SHARE:

ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』

ブルース・スプリングスティーン『闇に吠える街』
ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)『闇に吠える街』(Darkness on the Edge of Town)

『Darkness on the Edge of Town』(邦題:闇に吠える街)は、前作『Born to Run』で一気にスターダムに駆け上がったブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)が、「夢のその先」にある現実と向き合ったアルバムです[1]。

『闇に吠える街』のコンセプトとテーマ

本作の中心にあるのは、アメリカン・ドリームの翳り、労働者階級の日常、そして「負けそうになりながらも踏みとどまる」人物たちの物語です[2]。
『Born to Run』が逃避と解放のロマンを描いた「映画的」アルバムだとすれば、『Darkness』は逃げ場のない現実の中でどこまで自分を守れるか、という「現実劇」のような位置づけになります[3]。

歌詞に登場する人物たちは、大都市のヒーローではなく、小さな町で工場に通い、家族や仕事、金銭問題を抱えながら、それでも「約束」や「誇り」を守ろうとする普通の人々です[1]。
アルバム全体は、闇(darkness)がいつも生活のすぐ外側に潜んでいるというイメージで統一されており、その闇に呑み込まれないように踏ん張る“everyman”を多角的に描いたコンセプト・アルバムと見ることができます[2]。

音楽性とサウンドの特徴

サウンド面では、『Born to Run』の壁のようなオーケストレーションをそぎ落とし、Eストリート・バンドの生々しいアンサンブルを前面に出した、タイトでドライなロック・アルバムになっています[4]。
「Badlands」や「Candy's Room」などでは、パンク以降の緊張感を取り込んだ切り立ったビートと、重心の低いギター・リフが印象的で、疾走感よりも「踏みしめる」感覚が強いです[5]。

録音では、基本的にバッキングをライヴ感覚で一発録りし、オーバーダビングを最小限に抑える方針がとられましたが、スタジオのカーペットが響きを殺してしまうなど、サウンド作りは難航しました[6]。
その結果として出来上がったサウンドは、華やかさよりも硬質さと中音域の密度が際立ち、スプリングスティーン自身も「よりダークでグリット感あるアルバム」を狙ったとされています[7]。

制作過程とエピソード

制作前には、前マネージャーとの契約をめぐる訴訟に巻き込まれ、スプリングスティーンは長期間レコーディングができない状態に置かれていました[8]。
この訴訟が解決した後、彼は一気に創作エネルギーを爆発させ、セッションでは50〜70曲もの楽曲が生まれたと伝えられています(実際に存在が確認されているのは32曲ほど)[7]。

しかし、最終的にアルバムに収めるのは10曲だけに絞られ、多くのポップでキャッチーな曲――「Because the Night」など――は、あえて「暗く、厳しいトーン」を保つために外されました[4]。
スタジオはニューヨークのレコード・プラントで、改装中のコンクリート剥き出しの部屋を使ったため、特にドラム・サウンドの追求にかなりの時間が費やされたといわれます[9]。

参加ミュージシャンと制作スタッフ

本作の核を成すのは、言うまでもなくEストリート・バンドです。[1]​

  • ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen):ボーカル、ギター、プロデュース
  • ロイ・ビタン(Roy Bittan):ピアノ、バック・ボーカル(2曲目)
  • クラレンス・クレモンズ(Clarence Clemons):サックス(1,6,9曲目)、パーカッション、バック・ボーカル
  • ダニー・フェデリシ(Danny Federici):Hammond B3オルガン、グロッケンシュピール、バック・ボーカル
  • ガリー・タレント(Garry Tallent):ベース、バック・ボーカル
  • スティーヴン・ヴァン・ザント(Steven Van Zandt):リズム・ギター、バック・ボーカル、アシスタント・プロデューサー
  • マックス・ワインバーグ(Max Weinberg):ドラム、バック・ボーカル

プロデュースはスプリングスティーンとジョン・ランドウ(Jon Landau)に加え、スティーヴン・ヴァン・ザントがアシスタント・プロデューサーとして関わり、エンジニアとミックスはジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)、チャック・プロトキン(Chuck Plotkin)が担当しています[9]。
ジャケットやプロモーション写真を撮影したフランク・ステファンコ(Frank Stefanko)の冷たい室内光のポートレイトは、アルバムの内容と響き合う“疲れてもなお戦い続ける男”のイメージを視覚的に刻みつけました[10]。

