キース・ジャレット・トリオ『サムホエア・ビフォー』

Keith Jarrett Trio(キース・ジャレット・トリオ)の『Somewhere Before』(サムホエア・ビフォー)は、1968年8月30日と31日にハリウッドの伝説的ジャズクラブ、Shelly's Manne-Holeでライブ録音され、1969年にリリースされたアルバムです。この作品はジャレットが初めて本格的にリーダーを務めたトリオ作であり、ベースにはチャーリー・ヘイデン、ドラムにはポール・モチアンという、後の「アメリカン・カルテット」の礎となる顔ぶれが参加しています[1][2][3]。
『サムホエア・ビフォー』のコンセプトと制作時の背景
当時23歳だったキース・ジャレットは、チャールズ・ロイド・カルテットでの活動を中心に、同時期にはマイルス・デイヴィスとも共演している非常に多感な時期でした[4]。本作のコンセプトは明確なテーマに縛られることなく、若きジャレットの多彩な音楽的興味や実験精神、そして当時のジャズ界を席巻していたロックやフォーク、フリージャズの要素が大胆に取り入れられている点にあります。リーダー作とはいえ、全体はトリオによる即興性に富んだ対話が中心で、新鮮かつ奔放な「現在進行形のジャズ」が詰まっています[1][3][5]。
音楽性・サウンドの特徴
アルバムの特徴は多面的で、抒情的なバラード(「Pretty Ballad」「A Moment for Tears」)におけるビル・エヴァンスを思わせる繊細さや[3]、一方で「Moving Soon」などには初期のフリージャズ的混沌、グルーヴの効いたラグタイム調(「New Rag」「Old Rag」)など、豊かなバリエーションが溢れています[6]。独特なのは、ボブ・ディラン「My Back Pages」をピアノ・トリオで取り上げ、フォーク楽曲をロック色の強い4/4ビートで斬新に編曲している点です。これはザ・バーズのカバーに着想を得ており、ピアノでメロディや伴奏を巧みに明暗でコントロールし、幅広い聴衆に響く「ピアニズム」が感じられます[1][3][5]。
加えて、ジャレットがピアノの他にもいくつかのトラックでヴォイスによる効果音も織り交ぜ、トリオ演奏にさらなる即興性と生々しさを持ち込んでいます。チャーリー・ヘイデンのウォームな音色、ポール・モチアンの柔軟かつ知的なドラミングも、個性豊かなサウンドに寄与しています。
参加ミュージシャン
- キース・ジャレット(Keith Jarrett):ピアノ
- チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden):ダブルベース
- ポール・モチアン(Paul Motian):ドラムス
録音エンジニアはビル・ハルヴァーソン(Bill Halverson)。プロデューサーは名手ジョージ・アヴァキアン(George Avakian)です[2][3]。
トラック・リスト
Side 1
- My Back Pages (Bob Dylan) - 5:24
- Pretty Ballad - 3:30
- Moving Soon - 4:24
- Somewhere Before - 6:50
Side 2
- New Rag - 5:40
- A Moment for Tears - 3:07
- Pouts' Over (And the Day's Not Through) - 4:35
- Dedicated to You (Sammy Cahn, Saul Chaplin, Hy Zaret) - 5:00
- Old Rag - 2:37
制作エピソード
アルバム制作そのものの詳細な逸話は多く記録されていませんが、当時ジャレットは既にチャールズ・ロイドの元で磨いた即興力を発揮しつつ、更に自らの独自色を模索していた時期です。このトリオによるコラボレーションは後にアメリカン・カルテットへ発展し、現代ジャズ史に大きな足跡を残す契機となりました[4]。
発表時の反響
『サムホエア・ビフォー』は発表当時から高い評価を得ています。AllMusicのリチャード・S・ジネルは「初期の未熟さこそあるが、そこにこそ興味深い素材が詰まっている」と評し、Penguin Guide to Jazzは「チャールズ・ロイド・カルテットやマイルス・デイヴィス・グループの手法を想起させるが、その後しばらく失われたアプローチの新鮮さがある」とコメントしています[1]。Jazz Journalは「ジャレット23歳の全ての多面性、素晴らしい即興能力、情熱、叙情性、創作意欲が詰まった名作」としています[3]。
特筆すべきこと
- 本作における自由なスタイルやロック的要素は、その後ECM時代に見られる静謐で抒情的なジャレットとはまた異なる、若き日の爆発的創造力を示す証拠となっています[1][3][5]。
- ジャレット自身がジャズの限界を模索していた時期の記録であり、単なる「ピアノ・トリオの名盤」を超えた、1960年代末の音楽的感受性や時代性を凝縮したドキュメント的価値も高い一枚です。
- 「My Back Pages」などにおける大胆な解釈や、現代的なフリージャズへのアプローチは、その後のピアノ・トリオの在り方に新しい可能性を提示しました。
締めくくると、『サムホエア・ビフォー』は若きジャレットの才能と挑戦に満ちた、時代の息吹が感じられる鮮烈なライブ・アルバムです。ジャズ・ファンのみならず、幅広い音楽リスナーに今なお新鮮な感動を与え続ける作品です[1][3][5]。
- https://en.wikipedia.org/wiki/Somewhere_Before
- https://www.discogs.com/master/218104-Keith-Jarrett-Trio-Somewhere-Before
- https://jazzjournal.co.uk/2022/12/30/jj-12-82-keith-jarrett-somewhere-before/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Keith_Jarrett
- https://kaji-jazz.hatenablog.com/entry/2023/07/08/060000
- https://www.allmusic.com/album/somewhere-before-mw0000196472
- https://en.wikipedia.org/wiki/Somewhere_(Keith_Jarrett_album)
- https://www.discogs.com/release/16096739-Keith-Jarrett-Trio-Somewhere-Before
- https://ticro.com/products/k00001332
- https://jazztimes.com/reviews/albums/keith-jarrettgary-peacockjack-dejohnette-somewhere/
- https://wmg.jp/keith-jarrett/discography/9932/
- https://ototoy.jp/_/default/p/369212
- https://ecmrecords.com/product/somewhere-keith-jarrett-gary-peacock-jack-dejohnette/
- https://ecmreviews.com/tag/keith-jarrett-trio/
- https://wmg.jp/keith-jarrett/discography/7182/
- https://www.discogs.com/release/3575392-Keith-Jarrett-Trio-Somewhere-Before
- https://www.popmatters.com/171557-keith-jarrett-trio-somewhere-2495756443.html
- https://www.youtube.com/watch?v=H4_Eg9f0LJ0
- https://auctions.yahoo.co.jp/search/search/keith%20jarrett%20somewhere%20before/22260/
- https://eastzono.seesaa.net/article/69729538.html



