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吉田美奈子『MINAKO II』

吉田美奈子『MINAKO II』
吉田美奈子『MINAKO II』

吉田美奈子『MINAKO II』は、1975年10月3日に中野サンプラザで行われたコンサートの模様を収めたライブ・アルバムで、彼女の初期キャリアを象徴する作品として高く評価されています[1]。

コンセプトと成り立ち

『MINAKO II』は、RCAレーベル移籍第2弾として企画されたライブ盤で、スタジオ録音ではなく当時の吉田美奈子が持っていたポテンシャルと人脈を「そのまま提示する」ことに重きが置かれた作品だとされています[2]。
会場は中野サンプラザホール、日付は1975年10月3日で、当時の新進女性シンガーとしての存在感を、一夜のステージ構成の中に凝縮することが狙われました[1]。

選曲は、デビュー盤『MINAKO』(通称「1st」)収録曲「外はみんな」「扉の冬」「かびん」などのセルフ・レパートリーに加え、ソウルやポップスの名曲群、さらにははっぴいえんど作品のカバーまでを組み込んだ構成になっており、「自作曲+同時代のポップミュージック文化」を一続きの流れで聴かせるようなコンセプトが見て取れます[3]。

音楽性とサウンドの特徴

音楽性の核になっているのは、ソウル/R&Bのグルーヴ感と、日本語ポップスの叙情性をライブ・アレンジで融合させたサウンドです[4]。
冒頭を飾るのは、チャカ・カーンで知られるルーファスの「Once You Get Started」のカバーで、洋楽ソウルの高揚感をそのまま日本人バンドで再現しつつ、吉田のボーカルによって独自のニュアンスが付与されています[3]。

セット後半には、ダイアナ・ロスのカバーで知られる「Ain’t No Mountain High Enough」やキャロル・キング「You’ve Got A Friend」、エラ・フィッツジェラルドが歌った「Someone To Watch Over Me」といった洋楽スタンダードのカバーも登場し、ダイナミックな展開とコール&レスポンス的な盛り上がりを生み出しています[4]。
一方で、「外はみんな」「扉の冬」「かびん」といったオリジナル曲のパートでは、スタジオ版よりテンポやニュアンスをややルーズにしつつ、ジャジーな和ライトメロウ的質感を強めたアレンジが施され、70年代半ば日本ポップスの「生音シティポップ」的な萌芽が感じられるサウンドになっています[5]。

また、はっぴいえんど作品「ふうらい坊」「明日天気になあれ」などを含むメドレー的な流れも特徴で、当時のナイアガラ〜ティン・パン・アレー人脈とのつながりを示すとともに、日本語ロック/ポップスの新しい方向性をライブの中で体現しています[3]。

参加ミュージシャンとアレンジ

本作の大きな魅力は、当時の若手〜中堅実力派が一堂に会した豪華な布陣にあります。プロデュースには村井邦彦、アレンジの中心にはキーボーディストの佐藤博がクレジットされ、多くの楽曲のアレンジを担当しています[6]。

バックバンドには、ギターの伊藤銀次や松木恒秀、ドラムには村上“ポンタ”秀一、ベースに高水健司といった、のちに日本のフュージョン/ポップス史を語る上で欠かせないプレイヤーが参加しています。
ホーンセクションにはサックスの村岡健、トロンボーンの新井英治、トランペットの羽鳥幸次や大竹守らが入り、要所でブラスアレンジが曲のスケール感を押し上げています[7]。

コーラス陣も非常に豪華で、山下達郎と大貫妙子を中心に、シュガー・ベイブやハイ・ファイ・セット、山本潤子らが参加しており、特に「忘れかけてた季節」などでは分厚いハーモニーがサウンドの重要な要素になっています[5]。
このような布陣のもと、バンドサウンドはタイトさと熱量を兼ね備え、吉田のソウルフルなボーカルを支えながらも、各プレイヤーの個性が随所で立ち上がるライブ・グルーヴが記録されています[6]。

