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ラリー・カールトン『シンギング・プレイング』

ラリー・カールトン『シンギング・プレイング』
ラリー・カールトン(Larry Carlton)『シンギング&プレイング』(Singing/Playing)

1973年にリリースされたLarry Carlton(ラリー・カールトン)の『Singing / Playing』(シンギング・プレイング)は、そのタイトルどおり「歌うこと」と「弾くこと」を同じ比重で提示した、彼のキャリアでも少し特異な位置づけにあるアルバムです[1]。

『シンギング & プレイング』のコンセプトと位置づけ

『Singing / Playing』は、スタジオ・ギタリストとして頭角を現しつつあった若きラリー・カールトンが、「ギターだけでなく、自分の声も前面に出す」ことを試みた作品です。
タイトルには、「ギターは歌うように弾き、歌もまたギターの延長として響かせる」という意識が込められていると解釈できます。
実際、アルバムの大半でカールトン自身がリード・ヴォーカルをとり、ギタリスト=サイドマンというイメージから一歩踏み出そうとする姿勢が鮮明です[2][3]。

音楽性・サウンドの特徴

音楽的には、ジャズ・ロック/フュージョンの萌芽、ウェストコースト的AOR感覚、ソウル/ポップスが自然に溶け合ったサウンドになっています。
全8曲・約31分というコンパクトな構成の中で、メロウなヴォーカル曲からインストのジャズ・フュージョンまでが、統一感のあるサウンド・デザインで並べられています。
ギターは滑らかなビブラートと歌心を前面に出したトーンが特徴で、リードもバッキングも決して速弾きに走らず、メロディをじっくり「歌わせる」アプローチが徹底されています。
リズムセクションはタイトかつ軽やかで、ピアノやエレピが和声的な色彩を加え、当時のロサンゼルスのスタジオ・サウンドらしい洗練を感じさせます[4]。

ラストの「Free Way」などインスト曲では、ギタリストとしての本領がより強く現れ、流麗なフレーズとコードワークがジャズ・ロック的なドライヴ感とともに展開されます。
一方、ヴォーカル曲では、素朴でややメランコリックな歌声が、整ったギターとの対比で独特の味わいを生んでいます[1]。

参加ミュージシャンと制作体制

本作には、後にCrusadersでも共演することになるジョー・サンプル(エレクトリック・ピアノ)、ウィルトン・フェルダー(ベース)、スティックス・フーパー(ドラムス)といったウェストコースト/ジャズ・ロック界隈の一流どころが参加しています。
彼らは特に「With Respect To Coltrane」や「Free Way」で重厚かつグルーヴィなアンサンブルを聴かせ、カールトンのギターをしなやかに支えています[4]。

クレジットを見ると、プロデュースにはエンジニアとしても名を馳せるジョン・ゲス(John Guess)、そしてカールトン自身が関わっており、ギターだけでなく作品全体のサウンド・メイクにも深く関与していたことが分かります。
キーボードの要としてマイケル・オマーティアンがエレキピアノ、オルガン、ピアノ、シンセサイザーを曲ごとに使い分け、アレンジにも参加している点も重要です。
さらに、ジュリア・ティルマンやマキシン・ウィラードら当時のセッション界で活躍したシンガー陣がバック・ヴォーカルで華やかさを添え、ロサンゼルス的なポップ・セッションの空気を強く感じさせます[1]。

  • ラリー・カールトン(Larry Carlton):ボーカル(A1~A3、B1、B2、B4)、ギター全編、ベース(A1)、パーカッション(B4)、ヴィブラフォン(B4)
  • マイケル・オマーティアン(Michael Omartian):エレクトリック・ピアノ(A1)、オルガン(A2)、ピアノ(A2、A3、B1〜B3)、シンセサイザー(B3)、編曲(B2)、ストリングス編曲(B1)
  • ジョー・サンプル(Joe Sample):エレクトリック・ピアノ(A4、B4)
  • ジョー・オズボーン(Joe Osborn):ベース(A2、A3、B2)
  • マックス・ベネット(Max Bennett):ベース(B1)
  • レイニエ・プレス(Reinie Press):ベース(B3)
  • ウィルトン・フェルダー(Wilton Felder):ベース(A4、B4)
  • ジム・ゴードン(Jim Gordon):ドラム(A2、B1、B3)
  • ロン・タット(Ron Tutt):ドラム(A3、B2)
  • ジョン・ゲラン(John Guerin):ドラム(B1)
  • スティックス・フーパー(“Stix” Hooper):ドラム(A4、B4)
  • アラン・エステス(Alan Estes):パーカッション(A3、A4、B2)
  • マイケル・ミルズ(Michael Mills):パーカッション(A1)
  • ジュリア・ティルマン(Julia Tillman):バッキング・ボーカル
  • マキシン・ウィラード(Maxine Willard):バッキング・ボーカル
  • オマ・ドレイク(Oma Drake):バッキング・ボーカル(A3)
  • クリス・ニールソン(Chris Neilson):バッキング・ボーカル(B3)

