ホイットニー・ヒューストン『そよ風の贈りもの』

ホイットニー・ヒューストン『そよ風の贈りもの』
ホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)『そよ風の贈りもの』(Whitney Houston)

『Whitney Houston』(邦題:そよ風の贈りもの)は1985年2月14日にリリースされたWhitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)のデビュー・アルバムであり、彼女のキャリアと80年代ポップ/R&Bシーンに大きな衝撃を与えた作品です。リリース当時、既存のジャンルや人種の壁を打ち破り、ブラック・アーティストや女性シンガーの新たな道を切り拓いた歴史的アルバムとして高く評価されています[3]。

『そよ風の贈りもの(Whitney Houston)』のコンセプトと制作背景

アルバムのコンセプトは、「ジャンルを超えたスターの誕生」とも言えるものでした。アリスタ・レコードの社長のクライヴ・デイヴィス(Clive Davis)は、R&Bとポップの両方のマーケットに訴求できるクロスオーバー・ヒットを狙い、約18ヶ月をかけてホイットニーに最適な楽曲を厳選しました[3][1]。当時まだ無名だったホイットニーが既存の枠に収まらず、独自のスタイルを確立するための試行錯誤が続けられました。

音楽性・サウンドの特徴

『そよ風の贈りもの』のサウンドは、アダルト・コンテンポラリー、R&B、ポップ、そしてゴスペルの要素が融合したものです。アルバム全体を通じて、ホイットニーの圧倒的な歌唱力とメロディアスな楽曲が際立ちます。特にメリスマ(1音節で複数の音を歌うゴスペル由来の歌唱技法)は、彼女の代名詞となり、後のマライア・キャリーやセリーヌ・ディオンなど多くのシンガーに影響を与えました[2]。

サウンド面では、80年代らしい煌びやかなシンセサイザーやリズムマシン、洗練されたアレンジが特徴です。各曲は異なるプロデューサーが手掛けており、楽曲ごとに異なる質感を持ちながらも、ホイットニーのボーカルによって統一感が生まれています[3][8]。

代表曲と制作エピソード

  • 「How Will I Know」
    元々ジャネット・ジャクソンのために書かれた楽曲でしたが、彼女のマネジメントが断ったことでホイットニーに提供されました。プロデューサーのナラダ・マイケル・ウォルデンは最初この曲に乗り気ではなかったものの、最終的にアレンジを加えて録音。ホイットニーは高音域を難なく歌いこなし、母親のシシー・ヒューストンらがバックコーラスを担当しました[1][5]。
  • 「Greatest Love of All」
    クライヴ・デイヴィスは当初この曲の収録に消極的でしたが、ホイットニーと作曲者マイケル・マッサーの強い希望で録音が実現。結果的にアルバムの最後に追加され、後に大ヒットとなりました[1]。
  • 「You Give Good Love」
    アルバムのオープニングを飾るこの曲は、ホイットニーの声の魅力を世界に知らしめた最初のヒットシングルです[8]。
  • 「Hold Me」
    テディ・ペンダーグラスとのデュエットで、アルバムのラストを飾ります。実はアルバム発売前に先行してR&Bチャートでヒットしていました[8]。

制作はニュージャージーのデジタル・バイ・ディッカーソンやコネチカットの自宅スタジオなど、当時最先端のデジタル録音環境も活用されました。ホイットニーは午後型で、長時間にわたるセッションの合間には食事や雑談も多かったというエピソードも残っています[5]。

トラック・リスト

Side 1

  1. 恋は手さぐり(How Will I Know) – 4:37
  2. オール・アット・ワンス(All at Once)Jeffrey Osborne, M. Masser) – 4:29
  3. やさしくマイ・ハート(Take Good Care of My Heart) – 4:21
  4. グレイテスト・ラヴ・オブ・オール(Greatest Love of All) – 4:55
  5. ホールド・ミー(Hold Me) – 6:05

Side 2

  1. そよ風の贈りもの(You Give Good Love) – 4:36
  2. シンキング・アバウト・ユー(Thinking About You) – 5:28
  3. サムワン・フォー・ミー(Someone for Me) – 5:01
  4. すべてをあなたに(Saving All My Love for You) – 4:01
  5. 夢の中のふたり(Nobody Loves Me Like You Do) – 3:46

