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ウェス・モンゴメリー『夢のカリフォルニア』

ウェス・モンゴメリー『夢のカリフォルニア』
ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)『夢のカリフォルニア』(California Dreaming)

Wes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)の『California Dreaming』(邦題:夢のカリフォルニア)は、1960年代後半の彼の方向転換を象徴するアルバムであり、ポップスとジャズの境界線をなめらかに行き来する作品として位置づけられます。

コンセプトと制作背景

本作は1966年9月14〜16日にニュー・ジャージー州エングルウッド・クリフスのヴァン・ゲルダー・スタジオで録音され、1967年にVerveからリリースされました。
それまでハード・バップ〜ソウル・ジャズ寄りだったウェスが、よりポピュラーな楽曲を取り上げる「インストゥルメンタル・ポップ」路線へと舵を切った時期の作品です。
タイトル曲「California Dreamin’」や「Sunny」といった当時のヒット曲をジャズ・ギタートリオではなく、大きなアンサンブルとストリングス風の書法の中に置くことで、ポップスの親しみやすさとジャズの即興性を両立させることがこのアルバムの基本的なコンセプトになっています。

プロデュースはクリード・テイラー–(Creed Taylor)、アレンジと指揮はドン・セベスキー(Don Sebesky)というVerve黄金コンビで、録音エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダー(Rudy Van Gelder)です。
クラブでのハード・バップ的な「燃えるウェス」ではなく、「ラジオでも流せる洗練されたウェス」を提示する、マーケットを強く意識したプロジェクトだったといえます。

音楽性・サウンドの特徴

サウンド面の核になっているのは、セベスキーによるオーケストレーションと、モンゴメリーのギター・トーンのコントラストです。
トランペット、トロンボーン、フレンチホルン、チューバ、フルートやピッコロなどを含む分厚いホーン・セクションが、柔らかくも立体的なハーモニーを作り、その前景でウェス特有のオクターブ奏法とシングルノートがメロディを歌います。
リズム面では、ほかのVerve期の一部作品に比べてグルーヴ志向が強く、『Bumpin’』よりも「グルーヴ・チューンを重視し、過度なポップ路線を抑えた」作りと評されています。

録音はRVGらしく奥行きのあるステレオ空間と温かみのある中域が特徴で、近年のオーディオ系サイトでは「ウェス作品中でもっとも音の良いアルバムのひとつ」とする声もあります。
ベースの量感、ホーン群の広がり、ギターの芯のある音色がバランスよく収まり、椅子に深く腰かけて夜を過ごすのにふさわしい「リビング向き」のジャズとして評価されてきました。

参加ミュージシャン

リズム・セクションには、当時すでにニューヨークのファースト・コールだったメンバーが集められています。

  • ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery) - ギター
  • メル・デイビス(Mel Davis) - トランペット
  • バーニー・グロウ(Bernie Glow) - トランペット
  • ジミー・ノッティンガム(Jimmy Nottingham) - トランペット
  • ウェイン・アンドレ(Wayne Andre) - トロンボーン
  • ジョニー・メスナー(Johnny Messner) - トロンボーン
  • ビル・ワトラス(Bill Watrous) - トロンボーン
  • ジェームズ・バフィントン(James Buffington) - フレンチホルン
  • ドン・バターフィールド(Don Butterfield) - チューバ
  • スタン・ウェッブ(Stan Webb) - クラリネット、イングリッシュホルン、サックス
  • レイモンド・ベッケンシュタイン(Raymond Beckenstein) - フルート、ピッコロ、サックス
  • ハービー・ハンコック(Herbie Hancock) - ピアノ
  • アル・カサメンティ(Al Casamenti) - ギター
  • バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli) - ギター
  • リチャード・デイヴィス(Richard Davis) - コントラバス
  • グラディ・テイト(Grady Tate) - ドラム
  • ジャック・ジェニングス(Jack Jennings) - ヴィブラフォン、カスタネット、スクラッチ
  • レイ・バレット(Ray Barretto) - パーカッション

ギターのバッキングにはAl CasamentiとBucky Pizzarelliが入り、リズムの厚みとサウンドの滑らかさを支えています。
ホーン陣は、Mel DavisやBernie Glowらトランペット、Wayne AndreやBill Watrousらトロンボーン、James Buffington(フレンチホルン)、Don Butterfield(チューバ)、Ray BeckensteinやStan Webbといったマルチリード奏者が参加しており、ニューヨークの一流スタジオ・プレイヤー総動員といった趣です。

