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クリーム『グッバイ・クリーム』

クリーム『グッバイ・クリーム』
クリーム(Cream)『グッバイ・クリーム』(Goodbye)

Cream(クリーム)の『Goodbye』(邦題:グッバイ・クリーム)は、1969年に発表されたバンド最後のオリジナル・アルバムであり、同時に解散の挨拶状のような作品として位置づけられています。
半分がライヴ音源、半分がスタジオ録音という構成自体が、ツアーで鍛えられた即興性とスタジオワークによる作曲性の両面を一枚に封じ込めようとした、ある種のコンセプトを物語っていると言えます。

背景とコンセプト

本作が企画された時点で、クリームはすでに解散が公にされていました。
マネージャーのロバート・スティグウッドが『Wheels of Fire』のリリース直前に解散を発表し、その後「フェアウェル・ツアー」と最終公演を行うことが決まっていたため、『Goodbye』は“別れの印”としてレーベル側から強く要請されたアルバムでした。
アトランティック/ATCOのアーメット・アーティガン(Ahmet Ertegun)は、解散前にもう一作を残すよう説得したと言われ、そうした外圧と、メンバー間の軋轢や倦怠感が複雑に絡み合った中で制作されています。

当初は『Wheels of Fire』のように、スタジオ盤とライヴ盤から成る2枚組にする構想もありましたが、十分な新曲素材が揃わなかったため、結果的にライヴ3曲とスタジオ3曲の1枚ものに縮小されています。
つまり、アルバム全体のコンセプトは、壮大な構想と現実的制約、そしてバンド終焉の空気が同居した“ミニマム版『Wheels of Fire』による別れのメッセージ”といった性格を帯びているといえるでしょう。

音楽性とサウンドの特徴

音楽的には、オープニングを飾るライヴ・トラック群が、クリームの代名詞であるハードで長尺なブルース・ロック・ジャムをそのままパッケージしています。
1968年10月19日、ロサンゼルスのフォーラム公演で録音されたこれらの曲は、フェリックス・パパラルディ(Felix Pappalardi)のプロデュースのもと、ラウドでラフな演奏をそのまま捉えた作りで、トリオ編成ならではの音の隙間と瞬発力が強調されています。
一方で、同じライヴ音源でも『Wheels of Fire』に比べると録音と演奏が引き締まっていると評価する向きもあり、オールミュージックのスティーヴン・トマス・アールワインは、本作を“ハードでヘヴィなロック”であり、強力な瞬間の集合体と評しています。

後半のスタジオ・サイドは、3人それぞれが1曲ずつ提供しており、ソングライティングやアレンジ面での個性がくっきりと浮かび上がっています。
「Badge」や「Doing That Scrapyard Thing」では、エリック・クラプトンがギターをハモンドオルガンのレスリー・スピーカーに通しており、従来のマーシャル直結の歪みとは異なる、揺らぎと奥行きのあるトーンが特徴的です。
また、3曲すべてにピアノやオルガンといったキーボード類が導入され、ジャック・ブルースやプロデューサーのフェリックス・パパラルディが彩り豊かなコードワークとテクスチャーを加えています。
こうした要素により、後期クリームのサウンドは単なるブルース・ロックを超え、ポップス、サイケデリック、アートロック的な色彩を帯びたものになっています。

制作エピソードと参加ミュージシャン

ライヴ・トラックは前述の通り、フェアウェル・ツアー中のロサンゼルス・フォーラム公演で、パパラルディとエンジニアのエイドリアン・バーバー、ビル・ハルバソンによって録音されました。
ツアー終了後、1968年11月にロサンゼルスのウォリー・ハイダー・スタジオで3日間にわたってスタジオ・セッションが行われ、後にロンドンのIBCスタジオでオーバーダビングが追加されています。
この短期間に集中して録られた3曲は、それぞれクラプトン、ブルース、ジンジャー・ベイカーが作者となっており、ラストアルバムでありながら、バンド内の力学をうかがわせる配分になっています。

特筆すべきエピソードとして、「Badge」のレコーディングにはジョージ・ハリスンが参加していることが挙げられます。
契約上の理由からクレジットでは「L’Angelo Misterioso」と偽名で表記されていますが、彼はクラプトンと共作でこの曲を書き、リズム・ギターとしてもセッションに加わりました。
また、パパラルディはプロデューサーとしてだけでなく、ピアノやメロトロンを演奏し、スタジオ・トラックに厚みと独特の浮遊感を付与しています。
このように、『Goodbye』の制作現場には、すでに次の時代を切り開く人脈とサウンドの萌芽が見え隠れしていると言えるでしょう。

