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キース・ジャレット『パーソナル・マウンテンズ』

キース・ジャレット『パーソナル・マウンテンズ』
キース・ジャレット(Keith Jarrett)『パーソナル・マウンテンズ』(Personal Mountains)

Keith Jarrett(キース・ジャレット)の『Personal Mountains』(パーソナル・マウンテンズ)は、いわゆる「ヨーロピアン・カルテット」の絶頂期を捉えたライヴ録音でありながら、録音から10年後にようやく世に出た、やや「秘蔵盤」のような位置づけのアルバムです。
東京での熱気あふれる即興性と、ECMらしい透明な音響美が同居していることが、この作品の大きな魅力だといえます[1]。

『パーソナル・マウンテンズ』の成り立ちとコンセプト

『パーソナル・マウンテンズ』は、1979年4月の日本ツアーで行われた複数のコンサートを録音した音源から構成されたライヴ・アルバムです。
しかしリリースはそれから10年後の1989年で、録音と発売の「時間差」自体が、この作品に特別なニュアンスを与えています[2]。
発表時点ではすでにヨーロピアン・カルテットは解散しており、「失われた黄金期」の記録が遅れて届けられた、という感触をファンに与えました。
その意味で、このアルバムは当時のECMが丹念にアーカイヴしていた音源の中から、「到達点」として意図的に提示された作品だと受け取ることができます[3]。

参加ミュージシャンとアンサンブルの特徴

演奏しているのは、ジャレットのいわゆるヨーロピアン・カルテットで、メンバーは以下の4人です[1]。

  • キース・ジャレット(Keith Jarrett):ピアノ、パーカッション
  • ヤン・ガルバレク(Jan Garbarek):テナー/ソプラノサックス
  • パレ・ダニエルソン(Palle Danielsson):ダブルベース
  • ヨン・クリステンセン(Jon Christensen):ドラムス

このカルテットは、アメリカのスタンダード路線とは異なる、「歌心のあるオリジナル曲」と「ヨーロッパ的叙情」「フォークやクラシックの要素」が溶け合ったサウンドで知られています。
ガルバレクの鋭くも透明なサックスは、しばしば北欧的な冷たさとスピリチュアルな熱を併せ持つと評され、ジャレットの流麗なピアノとぶつかり合いながら独特のドラマを生み出します。
ダニエルソンとクリステンセンのリズム隊は、単なる伴奏ではなく、メロディックなフレーズや色彩豊かなドラミングで、音楽全体を有機的にうねらせていることが特徴です[4]。

音楽性とサウンドの特徴

収録曲は全てジャレットのオリジナルで、「Personal Mountains」「Prism」「Oasis」「Innocence」の4曲から成る構成です。
いずれも長尺で、タイトル曲は16分台、「Oasis」は18分を超えるなど、ライヴならではの拡張されたフォームの中で、即興と構成感がせめぎ合っています[5]。

サウンド面では、ECMレーベルらしいクリアで立体的な録音が際立ち、ライヴにもかかわらずスタジオ作品のような精密さすら感じさせます。
同時に、観客の反応やステージ上のダイナミズムはしっかり捉えられており、静謐な空気の中で徐々に熱を帯びていく「場のエネルギー」がそのまま封じ込められているのが印象的です[3]。

タイトル曲「Personal Mountains」は、ガルバレクの力強いテーマ提示から始まり、ピアノとサックスが入れ替わりながら高揚していく、アルバムの象徴的なトラックです。
「Prism」では、ダニエルソンのベースが入口を作り、バラード的な情感と鋭いインタープレイが交差する中間テンポの世界が展開されます。
「Oasis」は、長大なフォームの中で、静と動、空白と密度が揺れ動く、組曲的なスケールの演奏であり、カルテットの即興能力の高さを如実に示しています[5]。

トラック・リスト

Side 1

  1. パーソナルマウンテン(Personal Mountains) - 16:02
  2. プリズム(Prism) - 11:15

Side 2

  1. オアシス(Oasis) - 18:03
  2. イノセンス(Innocence) - 7:16

制作背景とエピソード

録音は1979年4月、東京でのコンサート録音としてクレジットされており、ツアーの別テイクからは後年『Sleeper』という別アルバムも編まれています。
当時のECMは、ジャレットのソロ、アメリカン・トリオ、ヨーロピアン・カルテットと、多くのプロジェクトを同時進行で録音しており、『パーソナル・マウンテンズ』はその豊富なストックの中から、時をおいて選び出された一枚でした[1]。

録音・ミキシングには、ECMの看板エンジニアであるヤン・エリック・コングスハウグ(Jan Erik Kongshaug)が参加し、プロデュースはもちろんマンフレート・アイヒャー(Manfred Eicher)です。
二人のコンビは、残響を活かしつつも各楽器の輪郭をくっきり描く録音を得意としており、このアルバムでもライヴ会場の空気感と音像の明瞭さが絶妙なバランスで両立しています[2]。

発表時の評価と特筆すべき点

『パーソナル・マウンテンズ』は、AllMusicで4つ星評価を得ており、「ヨーロピアン・カルテットのディスコグラフィの中でも一つのピーク」と評されています。
批評家やファンからは、即興の自由さと構成の緊密さ、そしてカルテットのアンサンブルの成熟が高く評価されました[6]。

特筆すべき点としては、まず「録音から10年後のリリース」という時間的ギャップが挙げられます。
これにより、リスナーは70年代末のジャレットを、80年代末の耳で聴き直すことになり、結果としてこのアルバムは、ヨーロピアン・カルテットの「再発見」を促す役割を果たしました。
また、同じツアーから編まれた『Sleeper』と合わせて聴くことで、このカルテットがライヴの場でどれほど多彩な音楽世界を展開していたかが、より立体的に浮かび上がります[7]。

さらに、『パーソナル・マウンテンズ』は、ジャレットが後年「スタンダード・トリオ」で見せる歌心と、70年代ECM的な実験性・開放性のちょうど中間に位置する作品でもあります。
メロディの分かりやすさとフォームの大胆さが同居しているため、ジャレット入門としても、ヨーロピアン・カルテットの到達点としても味わうことができるアルバムだといえるでしょう[4]。

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  1. https://en.wikipedia.org/wiki/Personal_Mountains
  2. https://ecmrecords.com/product/personal-mountains-keith-jarrett-jan-garbarek-palle-danielsson-jon-christensen/
  3. https://ecmreviews.com/2012/02/18/personal-mountains/
  4. https://www.jazzmessengers.com/en/5022/albums-of-keith-jarrett
  5. https://sepeaaudio.com/music-recordings/cd/Jazz/Keith_Jarrett_Garbarek_Danielsson_Christensen_Personal_Mountains__CD/ECM_Records/ECM1382/
  6. https://www.allmusic.com/album/personal-mountains-mw0000653601
  7. https://www.jazzmusicarchives.com/album/keith-jarrett/personal-mountains(live)
  8. https://www.facebook.com/groups/2371397022/posts/10159867825762023/
  9. https://everyday-rec.ocnk.net/product/21181
  10. https://www.last.fm/music/Keith+Jarrett/Personal+Mountains
  11. https://musicbrainz.org/release/6f7f1a05-56de-3664-be96-7d0481098762
  12. https://en.debaser.it/keith-jarrett/personal-mountains/review
  13. https://www.facebook.com/groups/2371397022/posts/10159997187262023/
  14. https://www.herbmusic.net/album/keith-jarrett-personal-mountains-11779
  15. https://music.apple.com/jp/album/personal-mountains/1442233332
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