スティーヴィー・ワンダー『キー・オブ・ライフ』

スティーヴィー・ワンダー『キー・オブ・ライフ』
スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)『キー・オブ・ライフ』(Songs in the Key of Life)

『Songs in the Key of Life』(キー・オブ・ライフ)は、Stevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)のキャリアの集大成とも言える18作目のスタジオ・アルバムであり、1976年9月28日にTamla(モータウン傘下)からリリースされました。

『Songs in the Key of Life』のコンセプト

アルバムのコンセプトは「人生のあらゆる側面を音楽で描く」ことにあり、喜び、愛、苦悩、社会問題、日常の小さな幸福まで、幅広いテーマを包括しています。ワンダーはこの作品で、単なるエンターテイナーから社会的メッセージを発信するアーティストとしての立場を明確にし、特に「Village Ghetto Land」や「Pastime Paradise」などで貧困や人種問題といった社会的課題に真正面から取り組みました[1][3][5]。

音楽性とサウンドの特徴

本作の最大の特徴は、ジャンルの壁を越えた多彩なサウンド・パレットです。ソウル、ファンク、ジャズ、ゴスペル、ラテン、ポップ、ロック、クラシックなど、様々な音楽要素が巧みに融合されています。例えば、「Another Star」ではサルサとファンクが、「Easy Goin’ Evening」ではソウルとブルースが交錯します[1]。

また、当時最新鋭だったヤマハ GX-1などのシンセサイザーやMoogベースを駆使した斬新なサウンド・プロダクションも大きな特徴です。「Village Ghetto Land」や「Pastime Paradise」では、シンセストリングスをオーケストラのように用い、従来のR&Bやソウルとは一線を画す音響空間を生み出しています。さらに、「Contusion」ではジャズ・フュージョン的なバンド・アンサンブルとギターソロが、楽曲に緊張感とグルーヴを与えています[2]。

制作時のエピソード

制作は1974年から1976年にかけて、ロサンゼルスのCrystal Sound、ハリウッドやサウサリートのRecord Plant、ニューヨークのHit Factoryなど複数のスタジオで行われました。ワンダーは完璧主義で知られ、1曲ごとに膨大な時間をかけて細部までこだわり抜きました。時には食事も睡眠も取らず、周囲のスタッフやミュージシャンが彼の「ワンダータイム」に振り回されることも少なくありませんでした[2][3][7]。

制作には延べ130人以上が関わりましたが、ワンダー自身がほとんどの楽器を演奏し、プロデュースやアレンジも主導しました。ベーシストのネイサン・ワッツは、深夜3時に帰宅した直後にワンダーから呼び戻されるなど、彼の創作エネルギーに圧倒されたと語っています[3]。

主な参加ミュージシャン

本作には、当時のR&B、ソウル、ジャズ界の名手が多数参加しています。

  • ハービー・ハンコック(「As」でフェンダー・ローズ)
  • ジョージ・ベンソン(「Another Star」でギター)
  • ミニー・リパートン、デニース・ウィリアムズ(「Ordinary Pain」などでバックボーカル)
  • マイケル・センベロ(ギター、作曲協力「Saturn」など)
  • グレッグ・フィリンゲインズ(キーボード、ワンダーが発掘した逸材)
  • シャーリー・ブリュワー、シリータ・ライト(バックボーカル)
  • ネイサン・ワッツ(ベース、ワンダーラブの中心メンバー)[3][4][6]

このほかにも、ワンダーのバンド「ワンダーラブ」の新旧メンバーや、当時のトップセッション・プレイヤーが多数参加しています。

トラックリスト

Side A

  1. ある愛の伝説 - Love's in Need of Love Today (7:04)
  2. 神とお話し - Have a Talk with God (2:40)
  3. ビレッジ・ゲットー・ランド - Village Ghetto Land (3:23)
  4. 負傷 - Contusion (3:44)
  5. 愛するデューク - Sir Duke (3:52)

Side B

  1. 回想 - I Wish (4:11)
  2. 孤独という名の恋人 - Knocks Me Off My Feet (3:34)
  3. 楽園の彼方へ - Pastime Paradise (3:26)
  4. 今はひとりぼっち - Summer Soft (4:12)
  5. 出逢いと別れの間に - Ordinary Pain (6:23)

Side C

  1. 可愛いアイシャ - Isn't She Lovely (6:32)
  2. 涙のかたすみで - Joy Inside My Tears (6:28)
  3. ブラック・マン - Black Man (8:27)

Side D

  1. 歌を唄えば - Ngiculela - Es Una Historia - I Am Singing (3:47)
  2. イフ・イッツ・マジック - If It's Magic (3:10)
  3. 永遠の誓い - As (7:06)
  4. アナザー・スター - Another Star (8:26)

