ブレッド&バター『Pacific』

ブレッド&バターの『Pacific』(パシフィック)は、1981年にアルファ・レーベルからリリースされた、いわゆる「アルファ三部作」の掉尾を飾るアルバムで、湘南を舞台にした穏やかな情景と、洗練されたAOR/シティポップのサウンドが高い完成度で結晶した作品です[1]。
『Pacific』のコンセプトと全体像
本作は、タイトル曲こそ存在しないものの、「HOTEL PACIFIC」「SHONAN GIRL」「LOVE SAIL」といった曲名からわかるように、湘南の海辺の風景と、そこに暮らす(あるいは憧れる)大人の恋や日常を縦糸にしたアルバムです。
「夏真っ盛り」というよりは、「夏の終わりから初秋」にふさわしいムードを持った曲が並んでおり、前作『MONDAY MORNING』が眩しい夏の光を感じさせるのに対して、『Pacific』は夕暮れの少し物寂しい時間帯に似合う一枚だと評されています。
実際、あるレビューでは「夏の終わりに必ず聴くアルバム」と述べられ、季節の移ろいのセンチメンタルさをテーマとして聴かれてきたことがうかがえます[1]。
音楽性とサウンドの特徴
収録曲は「HOTEL PACIFIC」「第2土曜日」「SHONAN GIRL」「LOVE SAIL」「STAY WITH ME TONIGHT」「カタカタ想い」「お食事どこでする?」「FEEL INSIDE」「DON'T TELL ME ABOUT HEARTACHES」「一枚の絵」の全10曲で、アップテンポなポップナンバーからバラードまでバランスよく配置されています[2]。
演奏の中心となっているのは、松原正樹や今剛らが所属したフュージョン系バンド・パラシュートのメンバーで、前作に続いてスタジオの一流ミュージシャンたちが参加していることが大きな特徴です。
ギター・アレンジは松原正樹が7曲、井上鑑が3曲を担当しており、いかにも「パラシュート・サウンド」という派手なフュージョン色ではなく、アコースティック主体で穏やかにまとめたサウンドがアルバム全体のトーンを決定づけています[1]。
曲ごとに見ると、「SHONAN GIRL」はウェストコースト・ロックを思わせる軽快なポップ・ナンバーで、アコースティックとエレキのギターが心地よく絡み合うアレンジが印象的です。
「LOVE SAIL」はブレバタお得意の「クルージング・ソング」で、穏やかな海風を感じさせるメロディとコーラスが、彼らのリゾート感覚をよく表しています。
「STAY WITH ME TONIGHT」や終盤のバラード群は、美しいコーラスワークとメロウなコード進行で、「沈みゆく夕陽を眺めながら聴きたい」と評されるほどの情感を湛えています。
一方「カタカタ想い」や「お食事どこでする?」は、海辺のイメージから少し離れた都会的なシティポップ色が強く、横浜の夜景が似合いそうな都会的サウンドと評されています[1]。
「DON'T TELL ME ABOUT HEARTACHES」はジョン・ヴァリンズ作詞、ナット・キプナー作曲による英語詞バラードで、AOR的なアレンジが際立つ一曲として紹介されています[3]。
トラック・リスト
Side 1
- HOTEL PACIFIC
- 第2土曜日
- SHONAN GIRL
- LOVE SAIL
- STAY WITH ME TONIGHT
Side 2
- カタカタ想い
- お食事どこでする?