トラック・リスト

Side 1

  1. バッドランド(Badlands) - 4:03
  2. アダムとケイン(Adam Raised a Cain) - 4:34
  3. サムシング・イン・ザ・ナイト(Something in the Night) - 5:14
  4. キャンディーズ・ルーム(Candy's Room) - 2:48
  5. レーシング・イン・ザ・ストリート(Racing in the Street) - 6:54

Side 2

  1. プロミスト・ランド(The Promised Land) - 4:28
  2. ファクトリー(Factory) - 2:19
  3. ストリーツ・オブ・ファイアー(Streets of Fire) - 4:03
  4. 暗闇へ突走れ(Prove It All Night) - 4:00
  5. 闇に吠える街(Darkness on the Edge of Town) - 4:30

発表時の反響とその後の評価

『闇に吠える街』は1978年6月2日にリリースされ、全米チャートでトップ5入りを果たし、トリプル・プラチナに認定されています[7]。
批評面ではNMEの1978年年間ベストで1位、Record MirrorとRolling Stoneでは2位に選出されるなど、その年を代表するロック・アルバムとして高く評価されました[8]。

Rolling Stoneは、本作を「ロックンロールの陶酔の“裏側”を、容赦ない正直さで描いた自己探求的なレコード」と評し、スプリングスティーンが“ロックの未来”という過剰な期待をくぐり抜けたあとの、より成熟した作家としての新たな出発点と位置づけています[11]。
現在では彼のキャリアの中でも最重要作のひとつと見なされ、後の『Nebraska』『The Ghost of Tom Joad』など、社会的・内省的な作品群の原点となったアルバムとしばしば語られています[12]。

特筆すべきポイント

本作で特に印象的なのは、オープニングの「Badlands」とタイトル曲「Darkness on the Edge of Town」という両端の曲が、まるで一冊の小説の冒頭とエピローグのように機能している点です[13]。
冒頭ではまだ怒りと希望が入り混じったエネルギーが鳴り響いていますが、ラストでは、失ったものを抱えながらも「暗闇の縁」に立ち続ける覚悟だけが静かに残されます[12]。

また、セッションで生まれながらアルバムから外された楽曲群は、後年ボックスセット『The Promise: The Darkness on the Edge of Town Story』で公開され、本作制作時の創作の幅広さと、その中からあえて“暗さ”と“焦点の絞れた語り”を選び抜いた編集方針を浮き彫りにしました[3]。
『Darkness』のLPを針を落として聴くとき、そこにあるのはスターの成功物語ではなく、訴訟で足止めされ、日常の苦さを噛みしめながら、それでも「自分の歌うべきこと」を見失わなかった一人のソングライターの、非常にパーソナルでストイックな決意表明だと感じられるのではないかと思います[1]。

¥10,850(2026/02/12 16:01時点 | Yahooショッピング調べ)

Citations:
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Darkness_on_the_Edge_of_Town
[2] http://spinelessbooks.com/mccaffery/bruuuce/index.html
[3] https://brucespringsteen.net/albums/darkness-on-the-edge-of-town/
[4] https://americansongwriter.com/the-meaning-behind-darkness-on-the-edge-of-town-by-bruce-springsteen/
[5] https://thequietus.com/opinion-and-essays/anniversary/bruce-springsteen-darkness-at-the-edge-of-town-review-anniversary/
[6] http://cryer.org.uk/Darkness_on_the_Edge_of_Town/
[7] https://ultimateclassicrock.com/bruce-springsteen-darkness-on-the-edge-of-town/
[8] https://nowherebros.wordpress.com/2014/07/13/bruce-springsteen-darkness-on-the-edge-of-town-1978/
[9] http://brucebase.wikidot.com/stats:darkness-on-the-edge-of-town-studio-sessions
[10] https://www.facebook.com/groups/411825182351802/posts/3046650088869285/
[11] https://www.yahoo.com/entertainment/music/articles/did-think-bruce-springsteens-darkness-131803815.html
[12] https://albumism.com/features/bruce-springsteen-darkness-on-the-edge-of-town
[13] https://ultimateclassicrock.com/bruce-springsteen-darkness-on-the-edge-of-town-track-by-track/

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします
あなたへのおすすめ