い層に知らしめました[4][7][11]。
  • 「Fountain of Sorrow」や「Before the Deluge」はジョーン・バエズなど多くのアーティストにカバーされ、楽曲の普遍性と影響力を証明しています[4]。
  • 本作は1970年代のアメリカの時代精神―60年代の楽観主義から70年代の内省と幻滅への移行―を象徴する作品として、ブルース・スプリングスティーンやカウンティング・クロウズなど後進のアーティストにも多大な影響を与えました[7][11]。
  • 2020年にはアメリカ議会図書館の「全米録音登録簿」に選定され、文化的・歴史的・芸術的に重要な作品と認定されています[8]。

まとめ

『レイト・フォー・ザ・スカイ』は、個人の感情と時代の空気を見事に融合させたアルバムであり、ジャクソン・ブラウンの作家性と音楽的成熟を象徴する作品です。シンプルかつ深いサウンド、詩的で誠実な歌詞、バンドの一体感、そして時代を超えて響く普遍的なテーマが、多くのリスナーやアーティストに影響を与え続けています。50年近く経った今もなお、「人間とは何か」「愛や喪失の意味とは何か」を問いかけるそのメッセージは色褪せていません[7][12]。

  1. https://www.reasontorock.com/tracks/late_for_the_sky.html
  2. https://en.wikipedia.org/wiki/Late_for_the_Sky_(song)
  3. https://glidemagazine.com/304862/50-years-later-jackson-browne-melts-themes-of-love-loss-into-harmonious-rock-jewel-with-late-for-the-sky/
  4. https://en.wikipedia.org/wiki/Late_for_the_Sky
  5. https://americansongwriter.com/behind-the-album-jackson-browne-delivers-the-singer-songwriter-masterpiece-late-for-the-sky/
  6. https://ontherecord.co/2022/07/18/browne-jackson-late-for-the-sky/
  7. https://substack.com/home/post/p-160578943
  8. https://www.youtube.com/watch?v=2-m7WDy-6XQ
  9. https://www.superseventies.com/brownejackson1.html
  10. https://www.sessiondays.com/2020/07/1974-jackson-browne-late-for-the-sky/
  11. https://ultimateclassicrock.com/jackson-browne-late-for-the-sky/
  12. https://altrockchick.com/2020/03/21/jackson-browne-late-for-the-sky-classic-music-review/
  13. https://www.mixonline.com/recording/classic-tracks-jackson-brownes-late-for-the-sky
  14. https://note.com/lext4/n/n80efaf0f72fc
  15. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%82%A4
  16. https://www.discogs.com/ja/master/22491-Jackson-Browne-Late-For-The-Sky
  17. https://americana-uk.com/classic-americana-albums-jackson-browne-late-for-the-sky
  18. https://www.discogs.com/master/22491-Jackson-Browne-Late-For-The-Sky
  19. https://wmg.jp/jackson-browne/discography/18296/
  20. https://www.discogs.com/release/3606780-Jackson-Browne-Late-For-The-Sky
  21. https://music.apple.com/jp/album/late-for-the-sky/875641469
  22. https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/Late-for-the-Sky.pdf

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