ブライアン・フェリー『ミスター・ダンディー』

Bryan Ferry(ブライアン・フェリー)の『Let’s Stick Together』(邦題:ミスター・ダンディー)は、1976年に発表された3作目のソロ・アルバムですが、いわゆる「コンセプト・アルバム」というより、シングル、B面曲、EP「Extended Play」を寄せ集めた独特の編集盤という性格が強い作品です。
前2作のような明確なアルバム企画ではなく、ロキシー・ミュージック休止中に動いていた複数の録音プロジェクトを一枚にまとめることで、フェリーの音楽的嗜好やソロ路線の方向性が、結果的にくっきりと浮かび上がった作品だと言えると思います[1]。
『ミスター・ダンディー』のコンセプトと位置づけ
本作は、ロキシー・ミュージックが一時活動休止に入り、フェリーのソロ活動に注目が集まっていたタイミングでリリースされました。
アルバムの多くは、ロキシー時代の楽曲セルフ・カバーや50~60年代ポップ/R&Bのカバーで構成されており、フェリーが「ポップ・スタンダードと自作曲を同列に扱う」スタイルをさらに押し進めた作品になっています。
その意味では、彼の「カバー職人」としての資質と、洗練されたイメージ戦略がひとつに結晶した、ソロ初期を象徴するアルバムと見ることができます[2]。
『ミスター・ダンディー』の音楽性とサウンド:R&Bとグラムロックの融合
音楽的には、ブルース/R&Bをベースにしながらも、ロキシー・ミュージック由来のアート感覚と洗練されたポップ・センスが同居しているのが大きな特徴です。
タイトル曲「Let’s Stick Together」は、ウィルバート・ハリスン作のR&Bナンバーをアップテンポなロックンロールに仕立て直したもので、ソプラノ/テナーサックスが前に出たホーン・アレンジと、ピアノとギターが切り込むドライなビートが印象的です。
一方、「You Go To My Head」や「It’s Only Love」といったスタンダード系のカバーでは、ストリングスとエレクトリック・ピアノ、ささやくようなフェリーのヴォーカルが絡み合い、後年の“ラウンジ風フェリー像”につながる官能的でクールなサウンドがすでに確立されています[3]。
また、ロキシー・ミュージック曲「Casanova」などのセルフ・リメイクでは、オリジナルのひねくれたグラム色が薄まり、リズムを前に出したソリッドなロック/ファンク寄りのアレンジに作り替えられている点も興味深いところです。
全体として、豪奢なサウンドスケープよりも、リズムとグルーヴ、そしてフェリーの声そのものを際立たせる方向に舵を切ったアルバム、と捉えられています[4]。
制作背景とエピソード
制作は主に1974~76年にかけて段階的に行われ、シングル用セッションやEPの録音が、そのままアルバム構成の核になっています。
ロキシーの活動休止期間中だったこともあり、メンバーの多くが自然にソロ・セッションへ流れ込み、バンドとソロの境界が非常に曖昧な状態で録音が進んだと言われます[1]。
タイトル曲のプロモーション・ビデオには、当時のパートナーであるモデルのジェリー・ホール(Jerry Hall)が虎柄の衣装で登場し、コーラスの「叫び」をみせる演出が話題になりました。
このビデオのエレガンスと退廃が混じったヴィジュアルは、80年代以降のファッション感覚やMTV的美学を先取りしたものとして、しばしば引用されます[5]。
参加ミュージシャン:ジョン・ウェットン、クリス・スペディングら豪華布陣
参加ミュージシャンの顔ぶれは豪華で、ロキシー・ミュージック人脈と英国ロックの名手たちが多数集結しています[6]。
- ブライアン・フェリー(Bryan Ferry):ボーカル、キーボード、ハーモニカ
- エディ・ジョブソン(Eddie Jobson):シンセサイザー、ヴァイオリン
- クリス・スペディング(Chris Spedding):ギター
- ニール・ハバード(Neil Hubbard):リードギター (2)
- デビッド・オリスト(David O'List):リードギター (7)
- フィル・マンザネラ(Phil Manzanera):リードギター (10)
- ジョン・ウェットン(John Wetton):ベース (1、2、4、6~9、11)
- リック・ウィルス(Rick Wills):ベース (3)
- ジョン・ポーター(John Porter):ベース (5)
- ジョン・ガスタフソン(John Gustafson):ベース (10)
- ポール・トンプソン(Paul Thompson):ドラム
- モリス・パート(Morris Pert):パーカッション
- メル・コリンズ(Mel Collins):ソプラノサックス
- クリス・マーサー(Chris Mercer):テナーサックス
- マーティン・ドローヴァー(Martin Drover):トランペット
- アン・オデル(Ann Odell):ストリングスアレンジメント (4)
- ヴィッキー・ブラウン(Vicki Brown):コーラス
- ドリーン・チャンター(Doreen Chanter):コーラス
- ヘレン・シャペル(Helen Chappelle):コーラス
- パディ・マクヒュー(Paddie McHugh):コーラス
- ジャッキー・サリバン(Jackie Sullivan):コーラス
- マーサ・ウォーカー(Martha Walker):コーラス
ロキシー勢のマンザネラ、トンプソン、ジョブソンに加え、スペディングやウェットンら、ミッド70年代英国ロック/フュージョンを代表するプレイヤーが一堂に会しており、フェリーの音楽的ネットワークの広さを示す作品にもなっています[1]。

