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キップ・ハンラハン『ビューティフル・スカーズ』を聴く。

キップ・ハンラハン『ビューティフル・スカーズ』を聴く。
キップ・ハンラハン(KIP HANRAHAN)の『ビューティフル・スカーズ(BEAUTIFUL SCARS)』

Kip Hanrahanのアルバム『Beautiful Scars』は、文学的で詩的なコンセプトと、ラテン、ジャズ、ロック、アフロキューバンなど多様な影響が融合した独特の音楽世界を持つ作品です[1]。

『ビューティフル・スカーズ』のコンセプトとテーマ

『Beautiful Scars』の中心となるテーマは「怒り」と「愛」といった人間の情動、そして都市やコミュニティの日常に潜む物語性です。Kip Hanrahanはこのアルバムで“男の中の女、女の中の男のささやき”といったジェンダーやアイデンティティの揺らぎ、対話、葛藤を詩的に描きます。それはベケット文学的な寓話性と都市的なリアリズムを持ち、歌詞は英語とスペイン語を自在に行き来します. また、グローバルな資本や搾取、現代社会のポリティクスもさりげなく織り込まれており、“exquisitely beautiful”だが“tangled”、複雑な心理の綾や現実を意識した作品です[3]。

音楽性とサウンドの特徴

Hanrahanの音楽性は、アフロキューバン、ラテン、ジャズ、ファンク、ロック、そしてブルースの要素を複雑に絡めたものです。サウンドは非常に密度が高く、都会の熱や湿度、コミュニティのざわめき、路上の感覚などが生々しく詩的に反映されています。NYのラテンコミュニティやダウンタウンの独特な空気感を表現したサウンドは、解放感と映像性、物語性を生み出します. 歌と演奏は分離せず、空気に溶け合うように設計されており、“限りなく空気感を伴った解放感”や“都会の密度”が特徴となっています. ヴォーカル曲も多く、これまで以上にメロディックで抒情的な側面が強調されたと言えるでしょう[2]。

制作エピソード

『Beautiful Scars』の制作は1年以上に及ぶもので、Hanrahan自身が膨大な数のトラックを抱えたまま方向性に迷った時期もあったと語られています。もともとは『At Home In Anger』というタイトルで企画されていたが、最終的にヴォーカルバージョンで『Beautiful Scars』としてリリースされました. 制作費の問題もありインストゥルメント版は一時中断されましたが、後に詩や新たなトラックを加え、ようやく完成に至ったという逸話があります。発売までには海外レーベルとのトラブルなどもあったようです[1]。

参加ミュージシャン

本作には一流のミュージシャンが多数参加しています。主なパーソネルは以下の通りです[5]:

  • Kip Hanrahan(ディレクション、パーカッション、ヴォイス)
  • Steve Swallow(ベース)
  • Milton Cardona(コンガ、パーカッション)
  • Alfredo Triff(ヴァイオリン)
  • Brandon Ross(ギター、ヴォイス)
  • Fernando Saunders(ベース、ヴォイス)
  • Dafnis Prieto(ドラム、ヴォイス)
  • Xiomara Laugart(ヴォイス)
  • Don Byron(クラリネット)
  • Robby Ameen(ドラム、パーカッション)
  • Horacio "El Negro" Hernandez(ドラム、パーカッション)
  • John Beasley(ピアノ、キーボード)
  • Bryan Carrott(ヴィブラフォン)
  • Andy Gonzalez(ベース)
  • Yosvany Terry(パーカッション、サックス)
  • Anthony Cox(ベース)

この豪華な参加陣は、HanrahanがNYダウンタウンの音楽コミュニティやラテン人脈を最大限に活かしている点を強く示しています[6]。

発表時の反響

『Beautiful Scars』は、その複雑で知的な音楽性、そして詩的なコンセプトから、批評家の間で高い評価を受けました。BBCによるレビューやジャズ専門誌などでも「repeat listeningを欲する難解だが魅力的な作品」「Kip Hanrahanの全キャリアでも際立っている」と評価されています. 彼のファンや音楽関係者は“こんなに新鮮で意欲的な作品は珍しい”“Make Love Musicの極致”などと賞賛しています. 一方で一般のメインストリームと一線を画すため、知的好奇心や都市的イメージ、官能的な夜の雰囲気を求めるリスナーに向いた作品とされています[4]。

特筆すべきこと

  • アルバムの制作とリリースには、Hanrahanの美学や実験精神が顕著に現れており、“レコーディングは映画制作に似ている”という彼のプロデュース哲学が徹底されています[10]。
  • Hanrahan自身のNYブロンクスの生い立ち、ラテンコミュニティの雑踏、アイデンティティの融合が音楽に刻印されています[2]。
  • 文学的な歌詞は英語/スペイン語の間で自在に変奏し、都市社会や男女の情動を細やかに表現しています[1]。
  • ジャンルの枠を超え、コラージュ的かつ映像的なサウンドスケープを持つ希有なアルバムです[7]。