参加ミュージシャン・プロデューサー

アルバムには当時の一流ミュージシャンとプロデューサーが多数参加しています。

  • エグゼクティブ・プロデューサー:クライヴ・デイビス(Clive Davis)
  • プロデューサー
    • カシーフ(Kashif):Side 2-1、2-2
    • マイケル・マッサー(Michael Masser):Side 1-2、1-4、1-5、Side 2-4
    • ジャーメイン・ジャクソン(Jermaine Jackson):Side 1-3、Side 2-3、2-5
    • ナラダ・マイケル・ウォルデン(Narada Michael Walden):Side 1-1 [3][4]
  • 主な参加ミュージシャン
    • カシーフ(Kashif):マルチ楽器、バックグラウンド・ボーカル
    • ジャーメイン・ジャクソン(Jermaine Jackson):デュエットボーカル、バックボーカル
    • テディ・ペンダーグラス(Teddy Pendergrass):デュエットボーカル
    • トム・スコット(Tom Scott):サックス
    • ランディ・カーバー(Randy Kerber):キーボード
    • リチャード・マークス(Richard Marx ):キーボード、バックボーカル
    • グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes):シンセサイザー
    • ネイサン・イースト(Nathan East):ベース
    • ダン・ハフ(Dann Huff)、ポール・ジャクソンJr.(Paul Jackson, Jr.):ギター
    • エド・グリーン(Ed Greene):ドラム
    • シシー・ヒューストン(Cissy Houston):ホイットニーの母、バックグラウンド・ボーカル
    • その他、多数の著名セッション・ミュージシャン[4]

発表時の反響と影響

アルバムは全米ビルボード200で14週連続1位を獲得し、1986年の年間チャートでも女性アーティストとして初めて1位を記録。全世界で2,500万枚以上を売り上げ、アメリカ国内だけでも1,300万枚以上のセールスを記録しました[6][1]。

この成功により、ホイットニーは「ポップ・ディーヴァ」としての地位を確立し、ブラック・アーティストがポップ・チャートで成功する道を切り拓きました。ローリング・ストーン誌は「史上最高のアルバム500」でも本作を高く評価しています[3]。

特筆すべきこと

  • ジャンルの壁を破壊
    R&Bとポップ、ブラックとホワイトのラジオ局の垣根を取り払い、音楽業界に新風を吹き込みました[3]。
  • 女性シンガーの新時代
    ホイットニーの成功は、後のマライア・キャリー、セリーヌ・ディオンら「ディーヴァ」たちの登場を促しました[2][3]。
  • 制作費とこだわり
    当初20万ドルの予算が最終的に40万ドルまで膨らむなど、徹底したクオリティ追求が行われました[1][3]。

まとめ

『Whitney Houston』は、ホイットニーの卓越した歌唱力とジャンルを超えた音楽性、そして時代を変える革新性によって、80年代ポップ/R&Bシーンに大きな足跡を残しました。制作の舞台裏には、楽曲選びや録音環境へのこだわり、豪華なミュージシャン陣、そしてホイットニー自身の人間味あふれるエピソードが詰まっています。リリースから40年近く経った今なお、その影響力は色褪せていません。

  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Whitney_Houston_(album)
  2. https://www.classicpopmag.com/features/album-by-album-whitney-houston/
  3. https://mofi.com/shop/music/vinyl/whitney-houston-whitney-houston-numbered-180g-supervinyl-lp/
  4. https://whitney.jimdofree.com/songwriters-producers-musicians/
  5. https://daily.redbullmusicacademy.com/2015/03/key-tracks-whitney-houston/
  6. https://www.whitneyhouston.com/biography/
  7. https://pmamagazine.org/whitney-houstons-second-act-the-album-that-changed-everything/
  8. https://albumism.com/features/whitney-houston-eponymous-debut-album-anniversary
  9. https://en.wikipedia.org/wiki/Whitney_(album)
  10. https://www.reddit.com/r/popheads/comments/btrw4f/why_didnt_whitney_have_an_album_like_the_velvet/
  11. https://www.centerforrecordedmusic.org/event-details/listyn-kc-presents-whitney-houston-40th-anniversary
  12. https://chartmasters.org/cspc-whitney-houston-popularity-analysis/
  13. https://en.wikipedia.org/wiki/Whitney_Houston
  14. https://www.hollywoodreporter.com/news/music-news/whitney-houston-death-last-recording-sparkle-291568/
  15. https://www.youtube.com/watch?v=MgPOfk1PlnU
  16. https://whitney-houston.fandom.com/wiki/Whitney_Houston_(Album)
  17. https://www.billboard.com/music/pop/whitney-houston-1985-debut-album-review-6472861/
  18. https://www.youtube.com/watch?v=l4rlCrELddk
  19. https://www.discogs.com/release/12912700-Whitney-Houston-Whitney-Houston
  20. https://houstonsymphony.org/five-fast-facts-about-whitney-houston/
  21. https://albumism.com/features/whitney-houston-i-look-to-you-album-anniversary
  22. https://www.youtube.com/watch?v=mlFWJqOtdb4
  23. https://www.youtube.com/watch?v=uUHKIK4f5AY
  24. https://www.trinitylaban.ac.uk/story/paramdeep-sokhy-on-music-production-collaboration-and-meeting-whitney-houston/

SHARE:
この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
あなたへのおすすめ