トラック・リスト

Side 1

  1. イージー・イヴィル(Easy Evil) – 4:57
  2. アイ・クライ・マーシー(I Cry Mercy) – 3:15
  3. ワン・モア・チャンス(One More Chance) – 3:13
  4. ウィズ・リスペクト・トゥ・コルトレーン(With Respect To Coltrane) – 5:53

Side 2

  1. アメリカン・ファミリー(American Family) – 4:03
  2. ウェイヴィン・アンド・スマイリン(Wavin' And Smilin') – 3:01
  3. キャプテン・キャプテン(Captain, Captain) – 3:28
  4. フリー・ウェイ(Free Way) – 6:15

制作背景とエピソード的側面

『Singing / Playing』は、1960年代末にソロ・デビューしたカールトンが、ザ・クルセイダーズのメンバーとして活動しつつ、スタジオ・プレイヤーとしても多忙を極めていた時期に録音されています。
当時、彼はサミー・デイヴィス・ジュニア、クインシー・ジョーンズ、マイケル・ジャクソン、ジョン・レノンなどの作品にもギタリストとして参加しており、まさに売れっ子セッション・マンとして引っ張りだこでした。
そのなかで自身名義のアルバムを制作するにあたり、「セッションの顔」だけでなく「ソングライター/シンガーとしての自分」を提示したいという意識が、この作品の方向性につながっていると考えられます[2][5]。

また、日本盤(ABC Blue Thumb YW-8049-AU)が早い段階でリリースされていることから、日本のジャズ/フュージョン市場でも一定の需要を見込まれていたことがうかがえます。
ハリウッド・サウンド・レコーダーズで録音され、当時のロサンゼルスの一流スタッフとミュージシャンを集めた「職人仕事」として作られたことも、クレジットから読み取れるポイントです[4]。

発表時の反響と特筆すべき点

本作はチャートを賑わせたメジャー・ヒットというより、ギターファンやフュージョン/AORリスナーの間で徐々に評価を高めてきたタイプのアルバムです。
オールミュージックなど英語圏のレビューでは、1970年代初期のフュージョン系ギター作品として、カールトンのメロディセンスとアレンジ力が高く評価されており、特に「Free Way」は現在でも代表曲のひとつとして取り上げられることが多いです[6]。

特筆すべき点としては、次のようなことが挙げられます。

  • カールトン自身がリード・ヴォーカルを多数担当した、数少ないアルバムであること[1]。
  • Crusaders人脈を含む一流セッション陣との共演が、のちのフュージョン~スムースジャズ路線につながる布石になっていること[5]。
  • タイトルどおり、「歌うように弾く」ギター・スタイルがすでに確立されており、後年のSteely DanやJoni Mitchell作品でのプレイにも通じるフレージングの原型が聴き取れること[7]。

現在では、『Singing / Playing』はラリー・カールトンのディスコグラフィの中で、ギタリストとしてだけでなくシンガー/ソングライターとしての側面を知るうえで欠かせない、愛好家向けの一枚として再評価されています。[6]

Citation
[1] http://paraisorecords.com/?pid=125653316
[2] https://music.apple.com/gr/album/singing-playing/1488044050
[3] https://www.youtube.com/watch?v=ho2SnLwti6U
[4] https://www.ziggyrecords.com/product/singing-playing-p181573.html
[5] https://en.wikipedia.org/wiki/Larry_Carlton
[6] https://badtimesrecords.com/shop/larry-carlton-singing-playing/
[7] https://musicaficionado.blog/2018/08/29/larry-carltons-sessions-with-steely-dan-and-joni-mitchell/

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