制作時のエピソードと制作プロセス

Verve期のウェスとクルード・テイラー、ドン・セベスキーの制作プロセスについては、後年のインタビューでかなり具体的に語られています。
ウェスは譜面が読めず、大人数のストリングスやホーンと同時にレコーディングすることにプレッシャーを感じていたため、まずアレンジだけをスタジオで録音し、そのテープをツアー中のウェスに送り、ホテルでヘッドホンをつけながら練習してもらう、という方法が採られました。
その上で、ニューヨークに戻ってきたタイミングで、既に録音済みのオーケストラ・トラックに彼のギターをオーバーダブする形で本番テイクを収録したとされています。

この効率的なやり方によって、ウェスは複雑なアレンジに呑み込まれることなく、自分のテンポとフィーリングを保ちつつプレイすることができました。
『California Dreaming』に通底する、肩の力の抜けたソロと、アンサンブルとの自然な「噛み合い」は、こうした制作上の工夫の賜物だといえます。

収録曲と反響

アルバムは「California Dreamin’」「Sunny」「More, More Amor」「South of the Border」といったポップス/ラテン系のナンバーと、ウェス自身のオリジナル「Sun Down」「Mr. Walker」などで構成されています。
「Sun Down」はハービー・ハンコック、リチャード・デイヴィス、グラディ・テイト、レイ・バレットだけの編成による6分弱のブルースで、ポップ路線の中にもしっかりとブルースの芯を残し続けたウェスの姿勢を示すトラックとされています。
一方「Mr. Walker」はRiverside時代の再演曲で、キャリアの初期から後期への橋渡しのような位置づけになっています。

チャート面では、Billboardのジャズ・アルバム・チャートで1位、R&Bチャートで4位を記録し、商業的にも大きな成功を収めました。
ただし当時の批評は割れており、ジャズ純粋主義者からは「商業的すぎる」「即興の比重が小さい」といった批判も出た一方、ポップスとの架け橋としての役割を評価する声もありました。
時間の経過とともに、本作は「ウェスの多面的な才能と、音楽産業の現実の中で自分のスタイルを貫こうとした試み」を示す重要作として再評価が進んでいます。

Side 1

  1. 夢のカリフォルニア(California Dreaming) - 3:07
  2. サン・ダウン(Sun Down) - 6:00
  3. オー・ユー・クレイジー・ムーン(Oh, You Crazy Moon) - 3:40
  4. モア・モア・アムール(More, More, Amor) - 2:50
  5. ウィズアウト・ユー(Without You) - 3:03

Side 2

  1. バルセロナの風(Winds of Barcelona) - 3:06
  2. サニー(Sunny) - 4:04
  3. グリーン・ペッパーズ(Green Peppers) - 2:55
  4. ミスター・ウォーカー(Mr. Walker) - 3:38
  5. 国境の南(South of the Border) - 3:14

特筆すべきポイント

特筆すべき点としては、まず本作がVerve時代の代表作のひとつであると同時に、ポピュラー・ソングをジャズ・ギターで再解釈するという後続世代の「スムース・ジャズ」「クロスオーバー」の原型になった側面が挙げられます。
また、ハービー・ハンコックやレイ・バレットといった当時の最先端プレイヤーが、きわめて歌心の強いコンセプトの中に組み込まれていることも興味深い点です。
さらに、RVGスタジオ録音の完成度の高さとセベスキーのアレンジ、そしてクルード・テイラーのプロデュース・センスが、モンゴメリーの晩年スタジオ作品の中でも特にバランスよく噛み合ったアルバムとして、オーディオ・ファイルからも厚い支持を得ています。

結果として『California Dreaming』は、「ハード・バップの名手ウェス」だけを求める耳には物足りなく映るかもしれませんが、ポップスとジャズが近接していた60年代後半という時代の空気と、モンゴメリーのメロディ志向がもっとも柔らかく形になった一枚として、いまなお聴きどころの多い作品だといえます。

Citations:

  • https://ontherecord.co/2021/05/19/wes-montgomery-california-dreaming/
  • https://en.wikipedia.org/wiki/California_Dreaming_(Wes_Montgomery_album)
  • https://funkyduckvinyl.com/new-vinyl/jazz/wes-montgomery-california-dreaming-lp/
  • https://www.jazzmessengers.com/en/97853/wes-montgomery/californiadreaming-limitedgatefoldedition-
  • https://www.youtube.com/watch?v=IkTXd7YiTxQ
  • https://ontherecord.co/2021/05/19/wes-montgomery-california-dreaming/
  • https://ontherecord.co/2018/07/27/wes-montgomery-california-dreaming-cisco-reviewed/
  • https://www.elemental-music.com/releases/4828-wes-montgomery-california-dreaming-0600753982860.html
  • https://jazztimes.com/features/profiles/wes-montgomery-the-softer-side-of-genius/
  • https://www.pop-music.ca/wes-montgomery-california-dreaming-vinyl.html
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