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イーグルス『ロング・ラン』

イーグルス『ロング・ラン』
イーグルス(Eagles)『ロング・ラン』(The Long Run)

『The Long Run』(ロング・ラン)は、Eagles(イーグルス)が1979年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、『ホテル・カリフォルニア』の巨大な成功の後に制作された「プレッシャーと崩壊の果て」に位置する作品です。
7×プラチナを記録した商業的成功作でありながら、バンド内の疲弊や対立が色濃く反映された、どこか終末感を帯びたアルバムとして語られています[1]。

コンセプトと制作背景

当初、このアルバムは『ホテル・カリフォルニア』に続くダブル・アルバムとして構想されましたが、実際には10曲入りのシングル・アルバムに縮小されています。制作の遅れと曲作りの難航が主な理由だったとされています[3]。​

タイトル「The Long Run」は、成功を維持し続けることの過酷さと、バンド自身の長い道のりを暗示しており、「長距離走としてのロック・バンド人生」をセルフ・リフレクティブに捉えたものと解釈されています[4]。

バンドメンバーは、前作『Hotel California』の大成功を超えることを目指し、完璧なアルバムを作ろうと試みました[5]。しかし、Don Henleyによると、長いツアーの後で「完全に燃え尽きて」おり、「肉体的、感情的、精神的、創造的に疲弊していた」状態で録音を始めたといいます[1]。

音楽性とサウンドの特徴

  • 全体としては、カントリー・ロックのルーツを保ちつつ、R&B、ソウル、ストレートなロックンロール、ファンク風味など、多様なスタイルが一枚の中に並置されています[1]。​
  • サウンド面では、
    • ヘンリー&フライによるタイトなソングライティングとヴォーカル・ハーモニー
    • ジョー・ウォルシュとドン・フェルダーのツイン・ギターによる重厚なリフとスライド・ギター
    • ティモシー・B・シュミットのソウルフルなベースと高音コーラス
      といった要素が組み合わさり、70年代後期のアメリカン・ロックを象徴する洗練されたアンサンブルが特徴です[4]。​
  • ただし、アルバム全体は「コンセプト一体型」というより、「5人のソロ・アーティストが一枚に同居しているようだ」と評されるほど曲ごとのカラーが強く、様々な個性がぶつかり合うモザイク的な構成になっています[7]。​

主要曲と制作エピソード

  • 「The Long Run」
    タイトル曲は、R&B風のミディアム・グルーヴに乗せて、「この先も走り続けられるのか?」という自己言及的なテーマを歌った曲で、ヘンリーが何度も練り直したと言われるナンバーです[6]。​
  • 「Heartache Tonight」
    グレン・フライがミシガン時代からの友人ボブ・シーガー、そしてJ.D.サウザーと共作したロックンロール・チューンで、アルバムからのリード・シングルとして全米1位を獲得し、グラミー賞「Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal」を受賞しました[1]。​
  • 「I Can’t Tell You Why」
    新加入のティモシー・B・シュミットが中心となって書かれたソウル寄りのバラードで、ヘンリーは録音途中に「これが君のヒットだ」と告げたと伝えられています。 フェンダー・ローズや滑らかなギターが醸し出すアーバンなフィーリングは、Eaglesの中でも異色のAOR的名曲として高く評価されています[4]。​
  • 「In the City」
    元々は映画『The Warriors』のサウンドトラックとしてジョー・ウォルシュ名義で録音された曲を、バンド・ヴァージョンとして再構築したものです。 よりハードなロック寄りのアレンジとなり、ウォルシュのギターとバンドのハーモニーが合流した象徴的トラックになっています[1]。​
  • 「Those Shoes」
    ドン・フェルダーが主導したこの曲では、フェルダーとウォルシュの2本のトークボックスが重ねられ、ヘンリーの渋いヴォーカルと共にアルバム中もっともヘヴィなグルーヴを生み出しています[8]。​
  • 「The Sad Café」
    アルバムのクロージングを飾るこの曲は、ロサンゼルスのクラブ「Troubadour」と70年代ウェストコースト・シーンへの郷愁を込めたバラードで、「後悔に満ちた締めくくり」として批評家からも高く評価されました。 ローリング・ストーン誌はデヴィッド・サンボーンのサックスをフィーチャーした「スムース・ジャズ風アレンジ」を特筆しています[1]。​

トラック・リスト

Side 1

  1. ロング・ラン(The Long Run) - 3:42
  2. 言いだせなくて(I Can't Tell You Why) - 4:56
  3. イン・ザ・シティ(In the City) - 3:46
  4. ディスコ・ストラングラー(The Disco Strangler) - 2:46
  5. ハリウッドよ永遠に(King of Hollywood) - 6:27

Side 2

  1. ハートエイク・トゥナイト(Heartache Tonight) - 4:27
  2. ゾーズ・シューズ(Those Shoes) - 4:57
  3. ティーンエイジ・ジェイル(Teenage Jail) - 3:44
  4. グリークスはフリークスお断り(The Greeks Don't Want No Freaks) - 2:21
  5. サッド・カフェ(The Sad Café) - 5:35