『Beautiful Scars』は、Kip Hanrahanの経験と哲学、NYの都市文化、グローバルな音楽的対話が凝縮された重要作です[3]。

アルバム・レヴュー

キップ・ハンラハン(KIP HANRAHAN)の『ビューティフル・スカーズ(BEAUTIFUL SCARS)』です。
このアーティストの名前、アルファベットで書かれたものを初めて見たときはなんて読めばいいのか分かりませんでした。
BEAUTIFUL SCARS、日本語にすれば「美しい傷」ですかね…。
アルパチーノの主演で「スカーフェイス(Scarface)」という映画もありました。
これは、傷のある顔のことを言うのですね。

濃密で妖艶で重い漆黒の闇がまとわりつくような音楽です。
どう考えたって夜しか聴けません。
とても土曜日の朝や日曜の昼下がりに聴けるようなシロモノではありません。
ジャズとラテンが融合したような音楽ですが、ゲッツ・ジルベルトのようなわかりやすいものではありません。
「ジャズとラテンが融合したような」なんていうとやっぱり違う訳で、敢えて無国籍といった方が、よいのかも…。

一曲一曲の構成は複雑です。
複雑というのもいろいろありますが様式化された複雑さではなくフリージャズ的な複雑さです。
かといって、決して聴く
「なんか、めちゃくちゃ高度でレベルの高いことをやっているのではなかろうか…?」などと思わせます。
これにはまりながら聴いていると自分の音楽観がいきなりレベルの高いところに一気に押し上げられたような感覚を受けます。
アヴァンギャルドだけど耳障りが良い。
なんか癖になるような音楽です。
万人受けするとは思いませんが、まちがいなくカッコイイです。
ちなみにキップ・ハンラハンはニューヨーク出身のプロデューサーで、あのアストル・ピアソラの名盤『タンゴ・ゼロ・アワー』のプロデュースしました。

トラック・リスト

  • Busses From Heaven (Hanrahan, Swallow, Hernandez)
  • Real Time and Beautiful Scars (Hanrahan, Ross, Nocentelli)
  • The Girl That Won’t Resolve (Hanrahan)
  • Caravaggio / A Quick Balance (Swallow, Hanrahan)
  • Night Cumbia (Hanrahan, Swallow)
  • One Summer Afternoon (for Gil Evans) (Swallow, Hanrhahan, Ross)
  • Xiomarra Wears the Heat Beautifully (Hanrahan, Swallow)
  • Paris Through Tears (Swallow, Hanrahan)
  • Montana (Hanrahan, Cardona, Jackson)
  • Leijia On the Way to Brooklyn (Hanrahan)
  • Milton Cardona (Hanrahan)
  • Salt in the Mozambique Evening (Glasgow, for Jack Bruce) (Hanrahan,Prieto)
  • Rumba of Cities (Hanrahan, Martinez)
  • Accounting in the Morning (Swallow, Hanrahan)
  • Winterscape With I.M.F. (Hanrahan)
  • City of Gold (Palestine Blues) (Bruce, Hanrahan)
  1. https://tower.jp/article/feature_item/2012/01/17/0101
  2. https://weblog.sitelife.jp/2019/11/real-time-and-beautiful-scars.html
  3. https://www.bbc.co.uk/music/reviews/9j54/
  4. http://hanrahan.free.fr/htm/life.html
  5. http://www.enjajazz.de/yeb-7704.htm
  6. https://www.bluenote.co.jp/jp/reports/2011/12/08/naruyoshi-kikuchi-presents-kip-hanrahan-beautiful-scars.html
  7. https://blog.goo.ne.jp/stillgoo/e/bb3395f845f8825530ef979d0936efba
  8. https://www.arban-mag.com/article/62855
  9. https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/kip-hanrahan/
  10. https://en.wikipedia.org/wiki/Kip_Hanrahan
  11. https://www.sa-cdlab.com/r_jazz/04g/kip/kip.html
  12. https://www.allmusic.com/album/beautiful-scars-mw0001664024
  13. https://www.newtone-records.com/product/0026270
  14. https://www.youtube.com/watch?v=pk-k5FTDf-Q
  15. https://www.allaboutjazz.com/album/beautiful-scars-kip-hanrahan
  16. https://note.com/elis_ragina/n/n7b34f68b111b
  17. https://ameblo.jp/jawapannacotta/entry-11989956015.html
  18. https://tower.jp/item/2250454
  19. https://music.apple.com/gb/album/beautiful-scars/279353718
  20. https://www.youtube.com/watch?v=tHgZkbByKiw
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