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アート・ファーマー『おもいでの夏』

アート・ファーマー『おもいでの夏』
アート・ファーマー(Art Farmer)『おもいでの夏』(The Summer Knows)

アート・ファーマーが1976年にCTI (Creed Taylor Inc.) レコードから発表した『The Summer Knows』(邦題:おもいでの夏)は、彼のキャリア後期の代表作の一つです。このアルバムは、ファーマーのフリューゲルホルンを前面に押し出し、ストリングス・オーケストラを組み合わせた構成で知られています。70年代のクロスオーバー・ジャズを代表する作品としても位置づけられています。

『The Summer Knows』のコンセプト

本作のコンセプトは、プロデューサーであるクリード・テイラー(Creed Taylor)の意向が強く反映されています。CTIレーベルは、ジャズにクラシックやポップスの要素を取り入れ、幅広い聴衆に向けた音楽制作を特徴としていました。『The Summer Knows』もその方針に沿っており、アルバムタイトル曲であるミシェル・ルグラン作曲の「The Summer Knows」(映画『おもいでの夏』主題歌)が示す通り、叙情的なテーマで統一されています。選曲は映画音楽、ジャズ・スタンダード、コンテンポラリー楽曲で構成され、一貫した世界観を構築しています。

音楽性とサウンドの特徴

『The Summer Knows』のサウンドは、主に3つの要素によって成り立っています。それは、アート・ファーマーの演奏、ジミー・ヒースの編曲、そしてCTIレーベル特有のサウンド・プロダクションです。

1. アート・ファーマーの演奏と「フランペット」

この時期のファーマーは、主にフリューゲルホルンを演奏楽器としていました。本作でも、フリューゲルホルンの持つ柔らかい音色を活かし、メロディの美しさを重視した演奏を展開しています。技巧的なアドリブよりも、音数を抑えて各音に意味を持たせたリリカルなフレージングが特徴です。

本作を語る上で重要なのが、「フランペット(Flumpet)」という楽器の初使用です。これは、トランペットの明瞭な音の立ち上がりとフリューゲルホルンの柔らかな響きを両立させる目的で、ファーマー自身が楽器職人デヴィッド・モネットと共に開発したものです。アルバム収録曲の「Alfie」などでこの楽器が使用されたとされ、従来のフリューゲルホルンとは異なるニュアンスの音色を聴くことができます。この楽器の導入は、自身のサウンドを追求し続けたファーマーの音楽的探求の結果です。

2. ジミー・ヒースによる編曲

サックス奏者であり編曲家でもあるジミー・ヒースが、ストリングスと木管楽器を含むオーケストラのアレンジを担当しました。彼の編曲の特徴は、オーケストラを単なる伴奏ではなく、ファーマーのソロと音楽的に対話する要素として扱っている点にあります。ストリングスは対旋律を奏で、木管楽器はサウンドに色彩的な変化を与えます。このような構造的な編曲が、アルバムに音楽的な奥行きを与え、イージーリスニングの範疇に留まらないジャズ作品としての骨格を形成しています。

3. CTIのサウンド・プロダクション

プロデューサーのクリード・テイラーとエンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダーによる録音は、当時のCTI作品に共通するクリアな音質を持っています。各楽器の分離が良く、空間的な広がりを感じさせるサウンドが特徴です。ファーマーのソロ楽器は前面に出ており、その息遣いが感じられるような生々しい音像で捉えられています。

制作と参加ミュージシャン

レコーディングには、当時のニューヨークの音楽シーンで活動していた著名なスタジオ・ミュージシャンが多数参加しました。彼らの演奏技術が、アルバムの音楽的クオリティを支えています。

  • フリューゲルホルン, フランペット: アート・ファーマー (Art Farmer)
  • 編曲・指揮: ジミー・ヒース(Jimmy Heath)
  • ピアノ: シダー・ウォルトン(Cedar Walton)
  • ギター: エリック・ゲイル(Eric Gale)
  • ベース: ロン・カーター(Ron Carter)、ウィル・リー(Will Lee)
  • ドラムス: ビリー・コブハム(Billy Cobham)、スティーヴ・ガッド(Steve Gadd)
  • パーカッション: ウォーレン・スミス(Warren Smith)

ピアノのシダー・ウォルトン、ベースのロン・カーター、ドラムスのビリー・コブハムといったアコースティック・ジャズのプレイヤーと、エレクトリック・ベースのウィル・リー、ドラムスのスティーヴ・ガッドといったフュージョン系のプレイヤーが起用されており、楽曲に応じて柔軟なリズム・セクションが組まれました。

発表時の反響と現在の評価

1976年のリリース当時、『The Summer Knows』はジャズ・ファンのみならず、より広い層に受け入れられました。写真家ピート・ターナーによるジャケット・デザインを含め、CTI作品特有の洗練されたパッケージも成功の一因でした。

一方で、ストリングスを多用したサウンドに対して、一部のジャズ評論家からは商業的であるとの批判も存在しました。これは、70年代のクロスオーバー/フュージョンというムーヴメント全体に向けられた議論でもありました。

しかし、現在では『The Summer Knows』の評価は確立されています。アート・ファーマーのキャリアを代表する作品の一つとして、また、ジャズとオーケストラの融合が成功した例として認識されています。メロディを大切にするファーマーの音楽性が、ジミー・ヒースの編曲と結びついた本作は、70年代ジャズの多様性を示す重要な記録と見なされています。その音楽は、特定のジャンルや時代を超えて聴き継がれています。

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