- FEEL INSIDE
- DON'T TELL ME ABOUT HEARTACHES
- 一枚の絵
制作背景と参加ミュージシャン
『Pacific』は、アルファ時代の3作目として制作され、前2作で築いた「湘南×洗練されたシティポップ」という路線を、より落ち着いたトーンで深化させた作品と位置づけられています。
アレンジャーは前述の通り松原正樹と井上鑑で、80年代日本ポップスを代表するギターコンビ、松原正樹と今剛によるプレイがアルバムの大きな聴きどころとされています[1]。
具体的なクレジット一覧はサイトによって詳細が示されていませんが、「HOTEL PACIFIC」の編曲は松原正樹であり、演奏はパラシュートの面々が中心になっていると解説されており、当時の一流セッション陣が一丸となったサウンドプロダクションであることがわかります[4]。
主な参加ミュージシャン
- 岩沢幸矢(いわさわ さつや):ヴォーカル(ブレッド&バター・兄)
- 岩沢二弓(いわさわ ふゆみ):ヴォーカル(ブレッド&バター・弟)
- 松原正樹:エレキ・ギター、アコースティック・ギター
- 今剛:エレキ・ギター、アコースティック・ギター、ペダル・スチール・ギター
- 井上鑑:ローズ・ピアノ、ハモンドオルガン、アコースティック・ピアノ、シンセサイザー
- 安藤芳彦:ローズ・ピアノ、アコースティック・ピアノ
- 佐藤準:アコースティック・ピアノ
- 清水信之:シンセサイザー
- 斉藤ノヴ:パーカッション
- マイク・ダン:ベース
- 林立夫:ドラム
「HOTEL PACIFIC」は、茅ヶ崎の「パシフィック・ホテル茅ヶ崎」をモチーフにした楽曲で、作詞は呉田軽穂(松任谷由実)が手がけています[5]。
同ホテルは湘南のミュージシャンたちの社交場のような存在で、ブレッド&バター自身もパシフィックホテル茅ヶ崎にゆかりが深く、その空気感を歌にしたものと紹介されています[2]。
こうしたリアルな土地との結びつきが、単なる「海っぽいイメージ」に留まらない、具体的な湘南の日常感をアルバムに与えています[1]。

発表当時の反響と評価
1981年当時のリアルタイムなチャート数字までは公開情報が限られますが、後年のレビューや復刻の動向から、『Pacific』がブレッド&バターの代表的アルバムの一つとして愛されてきたことがうかがえます[5]。
あるレビューでは、「毎年夏になると必ず聴きたくなる」「夏の終わりを惜しみながら聴くには最高のアルバム」と記されており、長年にわたり季節の定番盤として聴かれてきたことが示されています[1]。
また、ソニー系の再発企画「CITY POP 名盤復刻」シリーズの一枚としてCDが再発されており、「サザンに先駆けてパシフィック・ホテル茅ヶ崎を歌った『HOTEL PACIFIC』を含む1981年作品」と紹介されるなど、シティポップ文脈での再評価も進んでいます[2]。
さらに、ブレッド&バターのデビュー55周年企画としてLPが復刻され、アルファ三部作の第3弾として改めて位置づけられていることからも、彼らのキャリアにおける重要作として認識されていると言えます[6]。
特筆すべきポイント
特筆すべきは、まず「HOTEL PACIFIC」に代表される具体的な湘南のロケーションと、松任谷由実=呉田軽穂による歌詞という組み合わせです[5]。
サザンオールスターズが2000年代に同名タイトルの曲をヒットさせるよりも前に、「パシフィック・ホテル茅ヶ崎」を題材にしたこの曲を生み出していたことは、湘南ポップス史の一コマとしても興味深い点です[7]。
次に、アルバム全編を支える松原正樹・今剛コンビのギターと、パラシュート勢のプレイによる、アコースティックで柔らかながらも洗練されたAORサウンドです。
激しいフュージョン的技巧を前面に出すのではなく、あくまで楽曲と歌を引き立てる形で80年代的な都会感覚をにじませているところが、今聴いても古びない魅力となっています[1]。
そしてアルファ期三部作の締めくくりとして、「湘南」というコンセプトとシティポップ/AORの成熟が一つの完成形に達したアルバムであり、「夏の終わり」の情緒とともに、ブレッド&バターというデュオの核となる世界観がもっともバランスよく表現されている作品として語り継がれている点も、見逃せないポイントだと言えるでしょう[4]。
[1] https://note.com/disklover/n/na763249a1824
[2] https://store.shopping.yahoo.co.jp/hannkodo/mhcl-643.html
[3] https://www.groovenutrecords.net/products/detail/15109
[4] https://note.com/sugasugarheaven/n/n50dc076569bb
[5] https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008893274
[6] https://realsound.jp/2020/06/post-564437.html
[7] https://reminder.top/457727577/