トラック・リスト
Side 1
- レッツ・スティック・トゥゲザー(Let's Stick Together) - 3:00
- カサノヴァ(Casanova) - 2:46
- シー・ブリーズィズ(Sea Breezes) - 6:10
- シェイム・シェイム・シェイム(Shame, Shame, Shame) - 3:15
- 2HB(2HB) - 3:50
Side 2
- ザ・プライス・オブ・ラヴ(The Price of Love) -3:25
- チャンス・ミーティング(Chance Meeting) - 3:35
- イッツ・オンリー・ラヴ(It's Only Love) - 3:45
- 忘れられぬ君(You Go to My Head) - 2:50
- リ-メイク・リ-モデル(Re-Make/Re-Model) - 2:40
- ハート・オン・マイ・スリーヴ(Heart on My Sleeve) - 3:30
発表時の反響と評価
アルバムからのタイトル曲「Let’s Stick Together」は、フェリーのソロ最大のヒット・シングルとなり、UKシングル・チャートで4位、オーストラリアでは2週間にわたり1位を記録しました。
シングルの成功がアルバムの存在感を大きく押し上げ、R&Bルーツを洗練されたポップに昇華した代表曲として、現在までフェリーの“看板曲”のひとつに数えられています[7]。
アルバム自体は、同時代の評論では「編集盤的な寄せ集め」という評価も受けましたが、後年になるほど「フェリーのソロ像を決定づけた過小評価の一枚」「人間味を取り戻した重要作」として語られることが増えています。
特に、タイトル曲と「Casanova」「You Go To My Head」「The Price Of Love」「It’s Only Love」などのトラックは、本作のハイライトとして繰り返し取り上げられています[4]。
特筆すべきポイント
特筆すべきは、アルバムそのものが“コンセプト作品”というより、「カバー/セルフ・カバーを通じて、ブライアン・フェリーというパーソナリティを立体的に見せる」という逆説的なコンセプトを持ってしまった点です。
過去の名曲を自分のスタイルで塗り替え、さらに自作曲までも「カバー」のように扱うことで、オリジナル/他者作品という境界を曖昧にし、すべてを“フェリー印”の洗練されたポップスとして提示してみせます[2]。
また、タイトル曲のビデオとそこに表現された洒脱で少し退廃的なイメージは、70年代末から80年代にかけてのポップ・カルチャーに強い影響を与えたとされ、フェリー自身も「視覚と音楽のトータルなスタイル」を打ち出す先駆的な存在として再評価されています。
編集盤という出自にもかかわらず、『Let’s Stick Together』は、ブライアン・フェリーが“ロキシーのフロントマン”から“唯一無二のスタイリッシュなソロ・アーティスト”へと変貌していく、その過程を最も生々しく切り取ったアルバムの一つだといえるのではないでしょうか[8]。







Citations:
[1] https://en.wikipedia.org/wiki/Let's_Stick_Together
[2] https://dev.bryanferry.com/lets-stick-together-history-tab/
[3] https://en.wikipedia.org/wiki/Let's_Stick_Together_(song)
[4] https://www.rocktownhall.com/blogs/overlooked-gems-of-my-lifetime-bryan-fer/
[5] https://www.youtube.com/watch?v=tNGVLgV7jQ4
[6] https://bryanferry.com/releases/lets-stick-together/
[7] http://everythinggonegreen.blogspot.com/2020/11/classic-album-review-bryan-ferry-lets.html
[8] https://www.youtube.com/watch?v=Z9EbR0ckb40