Cream(クリーム)

  • ジャック・ブルース(Jack Bruce):ベース、ボーカル
  • エリック・クラプトン(Eric Clapton):ギター、ボーカル
  • ジンジャー・ベイカー(Ginger Baker):ドラムス、パーカッション

トラック・リスト

Side 1

  1. アイム・ソー・グラッド(I'm So Glad)/ライブ録音 - 9:11
  2. 政治家(Politician)/ライブ録音 - 6:19

Side 2

  1. トップ・オブ・ザ・ワールド(Sitting on Top of the World)/ライブ録音 - 5:01
  2. バッジ(Badge) - 2:45
  3. スクラップヤード(Doing That Scrapyard Thing) - 3:14
  4. ホワット・ア・ブリングダウン(What a Bringdown) - 3:56

発表時の反響と評価

1969年2月のリリース時、『Goodbye』はクリームの解散を受けた“記念碑的作品”として注目されましたが、批評家の評価は一様ではありませんでした。
英国の音楽紙『Melody Maker』は「ドラム・ソロはないが、3人とも絶好調」と高く評価し、『Record Mirror』も“惜別の品としては十分に価値がある”としつつ、驚天動地というほどではないとやや抑えめの賛辞を送っています。
一方で、『Rolling Stone』誌のレイ・レゾスは、ライヴ・トラックが元曲のスタジオ・バージョンに劣るとし、スタジオ・サイドについても、ブルースでない楽曲に無理にブルース奏法を押し込んでいると批判的でした。

その後の再評価においても、見解は分かれています。
オールミュージックはライヴの出来が『Wheels of Fire』より良好で、スタジオ面もバンドのピークに近いと肯定的に述べる一方、ローリング・ストーンのアルバム・ガイドでは“美しいスタジオ作に対しライヴは凡庸”と、未完成な印象を指摘しています。
それでも、ロバート・クリストガウは本作を自身のお気に入りのクリーム作品として挙げており、1978年の批評家投票『Critic's Choice: Top 200 Albums』でもロック史上148位に選ばれるなど、一定の評価を保ち続けてきました。
近年のレビューでは、“制作過程の分裂と葛藤そのものが音楽に刻印されており、それが解散アルバムとしてのリアリティを与えている”とする見方も見られます。

特筆すべきポイント

『Goodbye』でまず特筆されるのは、「Badge」というクラプトン/ハリスン共作曲の存在です。
コンパクトなポップ構造と印象的なギター・リフを持つこの曲は、クリーム作品の中でも屈指のメロディアスな1曲として後年まで愛され、シングルとしても成功を収めました。
多くの批評家が、アルバムを通して最も優れたトラックとして「Badge」を挙げており、本作の“決定打”と見なされています。

もうひとつ重要なのは、本作が“スーパートリオ”としてのクリーム像と、その限界を同時に露呈している点です。
ライヴ面では相変わらずのテクニカルな長尺プレイが繰り広げられる一方で、スタジオ面にはよりソングライティング主体のアプローチが見られ、バンドがただのジャム・バンド以上のものを目指していたことが伝わってきます。
しかし同時に、その二つの側面が一枚のアルバムの中で最後まで有機的に融合しきれていないこともまた、解散間際という状況を象徴しているようです。

結果として『Goodbye』は、完璧なラスト・アルバムというよりも、バンドの内部矛盾、外部からのプレッシャー、そしてそれでもなお溢れ出る創造性が、少し歪な形で記録されたドキュメントのような作品になっています。
そこにこそ、クリームというバンドの栄光と影、そして1960年代ロック・シーンのスピード感が凝縮されていると考えることができるのではないでしょうか。

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Citations:

  • https://en.wikipedia.org/wiki/Goodbye_(Cream_album)
  • https://glidemagazine.com/298939/55-years-later-after-four-albums-cream-says-farewell-with-impactful-goodbye-album/
  • https://progrography.com/cream/cream-goodbye-1969/
  • https://ultimateclassicrock.com/cream-goodbye/
  • https://www.sputnikmusic.com/review/7305/Cream-Goodbye/
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