A Something's Extra

  1. 土星 - Saturn (4:52)
  2. エボニー・アイズ - Ebony Eyes (4:07)
  3. 嘘と偽りの日々 - All Day Sucker (5:04)
  4. イージー・ゴーイン・イヴニング - Easy Goin' Evening (3:57)

発表時の反響

『Songs in the Key of Life』は、リリース直後から全米チャート1位を獲得し、グラミー賞も複数受賞するなど、商業的・批評的に大成功を収めました[4][5]。ただし、当初は『Innervisions』や『Talking Book』ほどの絶賛ではなく、「長すぎる」「自己陶酔的」といった批判も一部で見られました。しかし、時を経てその評価は高まり、現在では「1970年代を代表する傑作」「ブラック・ミュージック史上屈指の名盤」として位置づけられています[5]。

また、収録曲「Sir Duke」「I Wish」「Isn’t She Lovely」「As」「Another Star」などはシングルとしても大ヒットし、現在も多くのアーティストにカバーやサンプリングされています。特に「Pastime Paradise」はCoolioの「Gangsta’s Paradise」でのサンプリングを通じて新たな世代にも影響を与えました[1]。

特筆すべきこと

  • ジャンル横断的な音楽性:ブラック・ミュージックの伝統を踏まえつつ、ラテンやクラシック、ロックなど多様な要素を大胆に取り入れ、ポップ・ミュージックの新たな地平を切り開きました[1][5]。
  • 社会的メッセージ:単なる娯楽作品にとどまらず、貧困、人種差別、社会的分断といったテーマを普遍的なメッセージとして昇華。聴き手に内省と共感を促す構成になっています[1][5]。
  • 革新的なサウンド・プロダクション:Yamaha GX-1やMoogなどのシンセサイザーの多用、エフェクトや多重録音技術の駆使により、当時としては画期的な音響世界を実現しました[2]。
  • 制作期間と規模:2年以上、130人以上が関わる大規模プロジェクトで、ワンダーの創造力とリーダーシップがいかんなく発揮されました[3][7]。
  • 文化的・歴史的意義:アフリカ系アメリカ人の誇りや連帯、普遍的な愛と希望を高らかに歌い上げ、ブラック・ミュージックの新たな指標となりました[5]。
  • オリジナル盤は、LPレコード2枚と「A Something's Extra」と題された4曲入りEPの組み合わせで発表。

まとめ

『キー・オブ・ライフ』は、スティーヴィー・ワンダーの音楽的・社会的成熟の頂点を示す作品であり、ジャンルを超えたサウンド、深いメッセージ性、革新的な制作手法によって、今なお世界中の音楽ファンやアーティストに多大な影響を与え続けています[1][3][5]。

  1. https://theclassicjournal.uga.edu/index.php/2023/04/26/a-modulation-of-a-different-kind-how-songs-in-the-key-of-life-redefined-the-canon/
  2. https://www.musicradar.com/news/stevie-wonder-songs-in-the-key-of-life
  3. https://en.wikipedia.org/wiki/Songs_in_the_Key_of_Life
  4. https://www.loc.gov/static/programs/national-recording-preservation-board/documents/Songs-in-the-Key-of-Life.pdf
  5. https://www.popmatters.com/stevie-wonder-songs-key-life-atr45
  6. https://www.okayplayer.com/originals/stevie-wonder-songs-in-the-key-of-life-making.html
  7. https://www.youtube.com/watch?v=CClqS7EJogQ
  8. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%95
  9. https://oresuki.dreamlog.jp/archives/74809103.html
  10. https://note.com/dl2wb/n/ndc21d45fb06d
  11. http://eyk.blog107.fc2.com/blog-entry-475.html?sp
  12. https://www.rollingstone.com/music/music-features/inside-stevie-wonders-epic-magnum-opus-songs-in-the-key-of-life-124478/
  13. https://www.houstonchronicle.com/entertainment/music/article/Texas-musicians-played-key-roles-on-Songs-in-the-6142281.php
  14. https://open.spotify.com/album/6YUCc2RiXcEKS9ibuZxjt0
  15. https://100best.music.apple.com/jp/album/6
  16. https://www.udiscovermusic.jp/stories/songs-in-the-key-of-life
  17. https://www.thatericalper.com/2024/10/06/5-fun-facts-about-stevie-wonders-songs-in-the-key-of-life/
  18. https://www.youtube.com/watch?v=OHjl7SdzRbg
  19. https://www.popmatters.com/stevie-wonder-songs-key-life-atr45/2
  20. https://classicalbumsundays.com/album-of-the-month-stevie-wonder-songs-in-the-key-life/
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