  • ベース – 高水健司
  • ドラムス – 村上秀一
  • ギター – 伊藤銀次、松木恒秀
  • キーボード – 矢野顕子、佐藤博
  • パーカッション – 浜口茂外也
  • サックス – 村岡健
  • トロンボーン – 新井英治
  • トランペット – 羽鳥幸次、大竹守
  • コーラス – ハイ・ファイ・セット(山本潤子、大川 茂、山本俊彦):B4、シュガー・ベイブ(大貫妙子、山下達郎)
  • プロデューサー – 村井邦彦
  • Co-producer [Assistant Producer] – 宮住俊介

トラック・リスト

Side 1

  1. ワンス・ユー・ゲット・スターティッド(Once You Get Started) – 1:48
  2. 外はみんな – 1:47
  3. 扉の冬 – 1:22
  4. かびん – 4:55
  5. ふうらい坊 – 4:20
  6. 明日天気になあれ – 3:40
  7. 週末 – 4:00
  8. アップル・ノッカー – 3:50

Side 2

  1. グッド・モーニング・ハートエイク(Good Morning Heartache) – 3:30
  2. 追憶 – 3:20
  3. 君の友だち(You’ve Got A Friend) – 4:00
  4. エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ(Ain’t No Mountain High Enough) – 4:30
  5. サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー(Someone To Watch Over Me) – 4:00
  6. アップル・ノッカー(リプライズ的エンディング) – 3:30

制作時エピソードと発表時の反響

『MINAKO II』は、スタジオでじっくり作り込まれた1st『MINAKO』とは対照的に、ライブの一発録り的な生々しさを前面に出した作品として位置づけられています[2]。
当時のシーンでは、シンガーソングライターやニューミュージックが台頭しつつある時期で、洋楽ソウルを本格的なバンドとともに日本語ポップスの土壌に移植するこの試みは、決して主流派の王道ではなかったものの、一部のリスナーやミュージシャンから熱心に支持されたと伝えられています[8]。

のちのリマスター/再発の際には、「RCA期の名作」「初期ライブの決定的記録」といった評価が強調され、特にバーニー・グランドマンによるリマスタリングでアナログおよびSACDハイブリッド盤が再リリースされたことから、音質面でも再評価が進みました[1]。
現在では、シティポップ/和ライトメロウ再評価の文脈の中で、シュガー・ベイブ人脈やティン・パン周辺の豪華参加陣を含め、「70年代半ばの東京ポップスシーンをそのまま切り取ったライブ盤」としてコレクターからも人気を集めています[5]。

特筆すべきポイント

特筆すべき点として、まず「カバーとオリジナルの境界を意識させないセット構成」が挙げられます。チャカ・カーンやダイアナ・ロス、キャロル・キングといった洋楽曲から、自作曲、はっぴいえんどのナンバーまでを一続きの流れで聴かせることで、吉田美奈子自身の音楽的ルーツと現在進行形の表現を、一本の線で結んでいるような印象を与えます[4]。

また、山下達郎・大貫妙子らのコーラス参加は、シュガー・ベイブ〜RVC系シンガーソングライターの交流関係を象徴する出来事としても重要で、この人脈がのちのシティポップの文脈にどのようにつながっていくかを考える上でも、歴史的資料性の高い録音になっています[7]。
さらに、当時としてはまだ珍しかった「女性ボーカリストがソウル/ファンク寄りのバンドを従え、洋楽スタンダードと日本語オリジナルを同列に歌い切る」姿は、後続世代の女性シンガーたちにとっても一つのロールモデルとなったと評されることがあります[8]。

総じて『MINAKO II』は、単なるライブ盤という枠を超え、1975年の東京ポップス・シーン、ミュージシャン人脈、そして吉田美奈子というシンガーの初期到達点を、一枚で俯瞰できるドキュメントとして位置づけられる作品だと言えるでしょう[6]。

Citations:

[1] https://www.musicman.co.jp/artist/305294
[2] https://www.la-la-bells.com/news.html
[3] https://ticro.com/en/products/y00000793
[4] https://blog.naver.com/PostView.naver?blogId=702forever&logNo=222917834117
[5] https://organicmusic.jp/products/minako-yoshida-minako-ii
[6] http://hiptankrecords.com/?pid=93524978
[7] https://www.guitarrecords.jp/product/19714
[8] https://ameblo.jp/uzimusi58/entry-12764839646.html

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