トム・ウェイツ『異国の出来事』

『Foreign Affairs』(邦題:異国の出来事)は、トム・ウェイツ(Tom Waits)がそれまで培ってきたジャジーでビート詩人的なスタイルを、フィルム・ノワール風の「モノクロ映画」の世界観としてまとめ上げたアルバムです。
夜の都会、酒場、場末の人間模様といったモチーフを、映画のサウンドトラックのような連続性で聴かせることが大きな特徴です[1]。
『異国の出来事』のコンセプトと世界観
プロデューサーのボーンズ・ハウ()は、デモを聴いた段階で「白黒映画のようだ」と評しており、そこからアルバム全体をフィルム・ノワール的なムードで統一するコンセプトが明確になったとされています。
楽曲はナイトクラブ、酒場、夜の街を舞台にした語り口が多く、まるで一連の短編映画をつなげた「シティ・ノワール組曲」のような構成になっています[5]。
また、オープニングのインスト「Cinny’s Waltz」からタイトル曲「Foreign Affair」まで、シナリオ仕立ての流れを意識した並びになっており、語り物の楽曲とバラードが交互に登場することで、映画のシーン転換のような起伏が生まれています[4]。
音楽性とサウンドの特徴
音楽的には、前作までのジャズ/ピアノ・バラード路線を継承しつつ、より「映画音楽的」「ヨーロッパのキャバレー風」と評されるシネマティックなアレンジが強まっています。
ボブ・アルシバーによるオーケストラとストリングスのアレンジが多用され、リッチだが控えめな管弦の響きが、都会的で仄暗いムードを支えています[2]。
サウンド面では、アサイラム時代特有のジャズ・コンボを基盤に、ウッドベースとブラシ・ドラム、サックスやトランペットのソロが、深夜のクラブのような立体的な空間を作っています。
朗読に近いスピーク・シンギングとハスキーな歌唱を行き来するヴォーカルも、このアルバム期にかなり完成されたと評価されています[6]。
制作エピソード
『異国の出来事』は、長年のコラボレーターであるボーンズ・ハウ(Bones Howe)のプロデュースのもと、基本的に「ライブ録音」に近い形でスタジオで一発録りする方針が取られました。
ウエストコーストのジャズ・ミュージシャンを含む少人数編成がスタジオに入り、同じ部屋で同時に演奏することで、レコードでも生々しい「クラブの空気感」が再現されています[7]。
参加ミュージシャン
主な参加メンバーは、トム・ウェイツ(ヴォーカル、ピアノ)に加え、ジム・ヒューハート(ベース)、シェリー・マン(ドラムス)、ジャック・シェルドン(トランペット)、フランク・ヴィカリ(テナー・サックス)、ジーン・チプリアーノ(クラリネット)などの名うてのジャズメンです。
「I Never Talk to Strangers」ではベット・ミドラーがデュエット相手として参加し、のちにフランシス・フォード・コッポラが映画『One From the Heart』を構想するきっかけになった曲とも言われています[8]。
- トム・ウェイツ(Tom Waits):ボーカル、ピアノ
- ジーン・シプリアーノ(Gene Cipriano):「ポッターズ・フィールド」のクラリネットソロ
- ジム・ヒューハート(Jim Hughart):ベース
- シェリー・マン(Shelly Manne):ドラム
- ベット・ミドラー(Bette Midler):「I Never Talk to Strangers」でデュエット
- ジャック・シェルドン(Jack Sheldon):トランペットソロ
- フランク・ヴィカリ(Frank Vicari):テナー・サックス・ソロ
トラック・リスト
Side 1
- シニーのワルツ(Cinny's Waltz) - 2:17
- ミュリエル(Muriel) - 3:33
- アイ・ネヴァー・トーク・トゥ・ストレンジャーズ(I Never Talk to Strangers) - 3:38
- メドレー: ジャックとニール~カリフォルニアにやって来た(Medley: Jack & Neal / California, Here I Come) - 5:01
- 想い出に乾杯(A Sight for Sore Eyes) - 4:40
Side 2
- ポッターズ・フィールド(Potter's Field) - 8:40
- バーマ・シェイヴ(Burma-Shave) - 6:34
- バーバー・ショップ(Barber Shop) - 3:54
- 異国の出来事(Foreign Affair) - 3:46
発表時の反響と評価
1977年のリリース当時、『異国の出来事』は商業的には大きなヒットではなかったものの、ウェイツの「映画的」志向を決定づけた作品として、後年の評価が高いアルバムです。
ローリング・ストーンなど一部批評ではバラードの「過剰な悲哀」やヴォーカルのクセを指摘する声もあり、同時代の評価は賛否が分かれましたが、作詞・語りの力量を認める評論も少なくありませんでした[9]。
その後の再評価では、「夜の都市のノワール的世界を描いたコンセプト性」「後期の実験的作風への橋渡し」「アサイラム期の到達点のひとつ」として重要視され、40周年の節目にも各種レビューで取り上げられています[5]。
ジャケットデザインと特筆すべき点
ジャケット写真は、ハリウッドの伝説的フォトグラファー、ジョージ・ハレル(George Hurrell)によるもので、ウェイツ自身が「フィルム・ノワールのムードを視覚的に表現してほしい」と依頼したと伝えられています。
モノクロ調のライティングで、パスポートを胸に押し当てる女性の手と共に写るウェイツは、「マチネーの二枚目」と「危険なチンピラ」の中間のようなイメージを狙ったと言われます[3]。

女性モデルはロサンゼルスのクラブ「トルバドール」のボックスオフィスで働いていたネイティブ・アメリカンのマーシェイラ・コクレルで、裏ジャケットや内袋も、酔いどれピアニストとしてのウェイツ像を強く印象づける写真で統一されています。
こうしたビジュアル面も含め、アルバム全体が一つの「白黒の都会映画」として構築されている点が、『異国の出来事』の最も特筆すべき点と言えると思います[13]。

- http://www.sebpalmer.com/blog/?p=2249
- https://en.wikipedia.org/wiki/Foreign_Affairs_(Tom_Waits_album)
- https://www.the-solute.com/the-solute-record-club-tom-waits-foreign-affairs/
- https://tomwaits.bandcamp.com/album/foreign-affairs-remastered
- https://kamertunesblog.wordpress.com/2017/10/13/forty-year-friday-tom-waits-foreign-affairs/
- https://www.reddit.com/r/tomwaits/comments/193ei29/review_5_foreign_affairs_1977/
- https://ontherecord.co/2024/08/27/tom-waits-foreign-affairs/
- https://musicalphabet.com/2017/09/28/in-september-1977-4/
- https://www.instagram.com/p/DOjQM0bCKK1/
- https://www.facebook.com/100083556020287/posts/-september-13-1977tom-waits-released-his-fifth-studio-album-foreign-affairsit-wa/774285078700019/
- https://www.reddit.com/r/tomwaits/comments/if66df/album_reviews_part_3_foreign_affairs_and_blue/
- http://tomwaitslibrary.info/discography/regular-albums/
- https://www.facebook.com/groups/handysidearcadehippies/posts/10155399293758225/
- https://www.anti.com/releases/foreign-affairs/tracks/foreign-affair/
- https://ameblo.jp/m0a7s2a2to/entry-12355673793.html
- http://tomwaitslibrary.info/discography/instrumentals/