参加ミュージシャンと制作陣

イーグルス

  • ドン・ヘンリー(Don Henley):ドラムス、リード&バック・ヴォーカル
  • グレン・フライ(Glenn Frey):ギター、キーボード、リード&バック・ヴォーカル
  • ジョー・ウォルシュ(Joe Walsh):リード/スライド・ギター、リード&バック・ヴォーカル
  • ドン・フェルダー(Don Felder):リード/リズム・ギター、トークボックス、バック・ヴォーカル
  • ティモシー・B・シュミット(Timothy B. Schmit):ベース、リード&バック・ヴォーカル(Eaglesとして初参加)

ゲスト・ミュージシャン

  • ジミー・バフェット(Jimmy Buffett):「The Greeks Don't Want No Freaks」のバックボーカル
  • ザ・モンスタートーンズ(The Monstertones):「The Greeks Don't Want No Freaks」のバックボーカル(Eaglesのツアークルーやローディーではないかと推測されている)
  • デヴィッド・サンボーン(David Sanborn):「The Sad Café」のアルトサックス
  • ボブ・シーガー(Bob Seger):「Heartache Tonight」のバックボーカル(ライナーノーツにはクレジットされていない)
  • ジョー・ヴィターレ(Joe Vitale):ピアノ、エレクトリックピアノ
  • プロデュース
    アルバムはビル・シムジク(Bill Szymczyk)がプロデュースを担当し、複数スタジオを転々としながら綿密なオーヴァーダビングと編集が行われました。 メンバーが断片的なリフやコード進行だけを持ち寄り、スタジオで構築していくやり方が多く、その過程で未完成のまま終わったトラックも多数あったと語られています[6]。​

発表時の反響と評価の変遷

  • リリース当時、アルバムは全米1位を獲得し、最終的に7×プラチナまで到達しましたが、前作『Hotel California』と比べると批評家の評価は分かれました。 一部の批評家は「やや気勢を失った作品」「前作の影に隠れた」と評し、Greil Marcusは「ぬるく、決定打に欠ける」と書いています[9]。​
  • 一方で、「Heartache Tonight」「I Can’t Tell You Why」「The Long Run」などのシングルは高く評価され、後年のベスト・リストでも上位にランクインしています。 時間の経過とともに、アルバム全体も「Eaglesのクラシック期を締めくくる多彩で奥行きのある作品」として再評価が進み、「最もバラエティに富んだ一枚」と称するレビューも見られます[10]。​
  • また、『The Long Run』はドン・フェルダーがフル参加する最後のスタジオ作であり、同時に長期解散前のラスト・アルバムという点でも歴史的な位置づけを持っています[2]。​

特筆すべき点・トリビア

  • レコーディング期間中、メンバー間の緊張は頂点に達し、ドラッグ問題やソングライティング・クレジットをめぐる不満も重なって、「5人のソロ・アーティストが1つの看板の下で競合しているような状態」だったと回想されています[2]。​
  • 当初のセッションで録られながら未完成のまま残されたトラックの一部は、のちにジョー・ウォルシュのソロ曲「Heavy Metal」などに形を変えて再利用されました。 このことは、当時のEaglesがいかに素材を量産しつつも、完成まで持ち込むエネルギーを失いつつあったかを示しています[6]。​
  • 「The Long Run」という皮肉めいたタイトル通り、このアルバムの制作はバンドの体力と関係性を消耗させ、結果として解散へと至る重要な転換点になりました。 にもかかわらず、そこから生まれた楽曲群は、アメリカン・ロックの一つの到達点として現在も多くのリスナーに愛されています[11]。​
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  1. https://en.wikipedia.org/wiki/The_Long_Run_(album)
  2. https://www.reddit.com/r/ToddintheShadow/comments/uhgx4d/timeline_of_the_long_run_by_the_eagles/
  3. https://americansongwriter.com/behind-the-album-how-the-eagles-scratched-and-clawed-their-way-to-one-more-hit-album-with-the-long-run/
  4. https://www.culturesonar.com/in-defense-of-the-eagles-the-long-run/
  5. https://www.rhino.com/article/the-one-after-the-big-one-eagles-the-long-run
  6. https://bestclassicbands.com/eagles-long-run-szymczyk-interview-8-24-199/
  7. https://www.classicrockreview.com/2014/12/1979-eagles-the-long-run/
  8. https://www.guitarworld.com/artists/guitarists/don-felder-on-the-making-of-the-eagles-the-long-run
  9. https://greilmarcus.net/2015/03/10/the-eagles-the-long-run-1279/
  10. https://www.subjectivesounds.com/musicblog/eagles-the-long-run-album-review
  11. https://tasteofcountry.com/the-eagles-the-long-run-story-behind-the-album/
  12. https://www.facebook.com/groups/wheregoodtastegoestodie/posts/1408674826849496/
  13. https://www.goldminemag.com/articles/producer-bill-szymczyk-is-in-it-for-the-long-run/
  14. https://www.reddit.com/r/ToddintheShadow/comments/1frwxlp/rock_artists_whose_legacies_have_been_destroyed/
  15. https://www.youtube.com/watch?v=skC2GToR1uY
  16. https://musiccritic.com/rock/eagles_longrun.htm
  17. https://www.thecowl.com/the-long-run/
  18. https://www.scribd.com/document/524890560/The-Long-Run-by-the-Eagles
  19. https://music.apple.com/us/album/the-long-run/635774271
  20. https://www.jerryjazzmusician.com/beatles-critical-reviews/
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